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「…あ~、お弁当が〜…」


 ふと見るに、史都が土岐雄の為に作ったそれが、しかとローテーブルの端に。


 そう、土岐雄ったら慌てて出て行ったので、お弁当を持つのを、すっかり忘れてしまったのです。

 

 しかし、あとを追って渡すにも、彼が当宅を出てから、すでに15分ほどが経過しています。

 

 でも普通なら、もっと早く気づくはずでしょう…などというご指摘は、ごくライトにスルーさせて頂くとして、とにかく史都は、そのお弁当を土岐雄の会社まで届けることにしました。


 という訳で、ほどなく出発。お出かけ用のワンピに、お気に入りのつば・・広帽子など纏うや史都は、ウエストポーチを腰に巻き巻き、お弁当…と、ラジカセを手にアパートの外へ。


「あら、有田さんのところの…お出かけですか」


 その建物から少し行ったところで、史都は、同じアパートの住人たる中年女性に遭遇しました。


「はい〜、彼がお弁当を忘れて行ったので〜…会社まで届けようと思いまして〜」


「まあまあ、ダーリンの為に。これは、どうも惚気けられたわね」


「いえ〜、紅茶ではなく、お弁当です〜」


 はて、なんのことかと中年女性は考えた末、史都が、ダーリン・・・・ダージリン・・・・・(ティー)を勘違いしていることが判明。


「ま、まあ、とにかくお気をつけて、ね」


 引きつった笑顔に冷や汗をかきかき、中年女性が、史都の横をすり抜けていきます。 


「はい〜、では失礼します〜」


 初っ端からこの調子。だけに、なんとなく嫌な予感が漂う中、史都は再び歩き出しました。 

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