彼女はリアルドール

七七七@男姉

彼女はリアルドール

 いつもと何ら変わらぬ朝のことです。


「…土岐雄くん〜、起きてくださいな〜。ねえ、土岐雄くん〜…」


 との声で、はたと目を覚ますなり彼は、


「うわっ…!」


 思わず小さく叫んでしまいました。


 やけに美しくも、やたら無表情な女の顔が、しかもアップでもって、己の目に飛び込んで来たからです。


「あ、なんだ史都ちゃんか。びっくりしたー」


 なんて、布団を退け退けベッドから身を起こしたハンサムガイは、有田土岐雄ありたときお。現在24歳。


 そして、


「ごめんなさいです、土岐雄くん〜。いつも驚かせて〜」


 花柄おうちワンピの上からエプロン姿。ベッドの脇で何やら謝罪する、おかっぱロングヘアにパッチリお目々の彼女は、その同棲相手の楠史都くすのきしと。同じく24歳です。


「いんや、こっちこそゴメンね。もうすっかり見慣れたはずが、やっぱりインパクトが強過ぎて、つい…」

 

 だそうですが…まあ、土岐雄が驚くのも無理はないかも知れません。


 なにを隠そう、この楠史都は、人のようでいて人にあらず。かつて事故で亡くなった若い娘の霊を宿す、等身大のリアル美少女人形ですのでね。


 ええ、どうりで無表情かつ『うらめしや〜』みたいな、らしき・・・口調だと思いました。


 ちなみに、こうして身体は動かせても、口は動かせず。よって直に声を出すことも出来ないので、それ・・は当寝室にも見受けられる『ラジカセ』を通して発せられています。


 さて、そろそろ支度しないと、会社に遅刻しますぜ。土岐雄くん。

 

 そういえば彼は、かつて大学在学中に友人ともども立ち上げた、等身大ドール製造販売会社の、開発部長の座にあります。


 高校生の時にクラスメイトだった史都を、同じく人形と知りつつ好きになって以来、それ・・に強く興味を持った(持ってしまった?)がゆえの結果に違いありません。


 かたや史都はといえば、作家の父、楠帝都の影響によって自らも、その父のような作家を目指して修行中の身。この愛の巣アパートで彼を支える傍ら、小説の執筆を続けています。


 ともあれ、やがて洗面、朝食、着替え等を済ませるや土岐雄は、行ってきますのチュー・・・と共に、急ぎ出かけていきました。

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