第2話 閃いて! 【ピコーン!!】
ハズレスキル、それは神様が適当なノリと勢いにて、お遊びで作ったスキルである。
あったら便利だけれども、なくても別に問題はないスキル。
それこそが、当初のハズレスキルと呼ばれるモノだった。
しかし、転生者達がそのハズレスキルを覚醒させて、異世界で無双する事態がたびたび発生してしまう。
その対処のために、神によって新設された部署。
それが『ハズレスキル研究会』。
神様が作ったハズレスキルを精査して、覚醒したらヤバいスキルになるかどうか。
それを考える研究会、それが『ハズレスキル研究会』なのである。
別に間違えて、ただのハズレスキルが化けて無双になっても構わない。
あくまでも第三者の視点から見て、問題がないかを見る。
そこで見つかれば、御の字であり、見つからなくても「じゃあ、我でも気付かなくて当然だったか~」と納得する。
いわば、神様の自己満足的な部署なのである。
今日も今日とて、神様から検討して欲しいハズレスキルが、『ハズレスキル研究会』へと持ち込まれる。
さて、本日のハズレスキルは----??
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
----拝啓、お父さんとお母さん。
僕、鹿野末信二はいつの間にか死んでいたようです。
あと、その死んだ原因が『ントゥスにぶつかって死んだ』などと言う、本当に良く分からないモノなんですけど。
そして僕は死んで転生という訳でもなく、何故か『ハズレスキル研究会』なる謎の部署に配属されたらしい。
今日はそのハズレスキル研究会の同僚、クール系美人さんの斑鳩さんに連れられて、ハズレスキル研究会の事務所へと向かっておりました。
「----というか、ここはどこ?」
僕は今、謎の真っ白い空間を歩いている。
なんというか、まるで夢のような、ふわふわした現実味のない空間とでも言うべきか。
「鹿野末様、ここは『なぞのくうかん』でございます。現実世界でも、異世界でもない、そういう『なぞのくうかん』でございます」
「『なぞのくうかん』……?! 本当に、なにそれ?!」
「はい、こちらが『ハズレスキル研究会』の事務所となります」
斑鳩さんは『なぞのくうかん』についての質問を完全にスルーして、【ハズレスキル研究会】という看板がつけられた扉を開く。
扉の先は、6畳間くらいのフローリングされた部屋であった。
真ん中には綺麗な机があり、奥には依然見たようなホワイトボードが用意されている。
その他にも電子ポットやコンロがある簡易台所や、最新式の冷蔵庫。
壁掛けの棚の上には、花瓶や謎のサイン色紙。
なんか、普通に生活していておかしくない部屋であった。
「----おやぁ、新人ちゃんかいな? 入って、入ってぇ」
扉を開けて出迎えてくれたのは、オレンジ色の和服を着た花魁さんだった。
藍色の髪を肩の上の辺りで切り揃えた、胸もお尻もどちらも目のやり場が困っちゃうくらいに大きい美女さん。
扇子片手に「おほほ♡」と笑いながら、入ってくれと促された。
「初めましてやねぇ、私は【ハズレスキル研究会】の【
「また出た、ントゥス?!」
なに、また出て来たよ、ントゥス!?
ここって【ハズレスキル研究会】だよね、【ントゥス被害者の会】じゃないよね。
「では、紹介も済んだことなので、早速お仕事のお時間です」
パチンッ!!
斑鳩さんが指を鳴らすと、奥にあったホワイトボードに文字が現れる。
「今回、神様からご提案があったハズレスキルは、【ピコーン!!】でございます」
===== ===== =====
【ピコーン!!】
頭の中に「何か閃いた!」というような、「ピコーン!!」という音を鳴らすだけのスキル。音を何回鳴らしたとしても、別に健康的な問題はなく、他人を害する能力はありません
===== ===== =====
「おやまぁ、音を鳴らすだけかいな。これは、使えないでありんすなぁ」
「まぁ、ハズレスキルとは本来、あってもなくても大丈夫なスキル。そういうモノですから」
「ほな、今日の議題はこれで終わりやなぁ。いやぁ、早く終わって何よりでありんしょう」
「解散や、解散!」と、鯉池さんはそう言って、斑鳩さんも「問題なし」と報告しに行こうとする。
「……いや、えっと」
でも、僕は否定した。
何か、このスキル……色々と他に使えそうな、できそうな感じがする。
あくまでも、僕の小説好きの魂から訴えかけてくる、そういう類の奴だけども。
「そない言うても、新人はん? これは音を鳴らして、相手を驚かせたり、疲れさせたりするような能力ではないでありんすよ。あくまでも『ピコーン!!』と軽快な音を鳴らすだけで」
「いや、その音を聞いて、『閃いた!』と誤解させるとかは?」
「頭の中に一定の音を鳴らすだけでありんしょう。『閃いた!』と誤解はさせる事も出来るでありんしょうが、何度も同じ音を聞いていれば、効果も薄れると思うでありんす」
まぁ、確かに……これ、『ピコーン!!』という音を鳴らすだけで、別になにか閃かせる能力ではないですからね。
ただ、それっぽい音を聞かせるだけで。
「新人はん、この仕事は別に全てのスキルをハズレスキルではなく、無双する可能性があると無理くり論じるモノではないでありんすよ。あくまでも大丈夫かどうかを、第三者にも見てもらう程度の話でありんす。
いたずらに、無双するかも知れないって、そういうだけが仕事ではないでありんすよ」
鯉池さんは親切心で、そう言っている事は良く分かる。
全てのハズレスキルに対し、そんな熱心に対応していたら疲れるし、仕事にもならない。
そういう意味で、鯉池さんが言ってるんだろうなという事は理解できる。
「でも、僕達の役目は、それが化ける可能性もない、完璧なるハズレスキルかどうかを判断するのが仕事なんでは……」
「まぁ、そうでありんすが。このスキル、それほど化ける可能性があるでありんすか?」
鯉池さんに言われて、僕は再び考える。
この『ピコーン!!』と、ただ頭の中に音を鳴らすだけのスキルで、異世界無双する可能性があるかどうか。
その結果----
「あっ、こういう使い方ならどうでしょう?」
僕が提案したのは、こうだ。
ピアノやバイオリンの発表会で、自分のライバルにこのスキルを使ってミスをさせる。
そう----他人を蹴落とすためのスキル。
音楽家というのは、繊細な生き物だ。
そう聞けば、集中できなくて、自然とミスをするだろう。
「これなら、本来の用途である『他人を害する能力はない』という点はなんとかなるのでは?」
「いや、それはただの屁理屈やろう。なぁ、斑鳩はん?」
「……まぁ、一応は報告しますが、鯉池さんの言うように、無双する可能性はない、ですね」
「では、報告を纏めます」と、斑鳩さんはそのまま出て行った。
「新人さん、グッジョブやで」
斑鳩さんが出て行ったのを見計らって、ぽんっ、と鯉池さんは僕の肩を叩く。
「あんさん、屁理屈や考える事が好きなんやなぁ。『他人を害する可能性がある』というのは、なかなか上の神様連中は嬉しがってると思うで」
「えっ、嬉しがってる?」
僕としては、まだ何か引っかかる感じがあって、なんとなく不安定な心持ちなんだけども。
「あぁ、この部署ってそういう部署やから。神様が作ったスキルを通すだけなら問題はあらへん、けど後になって『実はこういう可能性が!』みたいなのが出た際に一つ忠告があった方がええやろう?」
100%問題なしと聞いておいて、失敗するよりも。
99%問題なしと聞いておいて、失敗した時の方が。
絶対に失敗しないと安心してミスした時のダメージよりも、少なくなる。
「この部署の目的って、そんなもんやから」
「そんなもんなんです?!」
なに、その気持ちの持ちようを変える程度の仕事?!
僕、転生ではなく、そんな事のために、ここに入れられたの?!
「これからも気楽にやろうな」と鯉池さんはそう言って出て行き、僕は無駄にこの部署に入れられただけのような、そんな気分になるのであった。
(※) 調査報告 レポートNo.002 (※)
ハズレスキル候補【ピコーン!!】
「頭の中に「何か閃いた!」というような、「ピコーン!!」という音を鳴らすだけのスキル。音を何回鳴らしたとしても、別に健康的な問題はなく、他人を害する能力はありません」
……との事でしたが、あくまでも限定的な使い方として、相手が集中している際に音を鳴らして、妨害行為になる可能性があると思われます
あくまでも可能性の話ではありますが、音量を完全に相手が集中を乱さない音、にすべきかもしれないとご報告します
(※) 追加報告 レポートNo.002.5 (※)
ハズレスキル【ピコーン!!】について
【ハズレスキル研究会】の報告を問題なしとし、音量の調節をさほどせずに、渡したところ、このスキルを貰った異世界転移者の1人が異世界で無双していると報告あり
なんでも『いかに強い召喚獣を持つかがステータスな異世界』にて、無理やり自分の身の丈に合わない上位精霊を召喚させた転移者が、【ピコーン!!】という音を複数回鳴らして、精霊を困らせ、「契約しなければ永遠に鳴らし続ける」と自らと契約するように仕向けたとのこと
現在、その転移者は神への反逆の意思はないが、今後は十分に注意する事とする
また、別の転移者も、標的が見つからなかった場合、この【ピコーン!!】を大音量で鳴らして、うざがらせておびき出し、別のスキルで攻撃するという、相手を無理やり誘い出すスキルに使用してるとの事
こちらは神への反逆の意思がありと判断されたため、現在神の先兵が討伐に向かっている所である
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