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「あの〜、こんにちは〜…」
時は11時47分。ところは、土岐雄が勤める会社『ウハウハ・ドール・カンパニー』のオフィス内。やっとこ辿り着いたが史都が、そのガラス張りのドアを背に挨拶しました。
が、
「誰もいらっしゃらないようです〜」
史都の言う通り。このシンプルでコンパクトな空間の中、向こうのカウンター内にも、また手前脇の接客用らしき応接セットの方にも、人の姿はありません。
よって史都は、しばし待ってみることに。とりあえず、その応接セットのローテーブルにラジカセとお弁当を置き置きソファに座って、誰かが現れるのを待ちます。
すると、
「ふ〜、すっきりした…っと、もしかしてウチの製品かしら」
どうやら、厠に行っていたようです。ほどなくして、カウンターの奥のドアから、ひとりの中年女性が姿を見せました。
「でも、なんであんなところに?」
いわゆる事務服姿。現れたと思えば、史都を自社製品と勘違い。ひとり小首を傾げる女性ですが…
「いえ〜…ワタシは製品ではありません〜」
ひとまず、お弁当とラジカセはそのままに、再び立ち上がりつつ史都が返します。
「う、動いた喋った! ひょっとして、お喋り機能付きの新製品…」
違うって言っとるでしょーに。
「いえ〜、ワタシは新製品でもありません〜。こちらでお世話になっています、有田土岐雄の
あちゃ、違うといえば、こっちもです。
それを言うなら
「へ…? 有田…あ、部長の。これは失礼しました。てっきり人形かと思いまして…」
まあ、事実『人形』なので、間違ってはいませんけどね。
「いいんです〜。ところで、有田は〜」
「あ、はい。それが、いま奥で会議中でして…で、きょうに限って、ちょっと長引くかも知れません」
ようやくカウンターへ歩み寄りながら、女性事務員さんが申し訳なさげに言いました。
「では、これを有田に渡してください〜」
史都もまたカウンターの方へ。ラジカセとお弁当を手に、そこへ歩み寄ると共に、その洒落た木目調の上にお弁当のみを乗せました。
「あ、はい。でも、もしよろしければ、お茶でも。その間に、会議も終わるかも知れませんので…」
「ありがとうございます〜。でも、私はこれで〜」
せっかくですが、お仕事の邪魔にならぬよう、史都は丁重に辞退しました。
そして、
「では、またのお越しをお待ちしております」
事務員さんが一礼…って、デパートとかでもあるまいし、今日みたいに用事でもなければ、そんなフツーに来ることはないと思いますけどね。きっと。
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