第二章 22 最終作戦会議
あと約半日、恐らく昼頃には王国に到着する。
俺達は馬車に揺られながら最後の作戦会議中だ。本物のオロスからの情報によると、宰相のヨーゴレ・キアラ、こいつが事を起こしているのは間違いない。しかしひっでえ名前だな、汚れキャラかよ。もうネーミングに悪意を感じる、おもろすぎるだろ。名は体を表すとはいうけどね……。おっと脱線。
どうやら王位に就きたいというような愚痴を常日頃からこぼしていたらしい。オロスはそれを宥めていたようだが、約一か月程前に魔人を名乗るものに襲われ、姿を奪われたということだ。それ以降はその魔人の手足となって動かされていた。宰相のその欲望に上手くつけ込まれたということだな。しかし権力ねえー、いやーほんっとにどうでもいいなあ。
奴らは国を乗っ取るために、急激に税を上げるなどのあからさまに強引な政策を行った。おそらく魔人の能力で人間の僅かな悪意を増長させたのだろう。国民は疲弊し王家への不満が高まっているらしい。
そういった負の感情が魔人には堪らなく美味であり、それらを集めることが魔王復活の引き金に繋がるということらしい。魔人にされていた本人が言う言葉だし、真偽は明らかだ。
そんな折にアーヤの単独の公務での中立都市訪問が重なったため、中立都市近郊の盗賊共を闇魔法で操り、国外での暗殺を謀ったということだ。そしてこの責任を中立都市に押し付け、国内に混乱を巻き起こして国民の不満感情を煽ることで反乱を起こし、配下の騎士団、その団長カマーセ・ヌーイと副団長コモノー・スーギルに王族を暗殺させ、一番末の王子ニコラス、まだ10歳にも満たないらしい、その子を国王とし、傀儡政治を行おうとのことだ。
だが、アーヤは俺が運良く救出したため、その策略が頓挫した。どっちにしろ結構お粗末な陰謀だ。古代の文明レベルだよ、俺からしたら。しかも自分は王になれねーじゃん。古代文明並みの超低レベルな策略、アホ臭い。ということで恐らく次の策謀を考えているであろうということだ。しかし今度はかませ犬に小物過ぎかよ、一発芸人かこいつら? クラーチの人の名前ってネタなのか?
「プププ、クラーチの人は変わった名前が多いんですよねー」
とアリアは笑っていたが、変のレベルじゃねーよ、悪意しか感じねーよ! 出会ったら笑ってしまいそうだわ。既にエリック達はバカ受けしてるしな。しかもギグスとヘラルドに、「お前ら変な名前じゃなくて良かったな」とか言ってるし。
一応その国の王女の前だぞ、少しは慎め。緊張感が敵の名前が出る度に薄れてどうしようもない。いかん、また脱線した。
王様にもどうやら遅効性の毒を盛って病気ということにしているらしく、余命幾ばくもないとのこと、これには王国組はさすがにショックを受けたようだ。だがこちらには確固たる証人がいる。
何を企んでいようが、俺達が玉座のもとにたどり着いたらそこで勝負アリだ。だからこそ、必ず何かしらの邪魔をして来るに違いない。どうせしょうもない手を使ってくるんだろうけどな。
「B級映画にも超失礼なレベルでガバガバですねー」
とおやつを食べながらケラケラと笑うアリア。こいつ、地球の文化に染まってやがる。まあ確かにありきたりでガバガバな陰謀だ。実に下らない。だがそんな下らんことの為に国民や他者の命を食い散らかすとか、ふざけてるとしか思えない。絶対に潰してやる。
オロスによると王城に辿り着くまでに何かあるのは間違いなく、予想では騎士団を動かしてくるだろうということだ。まあそうだろうね、どうせ暗殺未遂の濡れ衣とかで来るんじゃないか? それくらいしか使えそうなネタはないだろ。でもアーヤが生きて乗ってるってのにそんな理由で来たら俺笑うと思うよ。ガバガバ過ぎて。
念のため、アリアに
「ネタバレすると余計に下らなくなりますよー」
などとほざく、ああーこれは俺の予想は当たってるな。要はバラすまでもないってことだしな。騎士団が出張って来た時の相手はエリックとユズリハがしてくれるらしい。まあこのバトルジャンキー二人が負けることはないだろうけどさ、そのかませ犬と小物以外は殺さないように重々言っておく必要がある。
「特にユズリハな、エリックよりお前の方が完全に脳筋だし」
「全くだ」
同意するエリック。
「酷いなー」
ぶー垂れるユズリハ。馬車にはアリアが高度な結界を張っているので、どうせ近づけやしないし、進路妨害も不可能だ。二人が相手をしている内に王城へ急げばいい。並の騎士程度ならこの二人には手も足も出ないだろう。その処理が終わり次第、王城で合流ということにした。
アーヤを連れて行けば勝ち確定なんだ。
ガバガバな策略に負けるなどあってはならないのだよ。護衛騎士の二人には玉座までついて来てもらう。今の騎士団へ合流させるのは危険だしな。
「ま、まあ仕方ないよな」
「ああ、カーズに任せる」
ということでOK。話し合いの間、アーヤと侍女達はずっと不安そうだったが、絶対に守ると言った俺は兎も角、アリアがいるんだ。余程のことがない限り、先手を取られることはないだろう。
とにかく短期決戦だ、一気に片をつけてやる。王様はその場で俺が
(アーヤ、心配しなくていい。速攻で片づけてやるから)
(うん、何から何までありがとう、カーズ)
「アーヤちゃん、お姉ちゃんが守ってあげますからねー」
「は、はい、ありがとうございます!」
王女をちゃんづけで堂々と呼ぶなよ……。アーヤ戸惑ってるじゃないか。王宮内の全ての人間が操られていたらぶっちゃけどうしようもない気もするが、『そこまでする程の力はないですねー、だから姑息なことをするんですよー』とアリアが言うので、大丈夫だと思っておこう。
・
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暫く馬車を進めたとき、俺達は前方から500人程の騎士団が向かって来ていることに気付いた。おっと、これは予想外だ。しかも数も多い。警戒は怠らず様子を見ていると、おそらく隊長格の女性騎士が単独で向かってきた。そして馬車の前で馬を降りると、兜を脱いで跪く。敵意も感じないし、鑑定しても呪いなどの痕跡はない。
そこで俺がまず一人で話をすることにした。念のために魔力ヴェールは張り巡らせておく。さて演技だな。
「クラーチ王国の騎士の方とお見受けする。俺はアーヤ姫の護衛の任を受けて同行している、Bランク冒険者のカーズだ。中立都市の近くで彼女が襲われている現場に居合わせたので救出した者だ、頭を上げて欲しい。あなたは?」
女性騎士は淡いピンク色の髪をかき上げるように顔を上げてくれた。異世界って美人が多いなあ。
「私はクラーチ王国騎士団副団長のクレア・アーデスと申します。カーズ殿、この度はアーヤ王女殿下を救って下さり感謝しております。王女殿下は馬車の中にいらっしゃいますでしょうか?」
ん? 副団長? 複数いるのか?
「ああ、でも副団長ってコモノーとかいう奴じゃないのか?」
「私とその者の二人が副団長を務めております」
んー、でもこの副団長は真面目そうだぞ。
「そうなのか。だがこんなところに大勢引き連れて何をしているんだ? まさか俺達を捕らえに来たという訳じゃないよな?」
「いいえ! とんでもありません! 我々は今の騎士団の在り方に疑問を感じていたところです。新米騎士を王族の護衛に付けたり、この度も
なるほどな、騎士団も一枚岩ではないということか? そしてこの女性騎士は非常に礼儀正しく真面目な人物のようだ。もしかしたら味方になってくれるかもしれない。ラッキーだな、人手不足が一気に解消される可能性がある。鑑定し直したが、やはり呪いも洗脳の類もかかってはいない。信用しても良さそうだな。
「わかった、ではあなた一人で此方まで来てもらいたい。王国は今危険な状態にある。それに猶予もない。詳しくは馬車の中で話を聞いてくれ。あなたは信用に足る人物だとは思うが、念の為剣は預かってもいいか?」
念の為ね。心の中までは完全に見通せないし。
「はい、お渡し致します」
腰から派手な装飾を施された
「ありがとう。じゃあ後ろの大軍に待つように頼んでくれ」
「ハッ!」
スッと立ち上がると、後ろの軍勢に向いて大声で呼びかける。
「お前達! 私はこれからアーヤ王女殿下と面会してくる、各自その場に待機していろ!」
「「「「「ハッ!」」」」×たくさん
おお、威厳あるなー、そして統率も取れている。この人は人望がありそうだ、ビシッとした姿勢に凛とした佇まい、俺より背が高いなー。うん、騎士、ナイトって感じで嫌いじゃない。どのRPGでもナイトは花形のジョブだしな。
「じゃあこちらへ」
「はい、ありがとうございます」
俺は馬車の入り口まで彼女を案内した。
「副団長のクレアという騎士を信用して連れてきた、とりあえず話を聞いてもらおうと思う」
彼女を紹介したと同時にアーヤが大声で話しかけた。
「クレア! 無事だったのですね! 良かった……」
まるで親しい友人と再会したかのような声を上げるアーヤ、嬉しそうだな、友達ちゃんといるじゃないか。立場は違うんだろうけどさ。
「アーヤ様、ご無事で何よりです! ずっと心配しておりました、また生きて会えて良かったです。ギグスにヘラルド、お前達も無事でしたか?」
「クレア副団長! お久しぶりです!」
「クレア副団長、我々はそこのカーズに救われたのです。賊の大軍に為す術もなく……」
はしゃぐギグスに、冷静なヘラルド。うーん、対照的だなー、てかギグスお前絶対この人のこと好きだろ!
「そうでしたか……。しかしよく生きていてくれました。カーズ殿、重ね重ねお礼を申し上げます、ありがとうございました」
深々と頭を下げるクレア、うーん人間ができてるなあー。俺も見習わないといけないな!
「とりあえず上がってくれ。これから王国へ入るに当たり、ここまでの経緯と王国内のことを伝えておきたい。そして、出来ればあなたの力をお借りしたい」
俺も頭を下げた。礼には礼をもって尽くす、当然だろ?
「ハッ! 私に出来ることなら喜んで協力させて頂きます!」
実に真面目だ、好感が持てる人柄だな。しかも見た目からして若くして副団長、中々の使い手のようだしな。アリアの鬼修行を生き抜いたあの二人程のレベルではないけど。
「さて、とりあえず役者に出て来てもらおう」
俺は
「クレア副団長、息災じゃな」
「えええええ!! あ、あなたはオロス政務官殿! なぜここに!!? では王城にいたあのオロス殿は一体? これは……、一体何がどうなっているというのです!?」
いや、まあそりゃ驚くよね。でもこのインパクトはあるってことだな。
「落ち着いてくれ。とりあえず中へ、それをこれから説明する。オロス、アーヤ姫頼む」
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「そんな……、魔人やその配下が王国内に入り込んでいるなんて…。しかも宰相殿や騎士団長、それにコモノーまでその一味だなんて……」
一通りの説明を聞いたクレアは驚愕の表情をした。そりゃそうだ、自分が命を張って仕えている国だ。それにこんなにも真っ直ぐな人だ、ショックだろう。
「なるほど、ここ最近の不審な出来事に全て納得がいきました。おのれ! 我らを反乱分子とみなし魔王領へ向かわせることで追い出して国内を手薄にし、そのような愚行を計画していたとは!!! 絶対に許せぬ!
うん、まあそりゃあ怒るよね、仕方ないよ。だって眩しいくらい真っ直ぐだもんこの人。ていうかさっきからみんなが言ってるスタンピード? 何だそれ? 置いてけぼりだなー。
「カーズ殿、どうやらこの任務のリーダーはあなたの様だが、我々に協力して欲しいというのは何か作戦があるということですね。尽力は惜しむべくもない、私に出来ることがあれば何でも言って頂きたい」
おお、グイグイ来るな。使命感に燃えてるんだろうな。
「あ、ああ、その前にさ、さっきからみんなが当たり前の様に言ってるその、スタンピード? それって何だ?」
ごめん、知らないもんは知らないんだよ。
「え? カーズ、そんなことも知らねーのか?」
口火を切ったエリック。そしてみんながジトーっと見てくる。嫌だなー、また俺は変なことしたのか?
「いや、マジで知らんのだけど。教えてくれよ、さっきから置いてけぼり食らってるみたいな疎外感が半端ないんだよ」
「まあ、カーズだしねー」
何だよユズリハ、その言いぐさは。
「アハハハー、カーズったらもうー!」
バシバシと背中を叩くアリア、いやいやお前が念話なりで教えてくれたらよかっただろ! 便乗しやがって、確信犯だ、こいつめ、間違いない。
「カ、カーズ、本当に知らないの?」
アーヤまで! 憐れむような目で見ないでくれ。
「ハハハ! 嬢ちゃんやっぱどこか抜けてるよな」
ギグス、お前には言われたくないぞ。
「うむ、カーズなら仕方がないな」
おおい、常識人ぽいヘラルドにまで俺はそんな風に思われてたのか! みんなして何その扱い? 俺どう思われてるのさ?
「ハァ、私が説明してあげるわよ。カーズの世間知らずはいつものことだしね」
やれやれといった感じで両手を上げるユズリハ。はあ、空気が痛い。猫に顔をうずめたい。チーズ蒸しパンになりたい。
「わかったわかった、悪かったよ! どうせ俺は世間知らずだよ! だから早く説明プリーズカモン!」
げらげらと笑う一同、初対面のクレアにまでくすくすと笑われてる。仕方ないだろ、俺ほぼ一週間くらい前にこの世界に来たんだぞ!
「いい?
何それ、怖い。何で俺は転生直後にそういうのに出くわすんだ?
「はい、分かりました先生。っていうかそいつは一大事どころじゃないだろ! 王国内の問題は速攻で片をつけるしかない! じゃあ謎も解けたし、クレアには俺達が国に入る際、馬車の周囲の警護を頼みたい。ここには結界が張ってあるが、足止めが必ず来る。それもほぼ高確率で残った騎士団だ。エリックとユズリハには隊長格、要は団長共を潰してもらう。そうすれば騎士団の統括者はあなたということになる。そこで騎士団を纏めて欲しい。その間に俺達は玉座へと向かう。王の命もいつまで持つか分からないし、時間との戦いだ。それにここにはアーヤ王女がいる。王族からの緊急任務ってことにすればその意味の分からない任務より優先されるはずだし、それで筋は通るはずだ。引き受けてくれるか?」
「なるほど、確かに筋は通る。カーズ殿、あなたはそんな美しい少女でありながらまるで歴戦の軍師のようですね。この短時間でそのような考えを巡らせるとは。素晴らしい作戦だと思います。是非とも協力させて頂きたい。喜んで任されよう」
どっと笑いが起こる。あーあ、また来たよお約束が……。笑いすぎだっての、こいつらー。しかし軍師ねえ、精々三国志とかを知ってるレベルだよ。
「あーもう、うるさいな! クレア、すまないが俺は男だ。この見た目だ、よく間違えられるんだよ。そしてこの俺とよく似たのが姉であり師匠でもあるアリアだ。凄まじい強さだし、城内のことは任せてくれ」
「はあーい、クレアちゃんよろしくねー」
笑顔で手を振るアリア、ちゃん付けされたクレアはポカーンとしている。
「そ、それは済まないことをした。申し訳ない、カーズ殿。私としたことが大変な失礼を!」
深々と頭を下げるクレア。真面目過ぎて逆に俺がいたたまれない。
「あー、もういいよ、慣れてるしね。初対面のお約束みたいになってるからさ。頭を上げてくれ」
「そ、そうか、了解した。それではカーズ殿、アリア殿、王城、魔人のことはよろしく頼みます。この通りです」
またしても頭を下げるクレア、もう人間が出来過ぎてて逆に申し訳なくなる。隣で笑ってるこの女神に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいよ。
「もちろんだ、そのために俺達は来たんだから。だから頭を上げてくれ」
「そうよー、お姉ちゃんに任せなさいー」
こいつは、ゆるいなあー。でもまあいい感じに和んだし、肩の力も抜けて丁度いいか。
「じゃあクレア、剣は返す。あなたは信頼できる人物だ、この作戦、俺からもよろしく頼む」
「承知しました。ではアーヤ様、全てが終わったときに再びお目にかかりましょう」
「ええ、クレア。あなたも決して死んではなりませんよ」
仲いいな、良いことだよ。
「ハッ! ギグスにヘラルド、あなた達も我らと同行しなさい」
敬礼して、颯爽と馬車を降りるクレア。続いて軽い挨拶を済ませて護衛の二人も馬車を降りた。そして自軍のもとへと向かっていく。かっけーなあ。うん、騎士の鏡って感じだぜ。同性でも惚れるだろうな。
(カーズ、クレアがそんなに気になるの?)
アーヤから念話だ。
(いや、カッコイイ騎士だなって思っただけだよ)
(ふう――ん、ならいいけど――)
うーん、何か不機嫌にさせたのか? ……わからん。
「よし、良い感じに役者も揃った、俺達で王国の闇を切り払ってやろうぜ!」
「「「「おお――!!」」」
みんなの士気も充分だ、何故かいつの間にかリーダーみたくされてるけど。
「じゃあ騎士団が準備したら行こう。王国はもうすぐだ!」
俺達は土壇場で頼もしい助っ人を得た。そして意気揚々と王国へと乗り込むのだった。
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決戦間近でもいつも通りの一行ですね、ついに突入です
続きが気になる方はどうぞ次の物語へ、
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