第5話 怒ってて【草www】、【花畑で祝杯を】で慰めを

 スキルの中には、特定の条件下でしか発動できないスキルもある。


 例えば、スキル【白い恋人】。

 このスキルは、『雪で出来た雪だるまに、異性の人格を与える』というスキル。


 "雪で出来た雪だるま"とだけあって、このスキルは雪がある場所でしか発動できない。

 雪で作った人形、雪だるまさえあれば、その大きさや形は問わずに、自由自在に恋人として生命を与えることが出来るスキルである。


 このスキルを与えられた転生者が、100メートルの雪だるまに恋人としての人格を与えて、異世界を征服しようとしたこともあった。

 しかし、神様側がサイレント修正によって、雪だるまに与えた人格の恋人に「悪事を行おうとする異性を正す」という修正をこっそりと加えた事によって、転生者による異世界征服計画は為されなかった。


 まぁ、そんな風に特定の条件下でのみ、発動するというスキルもある。


 勿論、そういったハズレスキルも存在する。


 さて、本日のハズレスキルは----?



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 

 『ハズレスキル研究会』、その部屋の中で1人の男が苛立っていた。

 苛立っているのは、少年----眼鏡をかけた愛らしい少年、蟹巻である。


 蟹巻の周囲は、大量の花に覆い尽くされていた。


 花、花、花……。

 薔薇、チューリップ、カーネーション、桔梗、その他諸々。


 狭い部屋の中を、様々な種類の大量の花々が覆っていたのである。


「あぁ~……まだまだ、怒りが足りないでありんすねぇ」


 クスクスッと、部屋の外で鯉池さんが、中の様子を見ながら、笑っていた。

 それを僕が、「趣味悪っ……」と口にすると、鯉池さんは「失礼だなぁ」と返答する。


「これもまた、『ハズレスキル研究会』の活動でありんすよ。なにせ、あの花もハズレスキルで出た物ですから」



 ===== ===== =====

 【花畑で祝杯を】

 花びらをいっぱい降らすスキル。花の綺麗さを楽しむためのスキルであり、出される花の種類は多種多様ではあるが、素材などに使う事は出来ない

 ===== ===== =====



「ハズレスキル【花畑で祝杯を】の検証をしてるのでありんすよ? これも『ハズレスキル研究会』の活動の一環なのでありんす。

 ……あぁ~、やっぱりこれは化けそうなスキルでありんす。素材には出来なくても、いくらでも花を降らすことで、敵を窒息死させそうでありんすね。スキルの検証は、やはり大切でありんすよ」


 部屋いっぱいを覆う、数多の花々。

 確かに、いくらでも花を出せるのならば、窒息死させる事も出来るだろう。


 このまま部屋を閉じて、花を出し続けたら、蟹巻の死はあっという間に訪れるだろう。

 ただ花を楽しむだけのスキルにしては、殺傷性が高いし、確かに化けたらマズいハズレスキルと言えるだろう。


「それに、ここからはあなた、鹿野末様の出番ですよ? もう一つ、検証すべきスキルがあるでしょう?」

「あぁ、これか……」


 と、僕は先程、鯉池さんに渡されたハズレスキルを見直す。



 ===== ===== =====

 【草www】

 ブチギレた人を一瞬だけ、爆笑させるスキル

 ===== ===== =====



 今回、神様から検証しろと言われたハズレスキルは、2つ。

 さっきの【花畑で祝杯を】という大量の花で圧死が可能なハズレスキルと、この怒った人を爆笑させる【草www】というハズレスキルである。


「その【草www】は全ての人を爆笑させるスキルではありんせん。ブチギレた、めちゃんこ怒った人をほんの一瞬だけ爆笑させるスキルでありんす。そういう条件でしか発動できないハズレスキルでありんすし、ブチギレた人と言うのは検証のためには必要でありんしょ?」

「まぁ、確かにそうだけど……」

「あの蟹巻という少年、怒りっぽい彼を標的ターゲットにするのは当然でありんしょう?」


 ……まぁ、確かにあの蟹巻は、怒りっぽい性格みたいだからな。

 【草www】の対象たる"ブチギレた人"に使うとしたら、あの蟹巻に使うのは道理だろうか。


「ささっ、彼はもうブチギレてると思うし、サクッと使っちゃって検証! 検証!」

「あ、あぁ……」


 鯉池さんに促されるようにして、僕は部屋の中に入る。


「や、やぁ、蟹巻」

「あぁんっ?!」


 ブチッ!!


 そんな音がどこからか聞こえてきそうなくらい、彼はめちゃんこ怒っていた。

 僕はびっくりして震えあがりそうになる中、ハズレスキルの【草www】を使う。


 すると、彼の周囲に白い煙のような物が出たと思ったら、一瞬で弾かれてしまった。


「これは……スキル検証か。あぁ、なるほどな。この我で、なんかのスキルを試そうとしたんだな、お前」


 「馬鹿馬鹿しい」と、彼はそう言った。


「ほんと、神様の安心感のためだけに、こんなくだらない検証、やる価値あんのかよ。おいっ。

 ----あぁ、くだらねぇ。くだらねぇ。あと、死ねよ、お前」


 蟹巻はそう言って、部屋から出ていく。


 その最後、小さな声で、まるで僕にだけ聞かせるような声で、蟹巻はこう言った。


「あん時の仕返しじゃなくて、ホッとしたぜ。あと、死ね」


 ----仕返し??




(※) 調査報告 レポートNo.007 (※)

 ハズレスキル候補 【花畑で祝杯を】

 『花びらをいっぱい降らすスキル。花の綺麗さを楽しむためのスキルであり、出される花の種類は多種多様ではあるが、素材などに使う事は出来ない』

 ……との事でしたが、『ハズレスキル研究会』の鯉池様によると、花を無限に出すことによって、敵を圧死できる強力な攻撃スキルの可能性が大きいという結果が出ました

 なので、地面や人などに触れた際に消えるなど、溜まらない工夫が必要だと提案します



(※) 調査報告 レポートNo.008 (※)

 ハズレスキル候補 【草www】

 『ブチギレた人を一瞬だけ、爆笑させるスキル』

 ……との事でしたが、そもそもどの程度怒った人をブチギレた人として能力が発動するかが分からず、検証に『ハズレスキル研究会』の蟹巻様を使わせていただきましたが、発動できませんでした

 "ブチギレた人"に作用するスキルではなく、"怒った人"に作用するスキルにするなど、ほんの少し条件を緩和しなければ、発動する事すら困難なハズレスキルであるという結果になりました

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