第一章 17 アリアの剣術指南?
エリックがバルムンクを振り下ろす。それを小枝で受けるアリア、どうなってるんだ? 鑑定、よーく視ると小枝の周囲に薄いが高密度の魔力のオーラを纏わせてある。なるほど、魔力を内部に通すと壊れてしまうものでも外側にコーティングするように纏わせれば強度も上がり、充分な武器となるわけか。これは勉強になる。
アリアにかかればあんな木の枝でも高ランクの武器と打ち合えるものになるのか。足元に転がっている木の枝を拾い上げ、同様のイメージで外側を覆うように魔力を纏わせてみる。できた……。だがこの練度じゃ全然だ、俺も練習しとこう。というかエリック、工夫しないと当たらないぞ?
「エリックはずっと振り回してばかりですねー、しかも大振り。カーズが折角軽い剣を創ってくれたというのにー」
「くそっ、わかってるんだよ! でもな、俺は不器用でね、これしかねーんだわ!」
「うーむ、ならちゃーんと指導してあげましょうねー」
撃ち下ろしを左側へ体を回転しながら躱し、そのままエリックの首筋に小枝を突き付ける。実戦なら今ので終わっている。
「くそっ!」
次は薙ぎ払いか、しかしアリアは超スピードで回避し、振るった大剣の腹に着地した。
「大剣の弱点その1、攻撃が単調」
ほっ、とアリアが地面に着地する。
「でやぁ!」
次の一撃をすれすれで回避し、懐に潜り込む。
「その2、外した時の隙が大き過ぎる」
ドンッ!!
アリアが潜り込むと同時に小枝の突きをエリックの装備している鎧の胸元のプレートの上に放つ。
「ぐはっ!」
もんどりうって後ろへ吹っ飛ぶエリック。小枝であの巨体を吹っ飛ばすかよ…。
「その3、それ故にカウンターが取りやすい。まあ、まだまだありますが。では私が大剣の扱い方を教えてあげましょうかー」
小枝を放って捨てる、そしてその手を空間へと入れる。異次元倉庫だ、そこから抜き取ったのは大剣、しかも身長ほどもある巨大なクレイモアだ。
14-17世紀にかけてスコットランド
<アストラリア・クレイモア(S:アリア専用)>
物理攻撃力:2500
魔法攻撃力:∞(纏わせた魔力量によって最大値増加)
エグっ!! おいおい、マジか! そんなんでやったらエリック死ぬぞ! アリアはそれを片手で軽々と振り回し、突きを放つような構えを取る。
「エリック、全力で防御に徹しなさい。死にますよ……」
「う……、あ、ああ、分かった……」
さすがにこれは……、死ぬなよ。
「ハッ!」
短い踏み込みから連続で突きを放つ。なるほど細かい突きなら隙は少なくはなるな。
ガガガガガガッ!!!!!
すれすれで受けたり、受け流すエリック、
「次っ!」
今度は上からの打ち下ろしだ。でもこれは隙が大きいんじゃないのか? エリックが何とか剣で斬り結んで回避。そして撃ち下ろしたクレイモアが地面に突き刺さると同時に、柄を軸にして空中でくるりと方向転換、エリックへ蹴りが飛ぶ!
バキィッ!
「ぐはっ!」
エリックがそれをモロに顔面で食らう。
「ヤアッ!」
次は右手で左からの横薙ぎか、どんな工夫をするんだ? エリックが剣を盾にしてそれを防ぐ。だがアリアは止まらない! 残った左手に鞘を持ち、剣戟に重ねるように鞘を重ねて打ち込む、一撃だが威力的には二撃分に相当する威力だ、エリックは威力を防ぎきれずに吹っ飛ぶが、何とか起き上がる。だがもうボロボロだ。
「うぐ……、すげえな。こんな戦い方があるとは。目から鱗だぜ」
「ではこれは今後の成長に期待して見せてあげましょう……。全力で防御なさい! アストラリア流大剣スキル」
おい、マジか! そんなのを撃ったら!?
「シューティング・スターズ」
俺も全ては見えなかった、途轍もない筋力とハンドスピードが織り成す超速の突きの連打! 当に流星群だ、アリアはそれを全てエリックに当たらないよう、バルムンクのみに集中させた。恐らくエリックにはほぼ一撃に感じられたはずだ。そして入れ替わるように技を放ちながら、背後へと回り込んだ。
バキッ、バキキキィイイイイイーーーン!!!
Aランクのバルムンクが破壊された。おいおい、せっかく創ったってのに! いきなり壊すなよなー。
「ふぅ、まあ今ので20発くらいですかねー」
「お、おお、俺のバルムンクが……」
あーあ、そりゃショックだろ。昨日あんなに喜んでたってのになあ。ていうか20発か、俺には10発までがギリ見えたかどうかだぞ。
「大剣を使うなら今の私の動きから学んでくださーい」
「アンタのお姉さん、メチャクチャ言うわね……」
「ごもっともだと思うよ……」
隣でユズリハがボソッと口に出した。いや、マジでそう思うよ。
「ははっ! なるほどな。いきなり大振りするんじゃなくて、突きなどを使った隙が少ない小技で攻める、隙が大きくなる攻撃を放つときは次へ繋ぐ組み立てを考えろってことだな。鞘での2撃目なんて思いつきもしなかった、体術も組み込んでいくってのも大切だな。だが、最後の技は一瞬の内にほぼ一撃のような連続の突きが放たれたとしかわかんねえ。あれは俺にできるシロモノじゃあない。でも、色々と参考になったぜ、ありがとうよ、アリアさん!」
なるほど、さすが大剣使い。違いもすぐ分かるんだろうな。うんうん、エリックも学べたようで良かったよ。
「さーて、そろそろ休憩しましょうかねー、お腹も空きましたー」
「そう思ってすぐ食べられそうな簡単なものは街で買っておいたぞ」
異次元倉庫から取り出す。みんな一緒にピクニック気分だ。いいね、こういうの楽しい。エリックも回復させておいた。
「いやー、アリアさん凄すぎるねー! こんな短時間でまさか自分が逆属性を使えるようになるとは思わなかったわ!」
「ふふーん、イメージできれば簡単なのですよー」
ムシャムシャと肉串を頬張りながら話すアリア。こいつ行儀悪いなー。
「俺も立ち回りを学ばせてもらった。トリッキーだがやる価値はあるぜ」
「そっか、二人とも良かったな。アリアありがとう」
「うふふー、可愛い弟の頼みですからねー。じゃあ次はカーズの稽古をしましょうかー?」
「え、俺も?」
「もちろんですよー」
「おお、マジか! そいつは見たいな!」
「うんうん、これは学びがいっぱいよ!」
盛り上がる二人。マジかよ、俺死ぬかもしれんね(笑) ていうかさ、俺戦闘経験3日だよ? そりゃあスキルとかの御陰で何とかなってるけどさ、この二人に比べても超がつくド素人だぜ? そこいらの少年たちよ、3日でマラドーナやメッシになれるかい? なれねーよ!!
まあいい、言われたからには負けたくないし、引きたくもない。男子のささやかなプライドってやつだ。ま、実際そんなの何の役にも立たんけどね。プライドポテト、プライドチキンってもんだ。
3日の経験でどこまでのことができるか、それに遥かに格上のアリアと対峙すれば見えるものだってあるはずだ。ならやってやろうじゃないか。勝てなくても、いや勝つ気がなくて勝負なんてしない。ずっと忘れていたが俺はそういう奴だ、そして相手が強い程、逆境に立たされる程燃える人間だったってことだ。
「やろうアリア、本気でいくからな!」
「おおー、やる気ですねー。これは楽しそうー」
エリック達二人と距離を取る、巻き込んだら大ごとだ。そしてアリアと向き合う。3日だ、だから使えるものは全て使わせてもらう! 腰からアストラリアソードを抜く。
<精神耐性SS、未来視、明鏡止水、弱点看破、標的化が発動します>
俺から視える弱点などない、だから標的化するのは人体の急所のみだ。まだ刀を抜かないアリア、ぶっちゃけ素手でもこいつは戦えるんだもんな。兎に角、絶対に後手に回るのはまずい、先手必勝、手数あるのみだ。
「いくぞ!」
地面を蹴る! 同時にアリアの足元が泥濘の泥沼に変わる。『ボトムレス・スワンプ』所謂底なし沼を作って自由を奪う土魔法だ。隠蔽をかけて先に発動させておいたのだ。
「おー、無策で飛び込んでこないのはいいことですねー」
当たり前だ、どうせ大した効果はないんだ。先制を確実に当てるために過ぎない、この一瞬だ! この一瞬に、この一撃に集中しろ!
「アストラリア流ソードスキル」
助走したスピードを殺さずに嵐の如き一点打突技!
「ストーム・スラスト!」
「アストラリア流刀スキル」
「
アリアの足元は既に凍りついて効果は消されている。そしていつの間にか抜刀した刀から放たれるのは同じ突き技!
カッ!!!
剣先に剣先を狂いなく合わせられた。同じ特性のスキルでも魔力量の差で、加速していた俺の方が後ろへ弾かれる。
「くっ、まだだ!」
だが踏み止まると同時に前へ駆け出す、アリアもこちらへと駆け出している。
「サンライズ・リープ!」
太陽が昇る様な剣閃で地面ごと下から斬り上げる。
「
これに反して上段からの斬り落とし。
ガカッ!!!
また返された、だが俺は止まらないぞ! 後手に回った時点で負けるからな!
「うおおおおおおおお!!」
前に出る!
「タイガー・クロー!」
3連撃!
「
同じく刀での3連撃!
ズガガガッ!!!
「フェンリル・ファング!」
上下からの同時2連撃!
「
同様の上下2連!
「アクベンス・ネイル!」
左右から蟹のツメで切断するかの様な2連の挟撃!
「
これも同じく左右からの2連だ、先に出しても後出しのアリアに相殺される。剣閃にハンドスピードが違い過ぎるのだ。仕方ない、ならば少しでも速度を稼ぐ! アストラリアソードを右に持ち替え、左手で女神刀を抜く! 二刀流だ、これでスキルスピードをより速く!
「うおおおおおお!」
もう一度だ!
「スクエア・エッジ!」
四角を描くような4連撃!
「
一刀で二刀流のスピードを返してくる、わかってたけどまだ差があるのかよ!
ギギギギィイーーン!!!
こっちは二刀だから謂わば2連撃、だが向こうは一刀だから文字通りの4連撃だ!
「はあああああああ!!!」
だが止まるわけにはいかないぜ!
「
光の魔力を込めた十字切り、
「
ギキーーィン!!!
またしても同種の技で相殺される! なら今出せる最大連撃だ!
「ストーム・ロンド!」
嵐の中を舞うような6連の斬撃!
「
ガギギギギギギィイーーーン!!!
これもかよ!! 速過ぎる! 俺がもし後出しなら絶対に競り負けて刻まれる! だが仕方ない、ならば後の先で勝負! 最後の激突で丁度良く距離も取れた。剣を二刀のままの無行の位をとる。勿論挑発だ。
「おおーぅ、なるほど、そうきましたかー。いいですよー」
ニヤリと笑い、刀を鞘に納めるアリア。更に前傾姿勢を取って、それを即座に抜けるように右手を前に構える。抜刀術か……? 残念だがまだ俺には使えない、相殺は無理だ。ならば絶対に躱す必要がある、何が来るんだ…?
「アストラリア流抜刀術」
目を凝らせ! 未来視でも完全には捕らえられないんだ!
「
その場からは移動せずに、魔力と剣圧の衝撃波か、これは近づけない!
「くっ!」
未来視も明鏡止水もまるで意味がない、なんて速度だ、避けろ避けろ避けろー!!!
ザシュッ!!
右肩をかすめた、ヴェールもバトルドレスも紙切れの様に切り裂いて、肉体にダメージが入る! 痛ってえええええ!!!! 刀傷ってこんなに痛いのかよ!! いや、魔力も籠ってるから受ける衝撃はただの傷じゃない! 歯を食いしばって耐える!
「ぐっ……」
まだだ、まだ好機はあるはず。また飛天を使われたら遠距離から嬲られるだけだが、アリアはそういう奴じゃない。いつの間にか納刀されている刀で、またも抜刀術の構えを取るアリア。
「アストラリア流抜刀術」
同時に地面を蹴るアリア。よし、これで間合いには入れる!
「
「ここだ!!」
アリアの刀が抜かれるその前の刹那の瞬間、恐らく剣閃が通るであろう場所から左足を踏み出し、そこを軸にして左側へ回避しながら回転! そのまま左からの横薙ぎの反撃に繋ぐ!
「テンペスト・カウンター!」
ガキィィーーン!
「なっ!?」
決まったと思ったはずの横薙ぎの斬撃が止められている、しかも抜刀したはずの刀だ。
「壱の型」
ズンッ! メキメキィッ!!
「がはっ!!」
残った鞘での二撃目が俺の右脇腹に入る、骨が軋む衝撃と共に吹っ飛ばされた。やべえ、絶対折れてるわこれ……。
「抜刀術の隙を狙うカウンターっていうのは良い狙いですよー。でもねー、そういう隙が生じるってことに対処した二段構えの技ってのもあるんですよー」
「ははっ、二撃目が刃なら俺は今頃真っ二つってことか……」
さすがは神様の剣術だ、エゲつないぜ……。
「そういうことです。カウンターは完璧に見切ったうえで使うこと! でないとこうなりますよー」
なるほど、確かにその通りだ。一か八かで使ったのは悪手って訳だな。完璧にやることも読まれてるじゃないか。剣を突き立てて起き上がる。
脇下は人体の急所だ、下手したら今頃呼吸困難だった。さっさと回復をかけるに限るな。とりあえず痛みは引いた。さてどうするかな…、ぶっちゃけ後がない! ぶっつけ本番で通用するかは分からないが…。
「はははっ!」
笑いが込み上げてくる。そうそう、強い相手との勝負って楽しいんだ。思い出したぜ、こういう状況こそが楽しいんだと。だが前世と違うのはこれがスポーツなどではなくて、刃を交わす命を懸けたものだということだ。だが断然こちらの方がおもしろいぜ!
さてやるだけやってみるか、一泡吹かせられたら充分だ、それなら実戦でも十分通用する。なんせ相手は神様だしな。
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続きが気になる方はどうぞ次の物語へ、♥やコメント、お星様を頂けると喜びます。執筆のモチベーションアップにもつながります!
一話ごとの文字数が多いので、その回一話でがっつり進むように構成しております。
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