第一章 16 募る思い・アリアの魔法指南?
はぁ……。溜息が漏れる。公務とはいえ都市間の関税や、輸出入品の値段設定など、都市長や各ギルドの代表者達と取り決めを交わす。正直言って退屈極まりない。それが王族の務めだとしても。
私も自由に世界を旅したり、色々な人と出会ってみたい。
そう冒険者、あの方とあって以来私の心はずっとかき乱されている。颯爽とピンチに現れて、賊共を一網打尽にし、王国の闇も暴いてみせた美しい剣士。あんなにも美人なのにぶっきらぼうな口調で、自由奔放な振る舞い。なぜだかとても懐かしい……。あんな綺麗な人、記憶にない。だがあの行動力や話し方、理不尽に立ち向かう姿勢、すごく似ている。
この世界に王女として生まれて、もう18年。この数日やたらと夢を見るようになった。こことは違う世界、いつも手を引っ張ってくれる1つ年下の男の子……。これが何の夢なのか、それとも自分の記憶なのかわからない。いつもあと少しのところで途切れてしまう。それ以上先は見てはいけないかのように靄が掛かっているのだ。もしかして前世の記憶? いや、そんなものあるわけがない。そんな人間いるはずがない。でも懐かしい……。
早くまたあの方に会いたい。この気持ちは何なのか、自分の夢との繋がりは? 漠然としてて確証なんてないのに、会いたいという気持ちが止まらない。魔眼を見てしまったから? いや、効果はすぐに消してくれた。それとも私は同性愛者だったとでもいうのだろうか? そんなはずはない、今まで他の女性にそんな感情を抱いたことなどない。あの方だけが特別なんだ。それに懐かしい面影……。
先日冒険者ギルドの支部長から、突然の面会があった。事件当日の夜だ。あの方が手回ししてくれたのだとわかった。王国内の問題解決まで護衛についてくれる、嬉しい。もう犯人はつかめているようなものだし、あっという間に解決してしまうかもしれない。
でも、そんな国の一大事だというのに私はただあの方に会いたい。夢を見始めてから、自分の王族という立場に恐ろしく場違いな思いを感じるようになった。勿論表面上は王族として振舞ってはいる。だが酷く場違いな居心地悪さを感じるようになってきたのだ。自分はそんな風に上に立つような人種ではない、普通の人間だという思いだ。
会いたい。そしてできれば王女という窮屈な場所やしがらみから私を連れ出して欲しい。あの人がわたしなら簡単にやってしまうのだろう、そんな意味のない確信がある。いつも手を引っ張ってくれたあの子のように。なぜならあなたを思うだけでこんなにも胸が張り詰めて苦しくなるのだから……。
1週間、ずっとこんな気持ちのままなのかな? あの人の屈託のない笑顔を再び目にするまで……。
「それは……、苦しいなあ……」
そう思いながら、アーヤは都市長の屋敷の窓から空を見上げた。
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死屍累々。討伐も済ませ、自己の鍛錬もひと段落ついた俺は、三人の修行している場所に休憩がてら戻ってきたところだ。そこそこの数も狩ったので、経験値共有化状態の二人のレベルも15ほど上がっている、まあ順調だな、目の前の景色を見るまでは。エリックとユズリハ、二人とも俯せにぶっ倒れている。
ゼエゼエと荒い息を吐いているので生きてはいるな。アリア何をやったんだ? 修行どころか死にかけてるじゃないか。
「うーん、もう終わりですかー? ほらほら立って立って、こんなんじゃあ修行になりませんよー」
犯人は長めの木の枝を持って嬉々としている。あの枝で相手してたのか? エグイな。
「おーい、休憩がてら戻って来たけど……。ナニコレ??」
こっちに気付いたアリアはブンブンと手を振って来る。
「ハーイ、カーズ! 言われた通りに稽古をつけてたんですよー」
褒めて褒めてって感じで見てくる……。この構ってちゃんめ!
「いや、まあそれはありがたいんだけどさ。これやりすぎじゃないのか?」
「木の枝で加減したのになあ~?」
「いやいや、木の枝でそんなになるか? どんなしごきかたしたんだよ?!」
「まあ対人稽古ですよ、実戦形式の。今回は任務的に対人が想定されるでしょうしねー」
「確かにそれはあるな、でもちょっとやり過ぎだろ? 回復させてくるよ」
「うーん、他人には甘いんですからー。自分には厳しいのに。まあそういう人だからですけどねー」
アリアから離れて、二人に回復をかける。全回復したようで、二人とも起き上がる。
「悪い、カーズ助かったぜ」
短い金髪を掻くエリック。
「ありがとうカーズ!」
二人からの礼を受け取る。
「どんな修行してたんだよ?」
「ずっと2対1での実践稽古よ。でもアリアさんとんでもないわ。何一つこっちのやることが通用しないんだから!」
そりゃあ、あれでも神様だしな。実力的には俺も瞬殺されるレベルだ。しかも義骸入りというハンデ付き、本物はもっと想像もつかない化け物だ。ステータス見ただけで普通の相手は恐怖に足が竦むだろう。隠蔽して見えないから普通の人に見えるだろうけど。
「お前にも当たらなかったが、あの人には輪をかけて当たる気がしねえ。軽くなった分スピードは増してるはずなんだがな。しかもあの小枝でバルムンクを受け止めるんだぜ、意味わからねえよ」
やれやれといった表情のエリック。うん、それは俺にも意味わからんよ、現場は見てないしな。
「よっしゃ、回復もしたし、まだこれからだ! いくぞ、ユズリハ」
「ええ、一発は当てないとね!」
それはまだ一発も当たってないということだな、うん。
「じゃあ俺は休憩がてら見学しとくよ、頑張れ」
「ああ!」
「ええ!」
「お、続けますかー? (*´艸`*)ウフフー、ではまたおいでなさーい」
腹立つ言い方しやがる……。狙ってやってんのか? 二人がアリアへと間合いを詰める。
さて、格上相手にどう戦うのか俺も気になる。見取り稽古といこうかな。お、仕掛けたのはエリックか。バルムンクで斬りかかるが、驚いたのはアリアの動きだ。足はその場から一歩も動かないで上半身のみで躱す躱す!
「すっげー、俺はさすがに足は多少動かしたぞ。しかもあのときの大剣よりもスピードも乗ってるし」
「くっ! 当たらねえ!」
「ただ振り回しても当たりませんよー。相手も当たりたくないんですからー。相手の動きの先の先を読まないとー」
簡単に言うなよ…。どんな達人の領域だよそれ…。
「下がってエリック! ファイアボール!!」
エリックがバックジャンプで距離を取った瞬間、ユズリハの杖から炎が巻き起こる。3発の火球だ、これは捕らえただろう?
「詠唱してる内は発動しますって教えてるのと同じですよーって、さっき言わなかったかなー?」
アリアが左手をかざすと直前で火球が凍り付き、パキィーーン! と落下して砕けた。あの瞬間に逆属性で相殺したのか? しかもあれは魔法じゃない、氷の魔力を同じ威力で放出しただけだ。なんて緻密な、とんでもない魔力コントロールだ。
「なっ、届きもしない……!」
「うーん、詠唱するならこれくらいはやらないとー。ファ・イ・ア・ボー・ル!」
そのまま左手の5本の指先に5つの火球が具現化する。おいおい、なんだそりゃw
「ほいっと!」
5発の火球がユズリハへと放たれる。こういう魔法戦闘は色々学べるな、どうするんだユズリハ?
「くっ! ウインドバリア!」
ユズリハを中心に緑色の風の防護膜のようなものが展開される。
ドドドドドンッ!!!
5発の火球は防いだが、防御膜はズタズタだ。
「ほいっ!」
同時にまた5発、アリアの指先から同じものが放たれる。これは嫌な攻撃だなー、初級でも連発されると厄介だ。
「ファイア・ウォール!」
今度はそこそこの厚さの炎の壁か、どうなる? すると炎の壁に火球が吸収されて消えた、なるほど同じ属性だとこういうことも起こるのか。
「ア・ク・ア・ヴァレッ・ト!」
同様に今度は水の弾丸か、これは相性が悪いな。
「も、持たないっ! キャアッ!!」
ドドドドドンッ!
炎の壁を貫通して、魔力で圧縮された水弾がヒットする。魔力を体に張って防御していたようだが、これは痛いな。ただの魔力と錬成された魔法とでは強度が違う。膝をつくユズリハ。
「ス・トー・ン・ヴァレッ・ト!」
おいおい、まだ追撃するのか? しかも石弾だぞ、やり過ぎだろ! 今度は物理的にも絶対痛い! だがユズリハは避けようとしない、火と風じゃあ相性悪いぞ。
「ああああああああァッ! アイスシールド!!!!」
杖を足元に突き立てると、その場に氷の盾が現れる!
ピキーーーン!!
おお、薄いが氷の防御盾だ、しかも逆属性だぞ!
ドガガガガッ!!! パキィィーーン!!
石弾を何とか相殺した、やるなあー。
「やりましたねー、ユズリハー! 属性の壁を超えましたかー-!」
「ハァハァ、お陰様で……。イメージね、イメージの具現化……。意外と、やれるもんなのね……」
パタリとその場に倒れるユズリハ。凄いなあ、もう逆属性を使えるようになるとは。だがあんなに追い込まれたら死ぬかやるかしかないか。なんつー稽古だ。でもユズリハはある意味壁を破ったようなもんだ。成長したという点で稽古は成果ありだな。
「やったな、ユズリハ! 俺も負けてらんねーぜ!」
バルムンクを構え直すと再び突進するエリック。うーん、それだとまた同じ展開だぞエリック。何か策があるのか? 大剣の弱点をある程度補えるように創ったバルムンク。しかしエリックが戦い方を変えなければ意味はない。アリアの指導も気になるな。面白そうだ。
俺はユズリハを回収して回復させてから、二人で稽古の行方を見送った。
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一話ごとの文字数が多いので、その回一話でがっつり進むように構成しております。
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