第二章 23 包囲網を突破せよ
クレアを先頭に騎士団に囲まれながら馬車を飛ばす。飛ぶが如く! 入口はクレアの御陰で苦も無く突破。今は王城へ向けて全速前進中だ。エリックにユズリハは既に御者のおっちゃんの隣で出撃準備も万端だ。俺は馬車の上から探知、鷹の目、千里眼で城下町の街道周辺を探索中だ。街の人々は何事だ?って感じでこちらを見ている。
確かに民たちに元気がない。くそっ、普通に暮らしている人達を巻き込みやがって!
そして前方に騎士団が待ち構えているのを捕らえた。
「来た! 予想通り騎士団だ、数は約100、鑑定したところ団長も副団長もいる! あと5分もすれば接敵だ、任せたぞ二人とも、それにクレア!」
集中し俺に出来る最大限のバフを三人にかける、
「ありがとう、カーズ!」
「ああ、問題ない。死ぬなよ!」
「ここは任せときな!」
騎士団が前方に迫ると二人は馬車を飛び降りる。と同時に疾風の様に騎士団の間を潜り抜け、エリックは団長のカマーセ、ユズリハは副団長コモノーの前へと駆け出し、一瞬で1対1で対峙する構図を作り出した。いいね、作戦通りだ。
「何だ、こいつら!? 一瞬で目の前に」
驚きを隠せないカマーセ。
「わ、わかりません、突然目の前に!」
「おっと、どうせ王女暗殺未遂なんてベタな濡れ衣で捕獲しようって作戦だろ?」
ニヤリと笑うエリック。
「バレバレなのよ。ウチの大将の予想通りね」
おい、大将って誰だよ?
「くそっ、なぜこちらの作戦が漏れている!?」
焦るカマーセ。そらバレるっての、それくらいしかネタがねーだろ、ガバガバなんだよ!
「おい、お前達! こいつらはアーヤ王ッ、むぐぐ……」
コモノーが声を出せなくなる。
「どうしたコモノー?!」
「く、口、が……ッ?!」
「汚い口は塞がせてもらったわよ。
おお、ナイス判断、ユズリハ。
「こいつ、無詠唱だと?!」
焦る一方のカマーセ。
「お前らはここで終わりだ。ウチの大将の邪魔はさせねーよ」
だから大将って誰だよ。まあいい、上手く団長格の行動は封じた。
「クレア、騎士団の説得を任せる、
声を大きくする風魔法だ。
「カーズ殿、片じけない! 応えてみせよう!」
身動きが取れなくなった二人の団長格、混乱する騎士団をクレア率いる大軍が取り囲む。
「「「聞け! 誇りある王国騎士団の者達よ! この国に魔人が侵入している! そして内部からこの国を腐らせようと画策しているのだ! そしてその一味に加担している愚か者が、我々騎士団に混乱を巻き起こした団長カマーセ、副団長コモノーだ! 私は全ての真実をアーヤ王女殿下、そして王女を救った勇敢なる中立都市リチェスターの冒険者カーズ殿から聞いた! この馬車を止めることは許さん! 目を覚ませ、己が剣を向ける敵を間違えるな! まずはこの二人、それを背後から牛耳っているのは宰相ヨーゴレと魔人だ! 国民が苦しんでいる元凶は全てそこにある! 王国騎士としての誇りがある者達は私の下へ集え! 我らが本当に撃つべき敵は目の前! そして王城にあり!」」」
騒然となる騎士団に遠巻きに見ている街の人々。そして一人、また一人とクレアの下へ騎士が集う。すげーな、一瞬で騎士団の意識を変えた、やっぱこの人を味方につけて正解だった。運良く遭遇して良かったぜ!
しかし、あれだけの台詞を噛まないとは、アナウンサーに向いてるんじゃないか。身動きが取れなくなった騎士団、その間に包囲をつっきり、馬車が突破。
(ありがとう、クレア! 俺達はこのまま王城へ急ぐ、後は頼んだ!)
(承知した、必ず応えてみせましょう、姫様を頼みます!)
距離が離れたため、念話に切り替える。
(エリック、ユズリハ、本気でいけ!)
((応!!))
(さすがクレアね! 私の助力は必要ありませんでした)
アーヤがほっと胸を撫で下ろすような念話が聞こえる。だがここからがダメ押しだ。
(いや、街のあの一画だけじゃ足りない。アーヤにはこれから全国民に本当の悪を伝えて欲しい。それだけで国民の王家への反発も防げるし、黒幕を逃げられなくさせるんだ)
(わかったわ、頑張ってみる!)
(アリア、いくぞ!)
(はいはーい)
((通信スキル最大展開、この国の全ての人へ届け!!!))
俺とアリアでスキルを展開する。
(いけ! アーヤ!)
意を決するように深く深呼吸するアーヤ。そして両手を組んで目を閉じた。
(愛する我がクラーチ王国民全ての方々、聞こえますか? 私はアーヤ第二王女、今ここであなた方が受けて来た苦痛に心から謝罪致します。現在王城内へ魔人が侵入しており、宰相ヨーゴレと騎士団長カマーセ、副団長コモノーらが主犯となって魔人と共に国家転覆を狙っているのです。これらの愚行を未然に防げなかった私達王家の過ちです。ですが、あなた方を苦しめた彼らを決して許しはしません! 今私のもとには心強い人達がこの国を救うために集ってくれました! 愛する国民達、そしてこの王国の全ての人々よ、我らの勝利を信じ祈って下さい、そして魔人をこの国から追い出しましょう!!!)
人々のざわざわとした声があちこちから起こる、だがその声は次第に一つの声にまとまっていく。
「「「「オオオオオオオオオオオオ!!!!!」」」
「「「アーヤ姫バンザーイ!!!」」」
所々で国民の声が上がる、追撃としては効果は抜群だったな。国民人気の高い(侍女の情報)アーヤが鼓舞してくれた御陰だ。
(アーヤ良くやってくれた、この声はもう王様の耳にも届いている。このまま一気に王城に突入だ!)
((´∀`*)ウフフー、燃える展開ですねー!)
そうだな、だがここからが本番だ。もはや馬車を遮るものは何もない、街道に集まった人々が俺達を応援してくれるほどだ。わざと目につくように馬車の上で恥ずかしがるアーヤに手を振らせながらお姫様抱っこしてる俺のせいだけどね(笑) こういうのは派手な方がいいのさ! 飛ぶが如く! 俺達は民衆の声援を受けながら街道を飛ばした。
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「騎士団はもう大丈夫だ、エリック殿にユズリハ殿。心苦しいが貴殿達にお任せする」
本当は自分の手で葬ってやりたいが、良くて互角、ここで自分が死ねば騎士団を統率できるものはいなくなる。二人に任せるしかない。
「大丈夫だってクレアさんよ、任せときな」
「悪即殺よ」
何と頼もしい背中だ。カーズ殿が信頼するわけだ。悔しい、まだ自分には力が足りない。
「ちっ、おのれ貴様ら! よくもやってくれたな!」
カマーセが吠える。だがエリックは冷静だ。
「おいおい、それはこの国の人達の言葉だろ? 悔しいならその剣で語れ。テメーらの下らねえ野望もここで終わりだ」
剣を抜くカマーセ、団長だけあって華美な装飾が施された大剣だ。バルムンクに手をかけて構えるエリック。二人が同時に距離を詰める!
バキィ――ン!!!
だがカマーセが振るった斬撃が届く前にエリックのいつの間にか抜かれたバルムンクの高速の横薙ぎがカマーセの剣を粉砕した。
カーズがアリアの指導により新たに創ってくれたバルムンク。Sランクに引けを取らない強度に切れ味が増した一撃だ。そこらの剣では斬り結んだだけでも砕ける。
更にエリックの剣技は超成長の恩恵にアリアの指導もあって格段に上達していた。並の戦士では威圧感だけで膝をつくだろう。剣と力にのみに頼ってきた戦いも、修行により向上した魔力を剣に纏わせることで威力が向上している。魔法は苦手だが、体内の魔力をコントロールする術を学んだ彼は数ランク上に実力が上がったのだ。
「なっ、何ィ!? 騎士団長の俺よりも速く、しかも剣を一撃で破壊するなど?!」
おそらく今までのエリック相手なら勝てていただろう。だが、才能に胡坐をかいている者は、努力によって簡単に覆されることがあるということだ。
「何だ、大したことねーな。その程度かよ、王国の騎士団長ってのは。興覚めだぜ」
「くそっ、何だこの冒険者は?!! 中立都市にこんな奴がいるなど聞いたこともねえ!」
ワナワナと震えるカマーセ。最早勝負は誰の目に見ても明らかだ。だがエリックは冷酷な目で見降ろし、バルムンクを握る手に力を込める。
「そうか、俺達なんざ軽く一捻りってつもりだったってのかよ。ナメンじゃねえ!!」
ズドン!!!
バルムンクがカマーセの体を左肩から袈裟斬りに斬り裂く! そして衝撃追加による爆発のような衝撃が巻き起こる! かませ犬は斬られながらその衝撃で吹き飛んだ。
「ケッ、ウチの大将や師匠はこんなもんじゃねーぞ」
背を向けてバルムンクを鞘に納める。
「何という凄まじい大剣捌きだ……」
クレアを始め、ギグス、ヘラルドも含めた騎士団は驚愕する。自分達が仕えていた団長が一瞬にして斬られたのだ。圧倒的力量差がそこにはあった。
「そんな、団長が一瞬で……」
驚きを隠せない程狼狽するコモノー。何なんだこれは、予想外にも程がある!
「あら、気にしなくてもいいわよ。次はアンタをあのクズの下に葬送してあげるから」
ユズリハの魔力を受けたグングニル・ロッドが形状を変える。前回よりも穂先が長い切り裂く様な形状のスピア、寧ろソードの様な形状に近い。
「貴様、魔導士ではないのか?! まさか騎士と剣を交えて勝てると思っているのか!」
戦士でもない非力な魔導士に力比べで負けるはずなどない。コモノーは勝ちを確信した、あとはこの場から如何にして離脱するかしか考える必要はない。
「思ってるに決まってるでしょ、三下風情が。さっさとその飾り物を抜け!!」
自信満々に構えるユズリハ。そして騎士団独特の派手な装飾が施された片手剣を抜くコモノー。
「後悔しても知らんぞ」
「アハハハッ! クズが、そのまま返してあげるわ」
「おーおー、余裕ぶっこいて……。ま、負けるわけがねーけどな」
既に勝負をつけたエリックがニヤニヤしながら腐れ縁の相棒を眺める。
「ゆくぞ! 騎士の剣を受けよ!!」
ギィン!!
グングニルの穂先で軽く受け流すユズリハ。槍術、棍術もアリアに教えを受けた。魔法一辺倒だった自分の戦い方は大きく変化したのだ。そしてカーズの超成長スキルの影響で得た経験は短期間であっても通常の何倍も濃い。
「アハハッ、軽いのねー、騎士の剣って。アンタの口と同じじゃないの」
「何だと……、なぜ魔導士風情にそんな筋力がある!?」
魔力で全身を強化しているのだ、それにより筋力も敏捷も大幅に跳ね上がっている。並の戦士など素手でも圧倒できる。
「フン、アンタらとは鍛え方が違うのよ! ハアアアアアアッ!!!!」
高速の突きに横薙ぎの
「彼女も、何という美しい闘いなのだ……」
クレアには異次元の強さに感じられるこの二人。そして彼らが大将と呼ぶカーズ、そしてその師にあたるアリア、あの二人は更にとんでもない強さなのか? 王国はきっと救われる。だがこれ程の強者がこんな近くに存在していたとは……。
「私もまだまだ、ということだな……」
最早勝ち目がないと感じたコモノーは無様に背を向けて走り出す。
「くそっ、こんな奴らがいるなど! 手に負えん!」
「おーい、ユズリハ逃がすなよー」
エリックがカラカラと笑う。
「わかってるっての。さてこれを試してあげるわ、カーズ頼んだわよ。グングニル! 敵を貫け! ハァッ!!!」
ブンッ!
グングニルを全力で投擲する! グングンと加速する光の一刺しの様な一撃が背を向けて逃げるコモノーの体を貫く! そしてその勢いのままユズリハがかざした手の中へと還ってくる。
「さすがカーズ、ちゃんと戻って来たわ」
「チッ、いいな、俺もその機能が欲しいぜ」
ガシッ! っと力強くハイタッチする。
「「討伐完了!」」
と笑顔で言い放つ二人。
「クレアさん、終わったぜー」
「雑魚過ぎて笑えたわね」
「お二人共……、凄まじい腕前ですね。感服致しました」
クレアは二人に敬礼する。
「いえいえ、私達なんてまだまだよ」
「そうだな、ウチの大将とその師匠は次元が違うぜ、ハハハハハ!」
この二人ですら今の自分には手も足も出ないだろうというのに。
「何と……! ……私も精進しなければ」
わあっと戦勝ムードが立ち昇る。だがそのとき吐き気を催す程の黒い瘴気が倒れた二人の元団長格から溢れだした。
「クカカカ……」
「カカカカッ……」
不気味な声を上げる黒い塊。
「何だ!?」
「あいつら、まだ死んでないわ! それにあの瘴気は……、まさか魔人!?」
驚きを隠せない二人。
「彼らは既に人ではなくなっていたと言うのか……。あれが魔人、何と禍々しい……!」
自分の足が震えるのを抑えきれないクレア。だがその気色悪い塊に堂々と歩を進める二人。
「仕方ねえ、キッチリ片はつけるぜ」
「ええ、とっととカーズ達を追いかけなくちゃいけないしね」
誰もが震え慄くその異形に、これから立ち向かおうとする二人。足が震えるクレアはその背中に向けて祈ることしかできなかった。
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