第5話 出発
回復した俺たちは、みんなを埋葬してから村を出た。初めての村の外だ。
「こんな山奥の村によくこようと思ったな。こんな坂道、体調悪いときに通れるようなものじゃないだろ?」
「私がこの村に立ち寄ろうと言ったからだ。プラーミャに行く前に聖人の住む村を覗いて見たかったんだよ」
......目的俺かよ。
「ほら、もうちょっと警戒しなさいよ。この辺りのモンスターは弱くないんだから」
なんで俺だけ言われるの? ユークだってたいして警戒してなかったよ。
「まあ、サーチは張ってるけど警戒は必須だな」
そうですか、魔法って便利だな! 別にずるいなんて思ってないから!
「って、え? ここ、魔物いるのか!?」
当たり前だろって顔で見ないでくれ。家の本で読んだ知識しかないんだよ。生息地なんて知らないし。この道は整備されてるし、出てこないと思ってたんだよ。前世ではそんな存在はいなかったしな。言わないけど。そして言えるわけないけど。
「噂をすれば、だな。何かくるぞ」
嘘だろ、俺、戦えないんだけど。武器ないよ? 魔法は言わずともがなだしね。戦闘態勢を取る二人と、何もできない俺。旅の経験の差が目に見える......。
「ああ、武器がないのか。__生成・短剣。とりあえず、これでいいだろう」
厚みのある刃のナイフを渡された。うん、扱えそうだな。なんで俺が使いやすい武器がわかってるんだよ。
「ウェアベアー!? この辺りのボスなんじゃないの!?」
「村に行くときにモンスターがいなかったのはこれが原因か」
行きはよいよい帰りは悪い、ってことか? というか、分析してる場合じゃなくないか?
「秘剣、爆炎斬!」
最初に仕掛けたのはユミルだった。騎士が先頭を切っていくの、かっこいいな。
「あー、もうっ! かったいわね。全然斬れないんだけど」
火を纏った長剣で全然斬れないとか、シャレにならないんだけど。
「氷刃」
ユークの放った魔法は、ウェアベアーの肩をわずかに傷つけて木の幹に突き刺さり、霧散した。二人の技が全く通用してないわけじゃないな。ダメージは与えている。だが、場所が悪い。急所を突かないと仕留められない。こんなやつの弱点なんて知らないけど。
そのとき、ウェアベアーの眉間と脇の下が光って見えた。前世で身につけた身体の使い方で、必要最低限の動きだけで素速く相手の懐に潜り込む。右脇の下を狙って、俺は短剣を突き刺した。どうやら光って見えた場所は弱点だったようで、すんなり刃が食い込んで肉を斬る。それを確認して、反撃がくる前に距離を取る。一秒前に自分がいた場所で、長い爪が空を切った。
「あっぶな!」
「その調子よ。殺しちゃだめだからね。疲弊させてからわたしが傷だけ回復させる。ウェアベアーはこの辺りの主みたいだし、こいつがいなくなったら一帯の魔物が統率されなくなって暴れだしちゃうから」
それなら、眉間は狙ったらいけないか。即死攻撃になるからな。
左脇に標準を合わせる。相手の動きを予測して、自分の動きを調整する。爪の攻撃が当たらないように低い姿勢で突っ込んでいき、そのまま狙いどおりの場所に刃を滑り込ませた。紅が散って、ウェアベアーが倒れ込む。
「平和主義者、治療」
傷が、みるみるうちに治っていく。
「早く行くわよ! 傷治してるから、体力が回復したら追ってくるかもなんだからっ!」
それを先に言ってくれ!
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