第三章 40  試験最終戦




  やっと来た出番だ。舞台に飛び乗った俺にもありがたいことに声援が飛んでくるんだが……。


「あいつが邪神殺しだろ? 女みたいだなー」

「それパレードのときにも思った!」

「でも途轍もなく美しいわ!」

「貴族姓が姫と同じだぞ?!」

「ということは……、マジかよー」


 などと、まあいらん野次も聞こえてくる。ったく誰だよ……、その呼び名考えた奴は。あのハゲ長男か? 確かに俺の称号にも加わっていたけどさー、まるで俺が悪い奴みたいなんだよな。徐々に大きくなる邪神殺しコール。

 いやーこれはマジでやめて欲しい。早速パパさんに役に立ってもらおうか。


義父とうさん、あの不名誉な二つ名呼びを止めさせてくれよ、声が大きくなる魔法かけるから叫ばなくていいし)


 通信・念話のスキルについては、アヤの念話の話をしたときに伝えてある。すぐに返事が返ってきた。


(うむ、大切な我が息子の頼みだ。任せておけ!)


 舞台からラウダー・ヴォイス声量増加をかける。無茶苦茶言わなければいいんだけどなあ。


「「「観客諸君、私は国王フィリップだ。カーズはこの国を救ってくれた英雄にして、私の愛する息子も同然! 二度とそのような不名誉な二つ名で呼ぶことは許さん! 応援するのであれば勇敢な彼の名を呼べ! これは王命である! そしてこれは全王国民にもお触れを出す、破ったものは禁固刑は免れぬと思うように!」」」


 うん、やっぱやり過ぎ……。それに持ち上げ過ぎだが、御陰で一瞬にしてあの不名誉な二つ名では呼ばれなくなった。変なオッサンなんだけど、国民には慕われてるんだよな。今はカーズコールだ。これはこれでむず痒いんだが、さっきのよりは万倍マシだよ。


(ありがとう、義父さん。もう充分だ)

(いや何、役に立ったのなら何よりだ。明日にはお触れを出しておくからな)

(あ、あー、うん、助かるよ……)


 そこまでしなくてもいいんだけど。まあとりあえずはOK、逆側からのそのそとザコジャイが上がって来る。こいつにはブーイングが容赦なく飛ぶ。他の悪党どもは壊滅したし、こいつもやられると思ってるんだろうね。相当悪さをしてきたんだろう、もう観衆は敵意丸出しだ。


「くそっ、どいつもこいつも使えねえな……」


 なんかブツブツと悪態をついてるな…、うむ、こいつに勝手に喋らせておくだけでもへし折れそうだ。頭を使おう。さあ、自分の汚い内面をみんなに聞かせてやれ。ラウダー・ヴォイスを隠蔽して撃ち込むが、全く気付いてはいない。


「「「くそっ!! 役立たず共が!! 邪神殺しの一味にあっさりやられやがって!! ん!? 何だこれは!? 俺様の声が勝手にこんな大声に!? テメエ、邪神殺し! お前の仕業だな!?」」」


 早速墓穴掘ったな。しかも王命2回無視、禁固刑は確定だ。


(おーい、義父さんー、こいつもう2回も王命無視したぞー)

「「「早速王命無視とは、貴様は試験終了後に即刻捕縛させてもらうことにする!」」」


 こっちもまだ大声のままなんだよ。国民とその王の前で堂々と王命無視。どの道こいつは終わりだ。観客からの嘲笑にブーイングが飛び交う。こういうのは上手く使っていかないとな。


「「「邪神殺し!! テメエ、俺様に何をしやがった!?」」」

「何もしてないぞ。お前が勝手に大声で喋ったんだろ? しかもまた王命無視だ。どんどん刑が重くなるんじゃないのか?」


 嘘だよ、逃げ場を失くすためにやってるんだから。


「「「貴様ー、又しても王命を無視か!! 我が息子カーズよ、天誅だ。直々に裁きを与えてやって構わんぞ!!」

(OK、もういいよ、ありがとう)


 ひらひらと笑顔で手を振っておく。


(うむ、気を付けるのだぞ。あの手の輩は狡猾だからな)


 さて、国王の方の魔法は切っておこう。もう既にこのザコには更なる大ブーイングだしな。まあこんな奴が如何に策を弄しようとも、全て正面から叩き潰してやるけどね。


「では、Aランク昇格試験、最終試合、始め!!!」

「「「この野郎……、汚ねーマネを!!」」

「いや、俺は何もしてないだろ? いつまで大声で喚いてんだ? うるさいぞ」


 俺の声も奴のラウダー・ヴォイスを通じて観衆に聞こえるような適度な音量になっている。さあどんどんと墓穴を掘っていけ。


「「「テメエのせいだろうが!! いいだろう、王命なんざ知るか!! ボロ雑巾にしてやるぜ!!」」」


 では早速、構えをとるザコシーを鑑定。へえー獣魔拳闘士ね。格闘技+魔法少々って程度だな。なら剣は抜く必要ないか、同じ土俵でやろう。ドラゴングローブも危ないから外して異次元倉庫に入れる。


「「「ぶっ殺してやるよ、邪神殺し!!!」」」


 先ずは誘導尋問的に勝手に喋らせてやるか。


「ザコッシー、お前のレベルはいくつなんだ?」

「「「はあ!? そんなん知ってどうする?! ははー、お前鑑定も持ってねえのか!?」」」


 てことはこいつは持ってるってことだがCか、それじゃ俺の情報は間違って視えてるな。どう視えてるんだろうかね?


「いや、持ってるよ、お前112だろ? で、獣魔拳闘士ってジョブ。魔法と体術の獣人ってとこか?」

「「「なぜそこまでわかる!! いいだろう、俺もテメエの鑑定してやるぜ!! ああん?! レベル10!!? 舐めてんのか!!?」


 ほーう、そういう風に視えてるのか(笑)


「あ、悪い悪い、鑑定Cじゃそんな風にしか視えないよな。偽装フェイクSと隠蔽いんぺいSも解いてやるから。ほら、いいぞもう一回視てみろよ」

「「「はあああああ!!??? レベル1750!!?? そんな人間がいるのか!!?? しかも何だその神魔法剣士ゴッドルーンセイバーってジョブは!! 聞いたこともねえ!! それにそのステータス!! 全部1000を超えてるだと!!?? スキルも見たことねえものばっかりだ!!」」」


 よく喋ることで。


「お、視えた? じゃあもういいな、悪いけど降参してくれよ。俺これでも元教師なんだ。弱い者イジメしたくないんだよ、お前みたいにさ」


 観客からはザコッシーの小物反応にいちいち笑いが起こる。わざわざ俺の情報まで口にせんでいいんだけどな。


「「「わかったぞ、ハハハッ!! それも偽装フェイクだな!! そんな人間がいるわけねえ、騙されてたまるか!! この嘘吐き野郎が!!!」」」


 こういう奴って本当に都合のいい頭してるなあ。


「じゃあ同じ土俵で、俺も体術で勝負してやるよ。ならお前の鳥頭ならぬ犬頭でも理解できるだろ? でもさ、お前色々聞いたけど、同じ冒険者の新人潰しとか弱い奴イジメして楽しいのか? 強い相手と闘う方が楽しいと思うんだけどな?」

「「「楽しいに決まってんだろ!!! 弱えー奴はやられて当然なんだよ!! 弱えーのが悪い!! そういう奴らは所詮俺のエサなんだよ、ハハハハ!!!」」」


 こいつはもうラウダー・ヴォイスを忘れてるな。こいつへのブーイングがどんどん酷くなっていく。その御陰で俺への応援は逆に大きくなっていく。


「それ、自分がその立場に立っても同じことが言えるのか? 俺は改心して今までの悪事を相手に謝ってくれたらそれでいいと思ってるんだけどな」

「「「改心だと??!! 弱え奴が悪いんだろうが!!! 俺が悪いとでも言いてえのか、ああ!!!」

「だからさっきからそう言ってるだろ? それに周りの反応からして、お前が悪事を働いて来たのは明白だろ?」


 同時に野次が飛び始める。


「そうだそうだ! いつも店荒らしやがって!!」

「子供を甚振ってたのを見たことあるぞ!!!」

「ウチの娘はこいつに攫われたんだ!!! 口封じされて言えなかったんだ!!」


 等々、取り上げると切りがない。うわあ……、これは酷いな。殺してもいいような気がしてきた。見えないところでも色々やってきたみたいだしな。


「ほら、お前が悪いってさ。多数決でお前がギルティ。言い訳はあるか? あと何人の人をそんな目に合わせてきたんだよ?」

「「「うるせえ!!! やられる奴が悪いんだよ!! 何人だあ??!! 覚えてる訳がねえだろうが、バカかテメエは?!」」」


 まるで誰かのパンを食べた枚数発言だ。コイツは根っから腐ってるな。もういいか、ぶっ飛ばす大義名分は我にありだ。容赦をする必要もない外道。俺はこういう奴らが許せないんだ、なあ父さん……。


「もう、わかった……。お前のルールでやってやる。弱い方が悪いんだったな? なら負けたらお前がやってきた行いは全て悪い。最早犯罪者だ。死んでも文句言うんじゃねえぞ、ド三下。よくまあ国王の前でそんだけ吠えたな。今からは断罪の時間だ……」


((クレア、レイラ姉、こいつは犯罪の自白もした。終わったら重罪で捕らえてくれ。生きてたらな……))

(カ、カーズ?! わ、わわわかった……!)

(は、はい! カーズ殿!)


 まずいな、俺のムカムカが伝わってしまったみたいだ。だが収まりそうにない、何かがおかしい……。


「お前を更生するのは無理だと理解できた。合法的に潰してやる。合わせてやるから感謝しろよ。ほら来い……」


 素手で下から指で来い来い、と挑発する。何だ? やはり変だ……。怒りが心を塗り潰していく……。




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 VIP席。PTメンバー達は、カーズのあからさまな誘導尋問にかかってペラペラと非道なことを喋ったザコジャイに対し、同情というよりも憐れみを感じていた。


「あいつ死んだな……」

「あーあ、カーズを怒らせるとか、馬鹿過ぎでしょ」

「自分のことより、そういうことの方が怒る性格だから……」


 エリック、ユズリハ、アヤの三人が次々に口にする。


「ですがあれは怒って当然でしょう。先程の念話から殺気が伝わってきて身震いしましたよ!」

「ああ、私もだ。我が弟カーズ、絶対に怒らせてはならない! いいですね、父上!」


 クレアにレイラも国王に言い聞かせるように口にする。


「お、おお、既に謁見で殺気を向けられておるしな……。あのときは死んだと思ったよ。だが、それ程の正義感がある素晴らしい息子を持った気分だ」


「次はオヤジの番かもしれねーぞ(笑) 利用したりすんじゃねーぞ」


 なぜか子供達に集中砲火を浴びる国王フィリップ。


「とりあえずヤベえときは止めに入るぞ……、ユズリハ」

「そうね……、普通の人じゃ近づけもしないだろうし」

「うん、そのときは私も止めに入る……。いつも冷静なんだけど、血が上ると暴走しちゃうから……」


 アヤは前世からそれを知っている。だからこそ、その時は自分が止めるという覚悟をした。




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「「「剣士が素手で?! バカなのかテメエは!! いいだろう、その女みてえな顔みたく泣かせてやるぜ!!!」」」


 無策で突っ込んで来るザコジャイ。


 すっ、ピタァア!


 繰り出した右拳はカーズの左の人差し指のみで止められる。


「「「なあっ!! 指一本で俺様の拳を?!! だがバカめ! 喰らえ!!」」」


 手に装着している鋼鉄のナックルから鋭いカギ爪が飛び出す。


 バキィイーン!!!


 だがカーズの魔力ヴェールに簡単に砕かれる。そしてそのツメの一本を拾い上げる。


「なるほど、麻痺毒が塗ってあるのか。お前に似合いの汚い武器だな」


 バキン、とツメを握り潰す。


「「「何だ……、その魔力のオーラは?!!!」」」

「馬鹿が、前の三人も薄っすらと魔力で体を覆って身体強化に防御壁を張っていただろう。所謂魔力鎧装まりょくがいそうっていうやつだ。こんなのは当たり前だろうが。お前は炎に裸で突っ込むのか?」

「「「くっ!! うるせえ!!」」」


 ぱしっ!


 爪を避けて左拳を右手で受ける。


「じゃあ、先ずは左手から貰うぞ。やられる方が悪いんだったよな?」


 バキバキ!! メキメキメキィ!!


 左手の骨が砕ける音が響く。


「「「ぐぎゃあああ!!! 痛い痛い!! 放せ!! 放せええええ!!!!」」」

「人にものを頼むときは丁寧にお願いするのが礼儀だろ? 子供のときに習わなかったのか?」


 バキバキバキィ!! ゴキゴキベキィ!!


「「「ぎゃああああ!! ヤメロ、ヤメテくれえええ!!!」」」

「20点だが、まあいい。放してやるよ、どの道もうその手は二度と使えないけどな」

「「「なにィ!!! って何だ、砕けた手が凍結している!??」」」

「絶対零度って知ってるか? 馬鹿犬」

「「「な、なんだそれは?!!!」」」

「摂氏-273.15℃、あらゆるものを構成する全ての物質がその動きを止める温度のことだ。その左手は一生そのままってことだよ。どんなことをしても絶対に溶けん。その内根元から腐って落ちる。お手をするなら右手でするんだな。じゃあ残りは右手に両足、格闘術ならまだ闘えるだろ?」

「「「くそがああ!!! 当たり前だ!! 喰らえええ、格闘技・流星蹴り!!」」」


 距離を取ってから放ってきたのはただの右足での飛び蹴り。魔力も大して乗っていない。


「アストラリア流格闘スキル」


 軸足にした右足が舞台にめり込む程の遠心力を込めた左足裏での強烈な回し蹴り。肉体全て粉々になるため、魔力は一切込めていない。ペガサスが艶やかに舞うような流麗な蹴りだ。


天馬絢舞脚てんまけんぶきゃく


 ゴギャアッ!!!!


 ザコジャイの、カーズには止まって見える飛び蹴りに軽くカウンターを合わせるように炸裂する一撃。手加減しているとはいえザコジャイの右足は丸々一本粉々になる。その骨が砕ける音が響き渡る。


「「「お、俺様の足がああ!!! な、なんだ今の技は!!??」

「ただの回し蹴りだ。あれが流星とは……、あまりにものろまで隙が大きいから反射的に出してしまったんだよ。でもやられたお前が悪いんだよな? それを認めるなら治してやるが……。どうする?」

「「「く、くそっ!! わ、悪かった!! だから足、足を治してくれ!!」」」

「はあ、わかったよ、ヒーラ! 右足だけだ、もう立てるだろ?」

「「「バカか!! 本当に治すとはな、喰らえ!!」」」


 治してもらったばかりの足で再び大振りな蹴りを繰り出すが、カーズはうんざりした顔で後ろへ飛んで躱す。


「まあ、そうくると想定済みだけどな。本当にするとは、もう小物が過ぎるだろ。よくAランクに上がれたな。どうせ汚いことでもやったんだろ?」

「「「ハッ!!! 覚えてねえな、ちょっとやり合ったら勝手に降参したんだよ!!! まあそうなるようにそいつの恋人を人質にしてたからな!!」」」

「やっぱりか……。おい、ギルマス! 今の証拠は忘れるなよ!!」


 パウロはカーズの圧力に驚きながらも頷く。


「「「今更遅えよ!! テメエの大事そうにしてた姫さんも後で同じ目に遭わせてやるからな!!! 邪神殺しぃ―――!!!」」」

「……今、何て言った……?」


 ゴオオオオオオオ!!!!


 カーズの体から勝手に黒く禍々しい魔力が噴き出し、竜巻の様に立ち昇る。同時に真紅の髪の毛が真っ黒な漆黒の闇の様な色へと変わっていく。


(だから言ったであろう……、邪神とはいえ神殺しがどれほどの大罪であるかと……)


 




 

 心の奥底から声が、おぞましい響きの前世の自分自身の様な声が聞こえるような感覚がした……。



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おっと、これは・・・?

いつも読んで下さる方々、ありがとうございます!

ちょっと不穏な感じになってしまいましたが、お陰様で40話! 42話分です。

これも皆様の御陰でございます! 今後ともよろしくお願い致します!

続きが気になる方はどうぞ次の物語へ、♥やコメント、お星様を頂けると喜びます。執筆のモチベーションアップにもつながります! 

一話ごとの文字数が多いので、その回一話でがっつり進むように構成しております。

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