第7話 看病
顔色の悪いユークを背負って魔車を降りた。彼の、思っていたよりもずっと軽い体重に驚いた。細く薄い体躯は汗が冷えたせいか冷たくなっている。この調子だと、熱が上がるのも時間の問題だな。
魔車が止まった場所から一番近い宿屋にユークを運び込む。思ったとおり熱が上がっていた。やっぱり汗で張り付いた衣服が身体を冷やしてしまったようだ。
このままじゃ容態が悪化するだろうから、着替えさせないといけないな。とはいえ、意識のないままで、自分で着替えができるわけがない。当たり前である。
意識がない人を着替えさせるのは大変らしいが、兄妹とはいえ、女の子であるユミルに手伝ってもらうわけにもいかないから、彼女には外で待ってもらっている。常識がないとはいえ、これくらいの配慮は俺にだってできるのだ。これまた当たり前である。
なんとか服を脱がして汗を拭く。しなやかな筋肉がじっとりと濡れていて、それだけでもユークが苦しんでいるのが伝わってきた。その後は再び身体が冷えないように、すぐに服を着せる。風呂上がりではないけどバスローブなのは許してほしい。着せやすかったんだよ。
ベッドにユークを寝かせてからユミルを呼ぶ。彼女は、さっきの間に用意していたらしい濡らしたタオルをユークの額に当てた。
異能の使い過ぎは体調に影響を及ぼす。俺も二回寝込んだことがあるが、かなり辛い。風邪とは根本的に違うのだ。その割には一日、二日もすればピタリと治る。体力の回復速度にも関係するのだろうけど、苦しいのは時間的に短い。
寝込んだとはいっても、俺はそこまで辛いとは感じなかった。一回目は倒れるほどの無茶ではなく、単純に疲れからきたものだったし、二回目はすぐに寝てしまったことで体力が少し回復していたことや、村のみんなのことで頭がいっぱいだったことで自分のことを考える余裕が失われていたからだろう。
ユークはシンプルに異能の使い過ぎで倒れたのだから、俺にはその苦しみがわからない。もどかしい気持ちは意味もなく俺を焦らせるけれど、何もできないことにかわりはない。水分をろくに取れていないはずのユークの身体は、未だに流れる汗で再びじっとりと湿りだしていた。
「いくら何でも、異能の使い過ぎでここまで弱るか? 異能を使いながら意識を飛ばしたわけじゃないし、そろそろ目が覚めると思うんだけど......」
「兄さんの異能ね、生来のものとは少し違うの」
俺の呟きに、ユミルがポツリとそう返した。
「詳しいことは兄さんが自分で話してくれるのを待つしかないけど、一つだけ教えておくわね。兄さんの異能は進化形なの。元の異能を強化したものだから、その分反動が大きいんだと思うわ......」
「進化する異能なんて、聞いたことない......」
そう、ありえないはずなのだ。異能は生来から変わらないもの。魂に刻まれたその力は、それこそ死ぬまで己とともにあり続けるものだ。
「__兄さんだけよ、こんなことできたのは。わたしたちが旅に出たのは、それが原因で師匠から追い出されたから」
「捨てられたんじゃ......」
ユークが言っていたこととわずかに違う言葉に思わず声が漏れる。
「兄さんは説明が下手くそなの。まあ、兄さんにとっては『捨てられた』であってるかもしれないけどね」
その言葉から、ユミルの昔話は始まった。
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