第七章 126 僅かな希望


 最後尾で羽搏いているマモンと接敵する。大半の敵を粉砕し、一気にここまで詰めて来たことに驚いた顔をしていやがる。


「テメーがマモンか? ここに何しに来やがった?」

「ク、ククク、よくぞ来たな勇者よ。貴様がこの世界に現れたと神託があったのだ。我らの邪魔となる存在の貴様をさっさと滅ぼしてしまえば、この世界は俺達悪魔のものだからな」


 鋭いくちばしに牙が生えた口、ぎょろりとした血走った目で此方に言葉を吐いて来る。


「はっ、血走った目しやがって。徹夜でテトリスか? だが残念だったな、俺は別に勇者なんかじゃない。その神託とやらの正体が勝手にこの世界でそういう設定にしてるだけだ。四天王とかダセー役職しやがって、悪魔風情が。だがここで俺に会った時点でお前の死は絶対だ。どの世界においてもテメーら悪魔は害悪でしかない。見つけ次第滅却する」


 ジャキッ!


 女神刀を抜いて切っ先を突き付ける。


「クカカッ、貴様は神の僕らしいがここでは神気は使えまい。神気の使えない神の使い如き俺の相手ではないわ」

「バカが、悪魔程度に神気もクソもあるかよ。そんなものがなくともテメー如きに負けるはずがねーだろ。取り敢えずは鬱陶しい、落ちろ」

「何? ぐ、うおおおおおおっ!?」


 高速の剣技で両腕に生えている翼を切断した。そのまま地面に落下するマモン。それに合わせて俺も地面に降りる。


 ドカアアアアッ!!!


「ぐはっ?! い、いつの間に俺の翼を?」


 起き上がったマモンが喚く。


「見えなかったのか? 今のは左右からの同時二連撃。蟹の爪に切断された様なもんだ。まさかもう終わりじゃないだろうな?」

「ぐ、うぐおおおおおあああ!!!」


 超速再生か。切断した翼が腕から生えて来やがった。神気で陽子ようしを破壊できないとこういうのは厄介だな。それでも再生で力をかなり使った様だ。そう無限に再生できるという訳ではないってことか。


蜥蜴とかげたこと同じだな。そんなに翼が惜しいのか? だったら飛ばせてやるよ」

「何ィ?! うがっ?!」


 距離を瞬時に詰めてふくろうの頭を右手で掴む。


グリフォン神獣のフラップ羽撃き!」 


 そのまま魔力を中枢神経に撃ち込み、上空高く放り投げる。


「ぐはあああああああっ!!!」


 ドゴオオオオオ―――ン!!!」


 見えない程の高さまで撃ち上げられたマモンは勢いよく地面に落下した。その場にクレーターが出来上がる。


「ガハアッ! な、何だ、この圧倒的な力は……? こいつは神気が使えないのではなかったのか?!」


 濁った緑の血を吐きながら立ち上がり、マモンが吠える。


「残念だったな。神気なんてものは神気を使える相手とやりあうためのものに過ぎん。テメー如きに使うまでもねーよ」

「チッ、ならば俺様の魔法を受けろ!」


 マモンが合わせた両の爪の間に黒い魔力の塊が集中していく。神眼発動、見た目通りの闇の魔力か。


デビルズ・レイ悪魔光線!!!」


 ギュアアアアアアッ!!!


スペル・イーター魔法喰い


 広げた右掌の先に魔法陣が展開される。それが奴の魔法を全て飲み込み、俺の魔力へと変換される。


「バカな、俺の極大魔法が吸収されるとは……?!」

「無駄だ。お前程度の魔法ではどうにもならん」

「ならば見せてやろう。このマモンの奥義を! 展開しろ、固有魔法結界!」

「むっ?」


 奴を中心に周囲の世界が変化していく。なるほど、これがデウスエクスマキナがやったという固有魔法結界か? 面白い、見せて貰おうか。荒野だった周囲の世界がまるで熱帯雨林のジャングルの様な景色に上書きされた。そして俺の周囲を大量の梟に狼、大蛇が取り囲む様に集まって来た。


「これが俺の心象風景。野獣森林ビースト・フォレストだ。さあお前達、そいつを食い破ってしまえ!」


 ザヴァァッ!!! ズザザザザザシュシュッ!!!


 四方八方から飛び掛かって来た野獣共を、左手一本、超高速の剣技で切り刻む。約5分程で球切れとなったのか、野獣達が襲い掛かるのを止めた。目の前のマモンはかなり疲弊している。どうやら相当に体力や魔力を消耗する技らしいな。俺もその内使うとするなら気を付けて使った方がいいな。必勝の場合以外は此方にも反動が来る諸刃の剣だ。


「バ、バカな……! 数万の野獣の大軍をたった一本の剣で切り伏せるとは……!」

「もう気は済んだか? じゃあこれからは質問だ。テメーらの本拠地は何処にある? ゼムロス、神託とやらの内容、悪魔王達の情報を吐け」


 悪魔のくせに何が神託だ。ふざけやがって。こいつら程度を滅却させるだけで帰れるのなら速攻で終わらせてやる。みんなが待っているんだ。


「フ、ククク……。バカめ、そんな簡単に口を割るとでも、う、ぐあああああっ?!」

「魔眼解放・テンプテーション魅了。素直に吐くとは思ってねーよ。体の自由は封じた。魔眼の効果でお前は嫌でも話さなくてはならん」

「うぐおおおおおあああ!!! き、貴様が口にしたゼムロス様が、貴様を、勇者を斃せば、俺達を魔神にしてくれると言ったのだ……」


 ほう、そんなしょうもない取引に応じたのか? アホだな。


「ま、魔軍は、ここミズガルズ大陸の東、大海エーリヴァーガル嵐の海を超えた先、ヘルヘイム大陸の中央にある。だが、エーリヴァーガルを船で越えようにも、今迄誰一人として人族が魔王城パンデモニウムに辿り着けたことはない。俺達四天王を斃さなければ、城の結界は解けん。し、所詮貴様ら人族が我等魔軍に勝つことなどできぬのだ!」


 ほほう、どこも神話の地名やらで構成されているみたいな世界だな。これもあのゼムロスの趣味ってことか……。まあ、海は最悪飛翔して渡れば問題ないだろう。さて、他の戦力を聞いておくか。


「魔軍の戦力は? 他の四天王に悪魔王とやらはどいつだ?」

「ガハアアアッ、し、四天王はこの俺、貪欲のマモンに嫉妬のレヴィアタン、怠惰のベルフェゴールと色欲のアスモデウス……、悪魔王は憤怒のサタン様よ、うぐっ、がっ、か、身体が動く?」


 七つの大罪勢揃いってか? 残りは斃した暴食のバアルゼビュートにスパイをやっている傲慢のルシキファーレってとこだな。おもしれえ、ファーレ以外の大罪はここで全てコンプしてやるとしよう。


「なるほど、要は四天王を全員ぶっ斃してサタンを討ち取ればいいってことだろ? まあ、斃さなくても悪魔の結界程度ぶち抜いてやるがな」

「お、おのれ……! よくも俺様を操ってくれたな……!!!」

「その程度の抵抗すらできない奴が四天王とはな。てか今時四天王とか恥ずかしいんだよ。さあ、どうする? お前はどうせここで終わりだ。言い残すことはあるか?」

「おのれえええええええ!!! 喰らえ! デビルブレス悪魔の咆哮!!!」


 キィイイイイン! ゴアアアアアアアアッ!!!


 龍の息吹ドラゴンブレスと似た様なものだが、瘴気のブレスか。躱すまでもないな。体を覆っている魔力の鎧装を一回り大きく展開する。それだけで奴のブレスは俺の身体の周囲をすり抜けて行った。


「な、な、ななななっ!? なぜだ?! なぜ瘴気の集約されたブレスを受けて平然としている!!?」

「魔力鎧装ガイソウ。俺の身体とその周辺には常に高密度の魔力の鎧が張り巡らされている。上位の冒険者なら当然のことだ。そんなことも知らなかったのか? なら今のが遺言でいいな? ならば受けろ、神の剣技を! 神刀技しんとうぎ!」


 ザキィイイイイイン!!! ドンッ!!!


「ガ、グギャアアアアアアアアアアアッ!!! サ、サタン様あああああ!!!」

九頭龍クズリュウ!」


 八方向からの同時斬撃。トドメは分厚い胸板を食い破る程の突きだ。マモンは灰になって消え失せた。同時に展開されていた固有魔法結界も消滅、残された魔軍は司令官を失って散り散りになって逃走して行った。


 キィーン!


 納刀してから振り返り、俺はアルカディア城に向けて歩を進めた。



 ・


 ・


 ・


 

「あ、戻って来た! カーズ!」


 戻って来た俺にリーシャが手を振って来た。後方は別に問題はなかったか。先ずは一安心かな。


「もう四天王を片付けたんですの? さすが私が見込んだだけのことはことはありますわね……」


 空の魔物に多少は梃子摺ったのか、ルナフレアは疲れた顔をしているな。そして魔物を追い払ったボルケンも声を掛けて来る。


「さすがカーズだ。俺の目に狂いはなかったぜ。しかし、あの大軍をほぼ一人で片づけてしまうとは……。敵じゃなくて良かったぜ」

「いや、あれの三倍以上いたら難しかっただろう。此方を舐め腐ってくれた悪魔に感謝だな」

「ふん、あなたに言われずともカーズの実力はわかっていましてよ」

「いちいち突っかかるんじゃねえよ。これだからエルフは……」


 そうだった、こいつら仲悪いんだった。まあ気にする程度じゃないけど。命を懸けて闘う時にはちょっと困るかもしれない。


「もう、二人共仲良くしようよ。折角敵は退けたんだしさー」

「そうだな、これから一緒に東の大陸の魔軍の本拠地に行くんだ。種族間のいざこざは今は押さえてくれると助かるかな」

「ま、まあお前さんがそう言うなら仕方ねえな……」

「そ、そうね、些細なことですわね……」

「じゃあ握手しよー。これから一緒に冒険するんだしねー」


 リーシャが明るくそう言ったので、二人は渋々握手をした。彼女の明るさが今は頼もしいと思う。そうやってお互いの健闘を称えていた時だった。


「な、なんですの?!」

「こ、これは?」

「次元の歪?!」


 俺達の側の空間に小さな亀裂が走った。向こう側には青々とした世界が垣間見える。だがここを通り抜けるには余りにも亀裂が小さい。広げようにもディメンション・ブレイカーは神気がないと使えない。


「そうだ! ならこれを……」


 異次元倉庫ストレージから取り出したアストラリアリングに俺の魔力を思い切り込めて、次元の亀裂の中に投げ入れた。これがニルヴァーナに通じているかはわからないが、これは所謂賭けだ。向こうに通じているなら、いや、他の世界に通じていれば世界を見れるアリアやゼニウスのオッサンが気付くかも知れない。リーシャも元の世界に戻さなくてはならないしな。


「あ、もう閉じるよ!」


 シュゥゥゥ……


 リーシャがそう言ったと同時に亀裂が閉じた……。だがこれで何かの手掛かりにはなるかも知れない。頼む、俺はちゃんと生きているから、誰かに届いてくれ……。  

 


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マモンとアモンを混同してました。

アモンは以前三章でサタナキアと一緒に斬ったんだったw

今回のイラストノートはこちら

https://kakuyomu.jp/users/kazudonafinal10/news/16818093079747672667



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OVERKILL(オーバーキル)~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~ KAZUDONA @kazudonafinal10

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