第七章 124 勇者の証明?
ユニコーンに乗った騎士団に付いて走ること約半日。最初に俺が落とされた場所より低い位置にそのアルカディア王国とやらが存在した。俺が発見された場所は少し小高い丘の様になっていたみたいで、段差があったため、あの場所からは見えていなかったということになる。
王国の入り口には強固な門が設置されており、外部からの侵入は難しいみたいだ。下馬した団長のヒルダが門に向かって呼びかける。
「アルカディア王国騎士団長のヒルダだ。勇者様をお連れした。開門せよ!」
内部に声が届いたのか、その数十メートルはある巨大な門がゆっくりと開く。そして中から門番の女性近衛兵達が慇懃に敬礼した。
「ヒルダ団長ご無事で何よりです。ひょっとしてその女性が伝承にある勇者様なのですか?」
「うむ、美しい見た目をしていらっしゃるが、彼は男性だ。失礼のないように」
「「ハハッ!!」」
男性体でも女性の様に見えるのはこの華奢な体躯と顔のせいだ。毎回初対面の相手には困惑させてしまうな。もう慣れたけど、一々弁解するのも面倒だ。
頭を下げた門番達の間を通り抜けて門をくぐる。門の両側は岩々で、城壁の様な物は見当たらない。周囲を岩山に囲まれた天然の要塞のような造りになっているのだろう。所々に高台が設けられ、外からの異常に備えているみたいだ。悪魔王だっけ? その一味との戦闘が日常的に起きているというのが、なんとなく伝わって来る。魔人、悪魔は何処の世界でも厄介だな。
街自体もあまり規模は大きくない。城もクラーチなどに比べると小ぢんまりして見える。これだけ荒廃した世界だ。大したものは造れないのだろうな。暫く歩くとその城の城門前に到着した。ヒルダの取り成しで城内へと入る。
他の騎士団はユニコーンを厩に入れるために離脱した。ヒルダと副官の水色の髪をしたスノウという騎士と共に城内を進み、階段を昇ったところに玉座の間があった。白髪と白いフサフサな髭を蓄えた王様が座っている。その右隣には大臣かな? それっぽい衣服を着た禿げたオッサンが控えている。
ヒルダ、スノウの二人に挟まれた形で玉座の前まで進む。二人が跪いたのを見て、慌てて俺も跪いた。クラーチのオッサン相手とは違うからなあ、多少は演技をしないといけないか。
「王国騎士団長ヒルダ及びに副団長スノウ、勇者様をお連れ致しました」
ヒルダが王様に告げる。
「騎士団長に副団長、よくぞ無事に戻った。して、あの光の下にいた存在がその赤い装備に赤毛の少女が伝承に伝わる勇者なのか? とても信じられぬが……」
むぅ、勝手なこと言っちゃって。別に俺は勇者って訳じゃないんだが。ただ偶然この神の処刑場に飛ばされた冒険者に過ぎないのに。
「少女の様な見た目ですが、彼は男性です。それにあの地からここまでユニコーンで半日かかる行程を彼は呼吸も乱さず走って来られたのです。発見した時に展開していた結界術も生半可なものではありませんでした」
「……そうであったか。これは失言であったな。儂はこの国の王ギュスターヴである。勇者の名を伺っても宜しいかな?」
「俺はカーズといいます。ですが俺は別に勇者でも何でもありません。ただ偶然この世界に飛ばされてしまった一介の冒険者にしか過ぎません。ただ、困っている人を見過ごすことはできません。俺で役に立つことなら力を貸しましょう。元の世界に戻る手立ても今のところありませんし……」
俺の言葉に少し怪訝な顔をするギュスターヴ。伝承も何も俺は偶々ここに飛ばされただけだしな……。
「ふむ……、この世界が悪魔王の侵略の危機に瀕した時、眩い光と共に勇者が現れ、世界を平和に導くという言い伝えがある。其方が自身を勇者とは思えなくとも伝承がそう告げておる。そしてエルフとドワーフの勇士と共に冒険へ旅立つとも……。勇者が降臨したとの噂を聞き付け、エルフとドワーフの国からも使者が此方に向かっていると耳にしている」
何だそのドラクエやFFみたいなノリは? もうこれ強制イベントじゃん。力を合わせて魔王を斃せってか? 眩い光ってただ俺がぶっ放した魔法のことだろうしな。それにもう他の国に情報が回って使者が来ているとは、この世界どうなってるんだ? ニルヴァーナみたいな通信魔導具があるのだろうか? うん、深いことは考えない様にしよう。これもあのゼムロスのシナリオなのかも知れないしな。
「……わかりました。困っている人々がいるのなら助けたい。でも俺は別に勇者と言う訳じゃない。ただの冒険者です。それでもいいのなら力になりましょう。具体的には何をすれば?」
「うむ、儂はまだ勇者の力がどの程度のものかわからぬ。そこでこの国の一番の英雄と立ち合いをしてもらい、勇者の力を見せて欲しい。日取りはエルフとドワーフの使者が到着してからで構わぬか?」
「……はぁ、別に構いませんが、その勇者という呼び方はやめて貰えませんか? カーズと呼んで下さい。そんな大仰な呼び方をされるのは慣れていないので……」
「わかった、勇者カーズよ。使者が到着するまではこの城に部屋を準備させよう。それまでのんびりと過ごすがよい」
わかっちゃいねえ。勇者って呼ばれたくないんだよ。まあ何を言っても無駄な気がして来た。仕方なく受け入れるか。諦めよう。
その後城内の部屋を宛がわれて、数日そこで過ごすことになった。本当は直ぐにでも元の世界に戻る手がかりを探しに行きたいところだが、あのゼムロスのシナリオでこんな風になっているのなら、このまま流れに身を任せる方がいいのかも知れない。モヤモヤするが、今のままでは手立てがない。大人しく過ごさせて貰おう。
食事は芋が主食の味気ないものだった。荒野の様な世界だから仕方ないのかも知れない。右も左もわからない世界で食いっぱぐれるよりはマシか……。まあ無理に食事を取らなくても魔力があれば問題はないのだが、女性体にはなるべくなりたくないしな。ありがたく頂いておこう。
空き時間が腐る程あるので、騎士団の練兵場で剣術の練習をした。ヴィオレに『借りもののスキル』と言われたことが気になっていた。自分なりの剣の型を創らなければならない。アストラリア流程万能なものは創れないかも知れないが、自己流の剣技を突き詰める必要がある。これはこれからの闘いで必ず必要になるはずだ。今は朧げだが、モノにしてみせる。俺だけの剣技を。
鍛錬のとき、いや、この国に着いてから思っていたことだが、騎士団も女性ばかりだし、若い男性が少ないような印象を受けた。ヒルダに聞くと、長引く魔王軍との闘いで多くの若い男性が命を落としたらしく、兵達も女性が大半になっているとのことだった。世知辛い。このままでは緩やかに国が滅びるだろう。悪魔共に世界が蹂躙されるのは阻止しなくてはならない。別に勇者にされたからとかそういうのではないが、ニルヴァーナでも悪魔は人族の敵だ。滅却しなくてはならない。世界が変わろうともそれは変わらないことだからだ。
こうして鍛錬をしながら約1週間程の時間が過ぎた頃、国王からの呼び出しがあった。どうやらエルフとドワーフの使者が到着したらしい。彼らも一緒に見物する中、王の御前でこの国の英雄とやらと立ち合いをすることとなった。
玉座の間の大広間。確かに広いが、余り動き回ると見物人に被害が及ぶ可能性がある。さっさと終わらせるに限る。国王の側には偉そうにふんぞり返っているエルフとドワーフの一団がいる。それぞれの中心で周りとは明らかに別物の雰囲気を纏った冒険者風の恰好をした金髪ツインテールエルフの女性に、黒い短髪に長い髭を生やしたドワーフの男がいる。彼らがその勇士とか言われている者なのだろうか? まあ今は関係ない。さっさとその英雄を出してもらおうか。
「ではこれより勇者カーズの力を披露する立ち合いを行う。アレクサーにカーズよ、前へ」
「ハッ!」
「……」
前方の人混みから大剣を背負った長めの銀髪で長身の戦士が現れる。鑑定、レベル900。ニルヴァーナならSランク相当の手練れだ。この世界は常に悪魔との闘争が絶えないらしいからな。悪魔相手に立ち回るには充分な腕前ということか……。周囲から黄色い声援が飛ぶ。男が少ない国だしモテるんだろうね。
「このアレクサーは悪魔達との戦闘の最前線で生き残って来た、悪魔殺しの異名を持つ戦士。相手にとって不足はないだろう。勇者カーズよ、その力を存分に見せてくれ」
あーあ、そういうことは言わないで欲しいな。彼の立場からすると気分が悪くなるだろうに。
「フッ、勇者か何だか知らんが運のない。こんな少女の様な者に剣を向けたくはないが、国王の命令だ。手は抜かんぞ!」
「はぁ、よろしく……」
ほらね、いきり立ってるやん。でも俺も負けるのはごめんだ。大剣を両手で構えたアレクサー相手にアストラリアソードを抜く。
「よし、では始め!」
ハゲ大臣がそう言った瞬間、
パキィイイイイイイン!
「アームズ・ブレイク」
アレクサーは棒立ちのまま大剣だけが根元から両断される。まだ何が起きているのか理解できていない、呆けたアレクサーの眼前にソードの切っ先を突き付ける。
「まだやる?」
「くっ……! いや、降参だ……。まるで見えなかった」
シーンと静まり返る城内。剣を引いて背を向け、元いた場所へ向けて歩く。
「く、クソオオオオオッ!!!」
ピシィッ!
俺の背に向けて悔し紛れにアレクサーが投げつけてきた折れた剣を、右手の人差し指と中指で後ろ向きに掴む。まぁ悔しいのはわかるけどさ、神眼で見え見えなんだよね。
折れた剣に魔力を流し、粉々に粉砕する。そのまま振り向き様に女神刀で抜刀術を繰り出し、アレクサーの首元で寸止めする。
「もう一回聞くけど、まだやる?」
「い、いや……、済まなかった。降参だ……」
「嘘じゃないか?」
「あ、ああ……」
その場に尻もちを着くアレクサー。済まないな。悪魔殺しか何だか知らないが、こっちは
「そ、それまで! 勝者、勇者カーズ!」
「「「「「おおおおおおおおおお!!!」」」
静まり返っていた城内に歓声が巻き起こる。
「見事だ、やはり其方は勇者に違いない! 皆の者、やはり伝承は本当だったのだ! この世界は救われるぞ!」
王様がまた煽るから歓声がどんどん大きくなる。勘弁して下さい。別に勇者じゃないから。うなだれていると、見物していたエルフとドワーフの陣営から先程の目立っていた二人が此方へと歩いて来た。そして興奮気味に話しかけてくる。
「素晴らしい腕前でしたわ。私はここから南にあるエルフの国、エルフェイムの姫ルナフレア。
「は、はぁ、どうも」
ぶんぶんと俺の右手を両手で持って上下させてくる。お上品な口調だが、感情が表に出易いタイプなのかな? そして俺の肩くらいの高さの身長のドワーフの男も渋い声で話しかけて来た。
「やるじゃねえか。人間ってのはもっと頼りないと思っていたが、どうやら違う様だ。儂は北にあるドワーフの国、トールキンの王子ボルケンだ。よろしく頼むぜ勇者カーズ」
「あ、ああ、よろしく」
ずんぐりとした筋肉質な体に太い手足、そして大きな手で握手を求めて来るので、残った左手で握手をした。握力強いな。背中には身長ほどもある巨大な両刃のバトルアクスを背負っている。うーむ、ドワーフの武器はやっぱ戦斧なのか……。
「ちょっと、私が挨拶をしているのに割って入らないで下さるかしら? これだから無作法者のドワーフは……」
「なんだぁ? 儂は強者を称えているだけだ。これだから高慢ちきなエルフってやつは……」
バチバチと二人の視線が火花を散らしている。あー、これはあれだ、この世界ではエルフとドワーフは仲が悪いんだな。
「よしよし、ここに悪魔王討伐の精鋭は揃った。人族、エルフにドワーフの勇士達よ、機は熟した。伝承に従い、我等は勇者とその仲間達を支援しよう。旅立つのだ、勇者達よ!」
「「ハハッ!!!」」
「……」
ルナフレアとボルケンはすっかりその気になってるな……。はあ、いきなり旅立てと言われても何処に行けばいいのやら? 俺が難しい顔をしていると、突然玉座の間に黒い空間の歪みが現れた。これは異次元のゲートか? そしてそこから白い装備に身を包んだ女性が床に投げ出される様に落下して来た。場内に緊張が走る。誰だ?! 明らかに俺と同じ異世界から飛ばされて来た存在だ。
「痛たたたた……。あれ、ここどこ?」
腰をさすりながら立ち上がったその女性を見たことがある。白いバトルドレス。明るい亜麻色のロングヘアに美しい翠眼……。
「ん? え? 何で? カリ、カーズなの……?」
そうだ、ついこの前バルドリード公国の学院に潜入調査をした時に彼女と出会った……。それがなぜこの神の処刑場に飛ばされて来るんだ? これもゼムロスが企んだことなのか?
「リ、リーシャ? 何でこんなところに……?!」
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勇者として勝手に称えられたかと思ったら、まさかの元の世界からの闖入者が?
今回のイラストノートはこちら
https://kakuyomu.jp/users/kazudonafinal10/news/16818093078661105685
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