第一章 13  作戦会議とお試し武具創造




 数時間後。危うくうとうとと眠りかけていた俺は、マリーさんに起こされる。危ない、まだ寝たりしたら女性側に無意識に引っ張られてしまう。人前では気を抜いたらダメだ。更に無駄な注目を集めることになる。


「ようやく報酬とランクの計算が終わりましたよ。もう、カーズさん! 前代未聞過ぎて大変だったんですからね!」

「あ、ああ、申し訳ない」


 目を擦りながら答える。確かに結構時間かかったみたいだ。そろそろ日も暮れてくる。


「いいえ、これまで未達成のままになっていて困っていたクエストもあったからこっちとしては大助かりだけどね、猫獣人の手も借りたいくらい突然忙しくなったわよ。みんな総出で手伝ってくれたからこれでも早く終わった方なんだから」


 無自覚だったけど、訓練とはいえそこまでの数を狩っていたとは……。必死だったしな。


「で、カウンターで渡すけど、報酬はクエストと賊の懸賞金、素材の買取など全部で850万ギール。ワイバーンの素材は後日オークションだから、それはそのときね」


 マリーさんに 付いて行き、カウンターで大量の金貨を受け取る。おおー、すごいな、2日でこんな額稼げるなんて。冒険者すげー! でも、ぶっちゃけ体が資本の命懸けの自営業って感じがするなあ。怪我したら終わりだ。でもそういう一攫千金のために命を燃やす生き方ってなんかいい。スポーツ選手だってそんなもんだ。とりあえず美味い物をたくさん食べよう!


「それとランクについては、もう異例中の異例、Bランクまで一気に昇格よ。それについてはこれからギルマスから話があるわ。エリックとユズリハも一緒にね」



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 ということで今はギルマスの部屋のソファーに座っている。右にエリック、左に俺の頭を撫で続けるユズリハ。目の前にはギルマスとマリーさんだ。


「とりあえず、Bランクへの昇格おめでとう、カーズくん」

「はは……、ありがとうございます。でもいいんですか? 我ながら悪いような気がします」

「まあ異例中の異例だったのう。だが、GPも十分な程貯まっておったし、試験で実力も見た。ズルしてGPを稼ぐことなどできん。上げないわけにはいかんかったのだよ。ウチとしても実力者は大歓迎だし、めでたいことなのだよ」

「はあ、ありがとうございます?」


 よく分からないが良いことなのだろう。とりあえず俺はたくさん報酬が貰えるならいい、美味しいものを食べられるし。


「で、じいさん。俺達までここに呼んだのはどういう理由だ?」

「そうね、試験監督しただけだし」


 そうだな、何で二人も呼ばれてるんだ? そしてユズリハは俺をいい加減解放して欲しい。


「お前達、調度良くAランクの試験資格を持ったことになってのう。だがこれはクラーチ王国のギルドのような大きなギルドでしか受けられん。Sランク試験も同じようなものでな。3人も揃ったことだしクラーチの王都で試験を受けて来いと思ってな。どうだ、受けるか?」


 あ、そう言えば王都に行く用事もあったな。この際今日の事件のことをギルマスに話すべきか? 恐らくステファンの人柄なら力になってくれるはずだ。それに2人が付いてくるならあの護衛達よりは頼りになる。どうしたもんかな……。いや、正直俺一人で手に負える案件ではない、協力者は多い方がいいだろうな。


「マジかよ、そいつはいいな! 三人で受かってやろうぜ!」

「そうね、せっかくだし。カーズと王都も楽しそう!」

「王都……。ギルマスにマリーさん、少々相談したいことがあります。それと二人にも出来れば協力して欲しい。更に絶対に内密にしてもらいたい」

「ほう、何やら大変そうな様子じゃな。お主ほどの者がそう言うとは」



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「それは……、そんな危険なことがあったんですね」


 マリーさんが溜息を吐く。つい先程の事件だしな。俺はアーヤ姫救出の際の出来事と帰りの道中の護衛を引き受けていること。恐らく王国内で何かしらの事件が起きていることを話した。そして宰相が怪しいことに明らかにそれと繋がっている執事を捕らえていること、出発は1週間後ということも。


「うむ、だがカーズくんの判断は英断だ。王族が依頼など出せば大騒ぎになる。それに護衛のレベルも考えるとな。ではこれを今回の極秘クエストとしておこう。決して他言してはならん。エリック、ユズリハも護衛として一緒に同行すること、もし可能なら王国の闇を暴いて来い。だが決して無理はするな。自分達の命が優先だ。恐らくSランク以上に相当する危険な任務になるかもわからん。儂は先に公務中のアーヤ王女と面会をしておこう。それに王宮には知り合いも多いのでな、色々と手回しをしておこう。試験はそのついでに済ませて来い、よいな」


 ガシッとエリックが拳を合わせる。


「よっしゃ、こいつは燃えるな! やってやろうじゃねーか! 三人でAランクになろうぜ!」

「遊びじゃないのよ、バカエリック。まあカーズと一緒だし私も楽しみ!」


 浮かれているが、王族全体がヤバいんだ。一人じゃあ手が回らないかも知れない。巻き込んだことになるし礼は言っておこう。


「二人とも助かる、ありがとう」

「カーズくん、大変だろうが二人のことも守ってやってくれ」

「はい、俺の前で仲間は誰一人殺させやしない」


 二人とも知り合ったばかりだが気のいい奴らだ。俺の都合で死なせたりなど出来ない。こればっかりは絶対だ。それにアーヤ姫、彼女のことはなぜか心に引っ掛かる。何故かはわからないが。

 

 ということで、後日また話し合いとなった。後は宿泊する宿屋も紹介してもらった。ありがたい。



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 そして今は冒険者のみんなに奢ることになってしまい、どんちゃん騒ぎの最中だ。楽しめるときに思い切り楽しむか。いいな、今を生きてるって感じがする。

 俺は寝てしまうとまずいのでほとんど飲んでいない。それに恐らく全耐性が高くなっているためかまるで酔わない。ということで、声をかけてくる冒険者や他のギルド関係者などと挨拶やらしながらテーブルで適当に食べたりして寛いでいる。一日が濃過ぎたし、多少は疲れたのかもしれない。


 そうだ、エリックの武器を壊してしまったんだった。クエストにも一緒に行くし、武具創造のスキルで創ってやるか。折角のスキルだ、使えるかも試したい。冒険者仲間と飲んでいるエリックに目をやる。


「おーい、エリック!」

「なんだ、カーズ! どうした?」


 のしのしと近づいて来るエリック。


「武器壊しちゃっただろ、不便だと思ってさ」

「ああー、だが仕方ないしな。また店でも探してみるぜ」

「そのことなんだが、俺は武具創造というスキルを持ってる。まだ試したことはないが、Aランクまでの武器なら創れるはずなんだ」

「マジかよ、そいつはスゲェ! じゃあ頼むぜ、お前が創るんだ、とんでもないものに決まってる」

「どうかな、やっぱり大剣がいいのか?」


 うーん、まあそうだと頷くエリック。俺は自分が大剣を使わない理由を知ってもらおうと思った。


「正直言って大剣は使い勝手が悪いぞ。その大きさ故に叩き切るか薙ぎ払うしかできない。重い上に体力も使う。外したときの隙も大きいしな」

「……確かにそうだな、なら軽くて丈夫なやつを頼めるか? それならその弱点はなくなるだろ? それに愛着もあるしな」


 愛着か、自分の愛剣だったんだろうし、それはそうだろうな。俺なんかよりずっと長くこの稼業をやっているんだ、俺が決めていいことじゃないな。


「なるほどな。わかった。出来る限りやってみよう。もっと他にリクエストはあるか?」

「軽くて丈夫、だが斬撃が軽いと困る。持つには軽いが、与える衝撃は強い方がいい。あのぶった斬る感触がいいんだ。あとはお前のイメージに任せるさ」

「わかった、初めてだがやってみよう」


 両手に魔力を込めると、その空間に黒いひずみができる。

 

<スキル武具創造が発動します。創造する武具のイメージを固めたらそれを更に形にするイメージで空間から取り出して下さい>


 なるほど、スキルが詳しく教えてくれるとはありがたい。ならイメージは大剣。軽くて壊れない。更に切りつけたときに衝撃が追加で加わるような、見た目のイメージはそうだな、細かいことはわからないが北欧神話の魔剣バルムンクだ、グラムとかノートゥングとも言うが響き的にバルムンクがいいな。今の俺にとって出来る『最強』のイメージを魔力と供に注ぎ込む!


 <イメージ構築完了・魔剣バルムンク、創造開始します。魔力を硬質化するイメージで集中させながら空間から抜き取って下さい>


 よし、了解だ。俺の両手が突っ込まれている黒い空間から禍々しい魔剣が出現し始める。そのイメージに魔力を固定しながら剣を引き抜く。元の大剣とほぼ同じくらいの大きさだが、刀身は黒くギラついて輝いている。剣自体に込めた魔力で、自動的に無属性の衝撃追加のおまけつきだ。

 意外にも創れるものだな、片手でも軽々と振れる。今の俺に創れる『最強』のイメージが収束された、Aランク相当の大剣だ。勝手なイメージだから本当の神話の剣とは見た目が異なるだろうが、それはそれ。俺にとってのイメージだし、地球じゃないから誰も知らないしな。

 だがこれはかなりの魔力を使うな。恐らくイメージに合わせてMPの消費量が変わるのかもしれない。ついでに専用の鞘も高硬度で創造した。ふぅ、と息を吐きながら鞘に納めたその剣を片手で持ち上げながらエリックに向ける。


「受け取ってくれエリック。今日の礼だ。そいつは魔剣バルムンク、神話の英雄が使っていたとされる伝説の魔剣だ」

「お、おぉ……、何だこれ?! 途轍もない魔力を感じる。しかもまるで重さを感じねえ。どんな素材なんだよ?」


 受け取ったエリックが騒ぐ。わかるよ、俺がアリアのお手製をもらった時も驚いたもんな。


「俺の魔力を高濃度で圧縮して硬質化してある。オリハルコンにはさすがに負けるが、そこら辺のものなら切れないものはないと思うぞ」

「マジかよ、とんでもねえな! ありがとうよ、相棒! ちょっくら試し切りに行ってくるぜ、またあとでな!」


 サッサと行ってしまった、そしていつの間にか相棒にされてしまった。喜んでくれたしいいか…って、また視線が集まってるな。そりゃあ空間からあんなデカい剣出せば目立つわ! 俺のバカ! あんなに物々しい感じになるスキルだったとは、こんな大勢の前でやるんじゃなかった。


「ははは、手品だよ、手品!」


 誤魔化してみた。ゴン! 後ろからげんこつが飛んできた、痛い。やっぱユズリハか……。


「まーた何やってんのよ、カーズ?」

「いやー、エリックの武器壊しちゃっただろ。だからお詫びにと思ってさ」

「何ですってー! あいつばっかりズルい――!! 私にも杖作ってよ! あれに負けないくらいの!」

「いや、結構魔力使ったし、今日はもう無理かも、ははは……」

「じゃあこれでも飲みなさい!」


 ぶちゅ――! 何だ? ユズリハにキスされてるのか? しかも何か水分を口の中に入れられた、苦しいので思わず飲んでしまった。少しだけ魔力が回復した気がする。


「ぷはっ、ちょ、ユズリハ! みんな見てるって!」


 ぐいぐいと、ユズリハを押しのける。本当よく絡んで来るなあ。


「ふふーん、どう? マナポーションよ、魔力回復したでしょ? それにねー、アンタみたいなカワイイ顔してたら異性に見えないのー。こんなの同性と戯れてるようなもんよ!」


 いや、同性でもキスはしないだろ? 男だったら俺吐くよ? それにそこまで言われると男としては少々悲しいなあ。見た目は仕方ないけどさ。しかしなぜそんなもんを今飲んでるんだよ?


「全然違うように思うんだけど……」


 確かに回復したが、ほんの少しだ。全快には程遠い、全然足りない。さっきのでMPごっそり持って行かれた。多分まだコントロールが甘いのだろう。初めてのスキルだとはいえ、思ったより加減が難しい。


「うーん、あれくらいじゃあ全然足りないかも。意外に結構MP消費したんだよ」


「えー、じゃあ私のは? ねえねえ、ダメなの!?」

 

 ダメだ完全に酔ってるじゃないか、胸元にギュムーと抱きすくめられて苦しい。もう何回目だよ。まあ、おっぱいはありがとう。苦しい、でもありがとう、やっぱり苦しい。


「また創ってあげるから、どうせ一緒にクエストに行くんだし。それに杖は脆いから囲まれたらアウトだし、そうなっても戦えるような武器にしてあげるからさ」

「うん、わかった、絶対よ――!!」


 また来た、ヤバい、もう勘弁してくれ。酒乱は苦手なんだよ!


「おう、カーズ戻ったぜ!」


 エリックか助かった。ていうかもう戻って来たのかよ。


「丁度良かった。とりあえずユズリハを何とかしてくれ!」


 そんなのどうでもいいって感じでエリックが詰め寄って来る。


「何だよこの剣の性能は!!! えげつねえぞ! どうなってんだよ!?」

「え、あ? そ、そうか?」


 こっちも興奮してるなー、しかもこいつ酔ったまま街の外行ったのかよ。


「大木がスパスパ切れちまう。地面に打ち下ろしたら、前方に爆発したみたいな衝撃がぶっ飛んで地面が抉れるし、何だよこの効果は!?」


 あ、ダメだ。二人してグイグイくる。勘弁してくれ、周りもげらげら笑ってるし、誰も止めてくれない。そのまましばらくみんなのおもちゃにされながら、深く溜息を吐く。


 とりあえず落ち着いたら、宿屋に行こう。戦闘よりよっぽど疲れたな。いい加減にアリアを起こさないとだし。あーあ、早く休みたい。宿屋に着くのはもう少し経ってからになりそうだ。




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一話ごとの文字数が多いので、その回一話でがっつり進むように構成しております。

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