第6話 最悪の案件【ぷちテイマー】

 異世界転生者は、増え続けている。


 『転生トラック』による被害者だけではなく、ごく普通に天命をまっとうした人達ですら、転生を選んで異世界へ行くのだから大変なのである。

 その度に、神様からスキルを要求する者は増え続けている。

 そして、そうやって異世界転生した者達が、神様から与えられたスキルを用いて、異世界を破壊していく。


 常識を、人々を、そして世界を。


 スキルによる、異世界の破壊。

 同じような事態が起きないように、神様は問題があったスキルをもう与えないように封印していく。

 そして再発防止のために、異世界を破壊しない、化ける事がないハズレスキルを作っていく。


 そんなハズレスキルであっても、有用性やら活用方法を考えて、無双して、結果として異世界を破壊していく。


 そのハズレスキルも封印して、また新たなハズレスキルを作っていく。


 スキルを作っては、異世界転生者によって化けたスキルになって。

 再発防止のために封印して、新たなスキルを作る。


 そして、そんな風にスキルを作っていく中で、こんなハズレスキルも生まれてくるのだ。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「さて、今回のお仕事のお時間です。本日、皆様に検討して頂くスキルは、こちらになります」



 ===== ===== =====

 【ぷちテイマー】

 (※スキル内容は決まっていませんので、後は皆さんで考えてください)

 ===== ===== =====



「死ねっ! 死ねっ! 死ね死ね死ね死ね、死ねっ!!」


 その案件のスキルを見て、蟹巻はめちゃんこキレていた。


「ありゃりゃ……上の人達も、ひどいのを渡してきましたね」


 鯉池さんも、このスキルに関しては、笑っていなかった。

 一応、笑ってはいるんだけれども、目の奥は笑っていなかった。


 まぁ、僕も似たような意見である。

 決められているのは名前だけで、スキルの中身をこちらに決めさせるというのはどうなんだろう。


「皆様には、このスキルの名前にあった内容まで含めて、考えていただく。これが、今回の神様からのお願いになります」

「お願いってか、自分で考えられねぇからって、こっちの仕事を増やすなよな。ったく」


 蟹巻は「こんな案件、さっさと終わらせんぞ」と、そう言う。


「要するに、【テイマー】----なにかを使役するスキルのハズレスキルだろう? それなら、"テイムできるのは、ほんの一瞬だけ"というのはどうだ? ほんの一瞬だけ心を通じ合わせるだけ、とかは」

「それなら、【インスタント・テイマー】というスキルですでにあります」


「だったら、もう使役する対象を相手じゃなくて、自分にしたらどうかしら? ほら、自分を使役して、身体能力をほんの少しだけ上げるみたいな?」

「それは、【ほんのりテイマー体験】というスキルがありますね」


 その後も、蟹巻と鯉池さんが挙げるアイデアを、斑鳩さんは淡々と類似したスキルの内容を言って否定していく。


 その世界で一番弱い魔物をテイムする能力に対し、【ザコテイマー】。

 自分で一から全て作った人形しか使役出来ない能力に対し、【オーダーメイドールズ】。

 「ぷち」という名前の犬を使役する能力に対し、【ペットテイマー】。


 蟹巻と鯉池さんは、いくつも言ってはいくが、そもそも僕が読んでいたウェブ小説でも、テイマーを基にした作品はたくさんあった。

 神様もまた、同じようにこういったテイマーのスキルをいっぱい作ったというのは、割かし想像しやすい事態であった。


「鹿野末様の方は、なにかアイデアがありますか?」

「【ぷちテイマー】に当てはまる能力で、という制約付きで、ですよね?」

「えぇ、それは勿論」


 今までに、見た事のないテイマーねぇ。

 ほとんど大喜利じゃないかな、これ?



 その後、1時間ほどかけてアイデアを出し合って、ようやく【ぷちテイマー】の能力を決定できたが、これはもう二度と受けたくない案件であると思い知ったのであった。




(※) 調査報告 レポートNo.010 (※)

 ハズレスキル候補 【ぷちテイマー】

 『ハズレスキル研究会』の面々で話し合った結果、スキル内容を決定しました

 決定したスキル内容としては『"ぷちっ"という音を操って生き物にする』というモノになりました

 内容としましては、音単体を操って、相手に不快感を与えるスキルです


 なお、『ハズレスキル研究会』の面々としては、このような事態はあまり再発しない事を願います、とのことです

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