第三章 39  アヤの闘い・鮮烈デビュー戦




 場内は何だ? 何でだ、と騒ぎ始める。そりゃそうだろ、登録試験なんていつもやってる程度のことだろうし。こんな中で受けさせるなよな。パンチパーマの筋肉達磨をジロりと睨んでやる。ド田舎のヤンキーのガンたれを喰らえ。


「う……、すまない、カーズ。Aランク試験が終わるとどうしても観客が散ってしまう、だから姫のデビューのお披露目は間に入れることになってしまってな…」


 ハハーン、なるほどー。今度はジロりと王様を睨んでやる。ド田舎のヤンキーの(以下略)


「ハハハ! そういうことだカーズ、許せ。それに其方がトリを飾る方が盛り上がるだろう!」


 やっぱこのオッサンか……、もう調子良すぎて尊敬するよ。


「武器の扱いと魔法のテストの2つだろ、どうすんだよ?」

「ど、同時進行だ……!」


 申し訳なさそうに言うパウロ。どもってるじゃねえか。目も泳いでるぞ。


「またかよー。王様さー、そういうの職権乱用って言うんだぞ。国営だったとしてもそういうあからさまな根回しはまずいだろ?」

「王様ではない、お義父さんだぞ、我が息子よ」

「あー、うん。もういいよ、パパって呼んでやるよ……」

「うむ、その響きもなかなかの新鮮さがあるな……」


 ダメだこりゃ……w


「まあまあ、俺らも折角だし大観衆の中で見たいしよ。な、我が弟カーズ!」

「そういうことです。アヤの晴れ舞台、それくらい派手でなければ、ね、我が弟カーズ?」

「はあ、アランにレイラ、あんた達もかよ……。それ流行ってんの? アヤ、大丈夫か?」


 神格で能力が大幅に強化されているとはいえ、レベル的にはまだ30に満たない。心配にもなる。この大観衆だしな。ていうかここの観衆みんな仕事はどうしたんだよ? 暇なの?


「うん、このくらい国民の前で挨拶したりするのに比べたら全然平気。それに、これであとはあの犬だけになるしね」


 殺る気満々だ……。もうこうなったら止めても無駄だな。装備の確認をするアヤを見る。


「そっか、まあ仕方ないけど。怪我だけはしないでくれよ」

「心配し過ぎだって。サッサと片付けてくるからね」


 ノリノリだな。そう言って俺をギュッと抱きしめてくる。可愛いので俺も抱きしめ返してしまう。


「ハイハーイ! イチャイチャはあとでー、アヤちゃん容赦しちゃダメだからね!」


 おい煽るなユズリハ、エリックもうんうんと頷いているし。


「アヤ様、ご武運を!」


 クレアはまるで戦国武将だなー。


「アヤー、ギリ殺すなよー!」


 エリック……、もういいわ。ノイズ・コレクト雑音・音声収集で残りの悪党二人の声を聴いてみたが、さすがに動揺してるな。青髭オネエはオホホさんがやられて、さっき担架で運ばれていったけど、ショックみたいだな。これから戦う奴の顔じゃない。ザコシーはうん、イラついてるな。俺も犬っころ相手はお預けだし、仕方ない。舞台へ向かうアヤの背中を見送る。アレもあるし、負けることはないだろうけどね。


 舞台の上で顔向けする二人。アヤは強い目でネタミラを睨みつけている。めっちゃガンつけてるなあー、これ絶対俺の悪影響だわ。そのネタミ野郎は、まだ軽くショック状態だな。巻かれてた長いものがなくなったんだし仕方ないが、生憎こいつらの事情なんてどうでもいい。アヤが無事なことを祈ろう。神格に加え、装備補正や武器性能の差はあるが、レベルは向こうが上だし。実戦経験の差とかも出るかもだしな。

 だが、愛する人の初陣だ、俺が信じないでどうする!


「アヤって、アーヤ姫だよな?」

「改名したって号外で見たぞ!」

「もう姫様辞めちゃったのかー、俺ファンだったのにー!」

「アーヤ姫に変わりないでしょ! 応援しよ!!」


 外野のひそひそ話が、やがてあの念話のときの様な大声のアヤコールに変わる。あのときもそうだったが、やっぱ大人気だな。もう完全にこちらのホームだ。


「我が弟カーズ、心配することはありませんよ。私も幼い頃から剣の鍛錬をつけてきたし、魔法はこの国の誰一人としてあの子に敵わない。アリア殿やユズリハは別次元だが……。この国での『魔法の天才』の二つ名は伊達ではないのよ」


 まあ負けることはないとは思うけどね。レイラも弟ってそんなに呼びたいの?


「うむ、そうですな。久方振りに見ることができると思うと、何とも胸が高まりますなー」


 あ、オロス。静かにしてたから忘れてた。アンタが一番まともそうなんだからな、ツッコミ代わってくれよ。


「ボコるとこ見てようぜー、我が弟カーズ! アヤはスゲーぞ!」


 アラン、ノリノリだな。我が弟カーズって流行ってんの? まあこの二人は今や義兄に姉だ。それに最初から好感が持てたしな。悪い気はしない。


「そうだな、俺も応援するか。アヤー! 頑張れー!」


 こっちを見てウインクしてくれた。落ち着いてるな。まあじっくりと見ることにしよう。そう言えばネタミ野郎のジョブは何だ? 鑑定、重戦士ね、背中に背負ってるのは盾か、武器は片手剣、長目だしロングソードってやつか。女みたいな鎧のデザインだな、うん、キモイ。もう見るの止めよう。


「では、始め!」


 登録試験だし、最初は剣を合わせてからだったな。互いに武器を抜く。そしてその剣をアヤが合わせようとしたとき、ネタミラはそれを無視していきなり右側から斬りつけてきた。


「死ね死ねぇえええ!!!」


 ガイィン!! パアーン!!!


 だがもう待っていたかのように、アヤの左手の籠手と一体になっている黄金のマジックバックラーにあっさりと弾かれる。そしてその衝撃で後ろへ吹っ飛ばされた。観客からはネタミラへのブーイングとアヤへの歓声が飛ぶ。


「なんなの!? その盾はあ!!」

「今のが挨拶なんだ? やるかもとは思ってたけど、本当にやるとはね。ルールも守れないの?」


 アヤは青髭の質問は無視して話し始める。


「質問に答えなさいよ!! お姉様の仇はとってやるわ!」


 いや、死んでないだろ……。


「挨拶もできないような人、人なの? いやそれ以下の愚物に答える理由などない!」


 おお、王族モードだ。あの喋り方は威圧感あって戦闘向きだな。


「で? 仇とは? 死んでないでしょう。私の大切な仲間を侮辱しておいて何を偉そうに。ユズリハも言ったように冒険者なら実力で語るのみ! 私は逃げも隠れもしない、いくらでもかかってきなさい!」

「黙れ黙れええ!!! そのお上品ぶった綺麗な顔、妬ましいいいいい!!! 傷だらけにしてあげるわああ!!」


 さっきのショックとか怒りで全然冷静さがないな。バーサーカー狂戦士かよ。あんな状態じゃあ誰でも攻撃が単調になる。御しやすいことこの上ないだろうな。それにやっぱ妬ましいんだ、名前の通りじゃん。


「醜いこと、できるのならどうぞ」


 ギィン! ガィン! パァーン!!


 アヤの滑らかで無駄のない盾捌きに加え、先程吹き飛ばされたように反射リフレクション付与エンチャントがされているアリア特製のバックラー。

 ただの軽く円形で小さく、防御力の低いよくあるものではない。亀の甲羅の様な滑らかな曲線を描く形状になっているため、攻撃しているネタミラは、一撃をガードされたり受け流されたりする度にバランスを大きく崩す。

 あの盾捌きはすごいな。俺は使わないけど勉強になる、どう崩したらいいのかとか考えるのも面白い。


「フッフッフ、我が弟カーズよ、アヤの盾捌きは凄いのだ。防御に徹したら私でも崩せないのですからね。しかもあのバックラー、実に合理的に創ってある、アリア殿の作と聞いて納得しましたよ」

「へえーレイラ姉、そうなの? 俺は盾使わんからわからないけど。でも全然無駄のない動きには見えるな」


 もうなんだろ? この兄姉もお義父さん発言以降、身内感をグイグイ出してくるなあ。


「新騎士団長様の意見はー?」


 クレアの方をチラッと見る。……、あ、まだ自分の役職に慣れてないな。


「あ、は、はい! そうでした! あの美しい動きに自分の立場を忘れておりました」


 おいおい、まあこの人もちょっと変なとこあるしね、俺は知ってるからな……。


「ふーん、やっぱあの動きは凄いのか……」


 アリアがいれば色々と教えてくれそうだけどな。無造作に受けてる訳じゃないのか、確かに円を描く様な動きに見えなくもないな…。俺も小さめのバックラー作ってもらおうかな?


 ギィイーーーン!! パーン!!!


 渾身の一撃もあっさりと弾かれ、反射で後ろに大きく吹っ飛ばされるネタミー。強い衝撃ほど強く反射されるのか。これは相手からすると攻め手がない、魔法も反射されそうだし。さすがアリアだ、いやらしいことこの上ない盾だな。しかも強度もオリハルコンだし、砕きようがない。


「そろそろ気が済んだ? では此方からもいかせてもらう!!」


 アストラリア・レイピアを構えてグッと前へと踏み出す姿勢になるアヤ。あれで人体を刺突や斬撃は一発で死ぬ、どうやって攻めるんだろうか?


「ハッ!!」


 ガキイイイーーンン!!!


 やはりあのデカい盾、カイトシールドって言うんだったか、アーモンド型をした、上部は丸く下部は尖った形をしており、その形が凧のような形をしているからこの名前が付いたとされているんだった、あれで防ぐか。だがあの盾は、これまたオホホと似て派手な装飾だが、Bランク相当の性能だ。いくらデカかろうとなあ。


 ピシィ!!! バキバキッ!!!


 レイピアが盾の中心の一番分厚い部分にめり込むように貫通し突き刺さる。まあそうなるのは自明の理。オリハルコンに勝てるはずない。バターを切るようなもんだ。


「わたくしの盾があああ――!! あんなお粗末なレイピアに?!」


 あ、そうだった。アリアが偽装フェイクや隠蔽をかけてたんだった。あいつ程度じゃやっぱり粗末なレイピアに見えてたんだな。


「やはり相手のことが視えていない。エリックとユズリハのときもだけど、相手の力量を見誤るとこうなるということが!!」


 ズガガガガガッ!!!!!!


 踏み込んで高速の突きの連打! 幼少より鍛錬してきた積み重ねに加え、神格で能力が大幅に上昇していることもあるが、さっきのイヤミーナよりも遥かにハンドスピードが速い! それに全身の魔力強化もキッチリ出来ている。これは、この世界に戻って来た直後の俺だと歯が立たなかっただろうなあ、ド素人だったんだし。


「すげー……」


 見惚れて思わず口にしていた、舞う様な鮮やかなレイピアの扱い。そしてあれだけの連撃を受けたネタミシールドは最早穴ぼこだらけのボロボロだ。こいつは防御特化型の重戦士、所謂タンクだ。だがここまで崩されたら、攻撃に転じるしかない。このまま丸くなっていてもハチの巣にされるだけだ。間合いの外から魔法を撃たれたら接近するのも無理だし。もう終わったな。


「こ、こいつー!!」


 ブンッ!!


 壊れた盾を投げつけ、同時に右手のロングソードで斬りつけるが、盾はバックラーに弾かれ、斬撃はふわりと後ろに飛んだアヤに回避される。俺の能力やスキルを受け継いでるから、よく視ると明鏡止水や未来視も発動させている。うん、そりゃ当たらんだろ。多分アヤにはスローモーションに見えているはずだ。


「元姫様が随分と品のないことねー!! 絶対に殺してやるわああああ!!」


 いや……、どう見てもお前の方が品がないだろ。妬ましいって言ってたじゃん。


 ガアン!! ズドン!!!


 左の肩鎧を砕く氷の一撃。お、やっぱ使うのか。

 今アヤが左腰元にあるホルスターから抜いたのは、俺が武具創造で創った一品。もう一丁も同様に右の腰にセットしてある。実際の弾丸を込めることなく魔力や魔法をMPがある限りは幾らでも発射できる魔導銃マジックガン、あくまで俺のイメージを基に好き勝手に創造した回転式拳銃リボルバーだ。チャンバー部分にわざわざ実弾を込めるというような面倒なことは必要ない。そしてシリンダー部分が魔力を込めれば込める程高速回転し、魔力ブースターの役目をして強力な一撃を撃つことができる。勿論幾らでも連射可能だ。


 正式名、弾数無制限の魔導回転式拳銃エンドレス・マジック・リボルバー。形状はアヤが扱い易い大きさに太さのグリップ、トリガーを引けば発射されるが、引きっぱなしにしておけば勝手に連射されるようになっている。指が疲れないんだよね。そして約25㎝ほどの長方形バレル。アヤのリクエスト通りに大まかな色は銀が一丁、赤が一丁と俺達の髪の色を表している。今は赤い方で銃撃している。


 ぶっちゃけ銃火器の構造なんてそこまで詳しく知らないが、あくまで俺のイメージで創造してあるのでどうとでもなる。要はそういう形をした魔法の触媒ってだけだ。遠距離から回復魔法も撃てるという完全なる自己満足の創造武器。あんまり近接戦をして欲しくないってのもあるからね。

 だから多分オーバーテクノロジーにも引っ掛からないはずだ。普通の誰でも使えるような実弾銃が登場してからの戦争やらの歴史は酷くなっていくもんな。


 ガウンッ!!! バキィンッ!!!


 次は右のショルダーが撃ち出されたストーン・ヴァレットで砕かれる。観衆は初めて見る魔法武器に驚くばかりだ。うん、満足。でもなー……


「ちょ、カーズ! 何、あの武器!? どうせアンタでしょ、あんなの創るとか!」

「俺もあんな武器は初めて見たぞー」


 やっぱ食いついたか……、エリユズ。だが魔導具マジックアイテムみたいなものだからユズリハの方が食いつきが激しい。


「あれは魔力や魔法を簡単に撃ち出せるように創ったんだよ。ロッドみたいな触媒に近い。ユズリハのグングニルも魔石ブースターついてるだろ? それと同じ機能があの武器の回転してるところと同じだよ」

「なるほどね。ふむふむ……、確かにあの回転するところで魔力が増幅されてる。へえー、でも扱い易そうでいいなー。カーズ? 勿論私にも創ってくれるのよね?」


 やっぱそう来るよねー。来たよ圧力が……。好きだもんな魔導具、このグングニルも大層お気に入りで抱いて寝てるとか言ってたし。


「ま、俺は剣でいいや。もう一本魔剣みたいなやつで。2本なら背中に備えておけるしな」


 エリックは魔法で戦う訳じゃないしな。


「別にいいけどさー、お前指先からもっと速く撃てるだろ? グングニルも触媒と言うより寧ろ槍として使ってるし、逆に邪魔にならないか? 装備も前の魔導士って感じより軽戦士っぽく変えてるくらいなんだし」

「アヤちゃんとお揃いがいいの! こう、魔導士のへきに刺さるのよ! 男ならそういうのわかりなさいよー!」


 エリックは『??』って顔をして肩を竦める。


へきになあ……。うーん、わからん! まあ後で昇格祝いに創ってやるから、今は試験!」


 ガオンッ!!! ガガガガッ!!


 二丁拳銃にして様々な属性の圧縮魔力撃や魔法をネタミラに撃ちまくるアヤ。レイピアはもう用済みなのだろう、鞘に戻してある。その剣の方が威力が異常だしな。おおー、二丁だとガン・カタとかできそうだな。撃つのは魔法だけどw


「ぎゃああー!! イヤアアア――!!!」


 転げまわりながら無様に這う這うの体で逃げまくる青髭オネエ。わざと加減してギリギリ避けられるように撃ってるな。精神的にへし折るには調度いいかもだ。もう女物の様なキモイ鎧もかなり破壊されている。為す術なしだなあ。もう止めてもいいんじゃないのか?


「カーズ、あの不思議な武器は本当に其方が創ったのか? 我が息子よ」


 もうダメだこいつら、どうしても身内扱いしたいらしい。他のVIP連中もあの銃に興味津々だ。


「はいはい、そうだよパパさん。そういうスキルを持ってるんだよ」

「もはや其方は何でもアリだな、カーズ! 我が息子よ!」


 興奮してるのか、肩をバシバシ叩かれる。何でもアリなわけねーだろ。


「いや、うん、実の息子ではないからな。義理のな! ほら愛娘の試合見てろって!」


 まあもう虫の息だけど、どうやって終わらせるんだろうか?


「ハァ、ハァ……、殺ス殺スぅううううう!!!」


 あーあ、もうダメだなこりゃ……。


「最期まで残念で哀れな人。じゃあこれで終わらせてあげましょう」


 ホルスターに魔導銃を2本とも納め、ヤケクソで向かってくるネタミラに右手を伸ばし人差し指を向ける。


「今まで己が他者にしてきた行いを逆の立場で受け続けなさい! 精神破壊メンタルクラッシュ幻影・イリュージョン!!!!」


 ピシイィッ!!!


 闇属性の黒い光線の様な一撃がアヤの指先から発射され、ネタミラの眉間を貫通する。外傷はないが、あれは苦しみの幻覚を脳内で延々と見せつけられる、文字通り精神を破壊する威力の闇属性魔法。絶対にやられたくないやつだ。

 ネタミラは呆然としたようにその場で動きを止め、フラフラとし始める。もう目の焦点も合っていない。


「ぎぃやあああああ!!! やめてええええ!!! 助けてえ、お姉様ああああー!!!」


 やっぱ発狂したか……、でも早すぎるだろ。どんだけ悪さしてきたんだよ。舞台の床を転げ回る小悪党。でも精神的に折ったというより寧ろ破壊だ。


「そのまま悔い改めるまで永遠に繰り返す悪夢を見続けるといい。改心するまで決して覚めることのない幻の中でね……」


 うん、アヤはやっぱ怒らせないようにしないとね。ま、ずっと大事にするけどさ。


「おーいパウロ、またかー! 終わってるだろー?!」


 このオッサンもすぐ立場を忘れるなあ。アンタが止める役だろ。


「あ、ああ、そこまで!! アヤ・ロットカラー、冒険者登録試験合格!!!」


 大歓声とともに、再びアヤコールが巻き起こる。人気者だなあ、次に出にくいんだけど……。しかし俺のときもそうだったが、登録試験って毎回あんなになるのか? 絶対おかしい気がする……。

 大観衆に笑顔で手を振りながら舞台を降りると、出迎えていた俺の腕の中に飛び込んで来る。


「ちゃんと見ててくれた?」

「ああ、すごかったよ。アレも使い易そうだったし。頑張ったね」


 頭を撫でてやる、甘えんぼは変わらないな。さっきまでの凛とした雰囲気とは大違いだ。そしてユズリハと仲良くハグハグしてから、VIP連中みんなから『おめでとう』の祝福だ。無事に終わったし、親族も喜んでるし、これでいいか。

 うん、さすがに次は俺だろ。グッグッ、とストレッチをする。


「ではAランク昇格試験を再開する! 此度の魔人、邪神討伐の一番の功労者! 国王も称賛しておられる! Bランク冒険者、カーズ・ロットカラー! 舞台へ! Aランクザコジャイお前もだ!」


 扱いの差が激しく酷いな……。これはまたオッサン達の仕業だな。うーん、でもハードルを無駄に上げないで欲しい。この世界ではマジで目立ちたくないんだよ。これ以上は変なことに巻き込まれたくないし。変な呼び方もされたくないしな。

 さてと、と立ち上がった俺をアヤが抱きしめてくる。


「気を付けてね、負ける訳ないだろうけど」

「うん、すぐ終わらせるから」


 アヤの頭を撫でてから、舞台へ向かおうとする俺に王様が声を掛けてきた、何だよもう……。


「我が息子カーズよ、負けることなどないだろうが……、気を付けて行くのだぞ」


 ふぅ、調子がいいのかどっちなんだか…。振り向きはしないが自然と言葉が口をついた。


「俺の本当の父さんは、悪党に殺された。もう俺に父はいない……。でも、もういいさ、じゃあ行ってくるよ、義父とうさん」


 手をひらひらと振る。


「お、おお、お……」




 VIP席から数人の泣く声が聞こえてきた。だが振り返らずに俺は舞台へと進んだ。



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 続きが気になる方はどうぞ次の物語へ、♥やコメント、お星様を頂けると喜びます。執筆のモチベーションアップにもつながります! 

一話ごとの文字数が多いので、その回一話でがっつり進むように構成しております。

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