どうやっても化けそうにないハズレスキル研究会
帝国城摂政
第1話 ほんのり揺らして良い眠りを! 【風のゆりかご】
----『転生トラック』。
それは、巷で噂の、とあるミスのこと。
神々がうっかり、死なせる予定のない人間を殺してしまう事。
その殺す要因が、主にトラックなため、このような言葉が生まれた。
まぁ、要するに神様のうっかりで殺してしまったため、別世界に転生させてあげるから頑張ってね~と、そう言う事。
問題は、その数が年々増えている事。
10年で1人ミスして転生になるくらいのペースだったのに、最近では1年で10人20人くらいは、神々のミスで転生する人間が出てきている。
昨年などは、たった半月で40人もの『転生トラック』が発生し、多くの人間が転生することになったくらいだ。
そして、うっかりミスなために、神様はお詫びと称して、転生する人々にスキルを渡す"決まり"になっているのだが、そこでも問題が起きている。
それは、転生者が貰ったスキルで、無双してしまう事。
ただ無双するだけならいい、問題はそれが神々が"ハズレスキル"、つまりはあまり使い所がない予定で渡したスキルでの無双だったからだ。
なんでも食べても胃もたれしないようになる【胃もたれ防止】スキル。
そんなハズレスキルを貰った転生者が絶対に胃もたれしないからと、転生先であらゆる毒を食べ、体内に大量の毒が巡って。
結果として、どんな敵をも殺す最凶毒人間となった時には、神々も驚きを隠せなかったくらいである。
人間の欲は、恐ろしい、と。
そんなハズレスキルの、本来の用途を越えた使い方が増えたのに対して、神々は対策を行った。
それが、【ハズレスキル研究会】。
ハズレスキルと称したスキルが、本当にハズレスキルなのかを検証し、本来の用途を越える使い方が出来そうな場合は修正する、そんな部署。
さて、本日のハズレスキルは----??
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「----【
開口一番、目の前の女性は僕に向かってそう言ってきた。
「えっ? 死?」
当然、僕の反応としてはこれしかない。
僕は、自分の事を思い返してみる。
鹿野末信二、高校2年生。
趣味はWeb小説とかの読書、好きなキャラはツンデレ、もしくは美人系。
……うん、ちゃんと覚えてる。
そもそもいきなり死んだと言われても、対応に困るというか、ドッキリなのかなと未だに信じられないというか----
「あなたの死因は、"ントゥスにぶつかって死亡"ですね」
「うん、ちょっと待ってね」
「待ちます」と、律儀に言ってから待ってくれる優しい女性さんだった。
フォーマルな黒いスーツ姿に、キリッとしたクール系の美人さん。
間違っても、しょっぱなから軽いジャブ程度に冗談を言うタイプではない。
うん、あれだ。何かの読み間違いか、聞き間違いに違いない。
「ぼっ、僕の死因が、なんだって?」
「はい、"ントゥスにぶつかって死亡"です」
「変わってなかったよ! というか、ントゥスが分かんないだよ?!」
なんだよ、ントゥスって?!
生き物なのか、地名なのかすらも分かんないんだけど?!
というか、僕はそんな良く分からないモノ(?)とぶつかって、死んじゃったの?!
「そんな事よりも----」
「いや、全然そんな事よりもじゃなくて----」
「お仕事の、お時間です」
パチンッ!!
目の前の女性が指を軽快に鳴らすと、急に目の前に家具がいっぱい出てきた。
机に、椅子、それにホワイトボード。
ホワイトボードには、【ハズレスキル研究会】という、これまた謎の言葉が出てきた。
「ントゥスにぶつかって死んだ鹿野末様は、転生ではなく、ハズレスキル研究会の所属となります」
「ハズレスキル研究会?!」
ハズレスキルと言えば……あれかな?
あのWeb小説とかで、最近よく見かける「なんかよく分からないハズレスキルを手に入れたけど、覚醒と化したら無双したよ~!!」的な、あれかな?
「ハズレスキル研究会とは、その名の通り、神様が転生者様にくださるハズレスキルを研究する会、ということです。
神様や我々が意図していない、つまりは本来の用途を大きく外れた覚醒とかが起きないかを精査する部署。それが私達、ハズレスキル研究会になります」
僕が意味わかんないと言い出す前に、黒いフォーマルスーツ姿の、その女性はホワイトボードに何か書き始めていく。
「本日の議題は----こちら。【風のゆりかご】です」
===== ===== =====
【風のゆりかご】
ゆりかごをほんのりと揺らす程度のスキル。心地よくゆりかごを揺らして、良い感じに眠らせるスキル
===== ===== =====
「このハズレスキルが、本来の用途を大きく外れた覚醒をしないか、その辺を精査する研究会でございます」
「えっ? えっ?」
「鹿野末様がこのハズレスキルがどんなに頑張って覚醒しようとも、ハズレスキルのままなのか。そう判断してくだされば、神様にそうだとお伝えします。覚醒したらヤバそうなスキルなら、訂正します。以上です」
えっ、え?
「鹿野末様に分かりやすく伝えるとすれば、このハズレスキルを持った主人公が無双する物語が出来そうか否かを教えてくだされば」
「あっ、それならなんとなく意味が分かります」
……なるほど、この【風のゆりかご】なるハズレスキルで、無双できるのか。
そう言うのを考えれば良いんだな。
そう言うのは、割かし得意だぞ。
いっぱい、「小説家になれよ」とか、「カコヨム」とかで似たような小説、好きで読んでたからな。
「う~ん……」
「大丈夫ですよね、このスキル。ただ、ゆりかごをスヤスヤーっと、揺らすだけですからね。問題ないですよね?」
クール系の美人さんがそう言ってくれながら、僕は自分の知識を総動員させる。
そして、1つの結論に辿り着いた。
「うん、このスキルで無双は可能です」
「なんと?! どのように?!」
「詳細を」というので、僕は自分の知識を言う。
「このスキル、恐らくはゆりかごを揺らして、その中にいる人を眠らせるスキルですよね」
「はい。神様から、そのようにお聞きしております」
「でしたら、まずいです。確か、とある科学者さんが『地球は人類のゆりかご』という言葉を残してますので」
そう、確か、「宇宙ロケット」という概念を作った科学者さんの言葉だ。
ロケットという言葉を生み出したその科学者さんは、宇宙に夢を見て、そしてご友人にこのような言葉を残している。
----地球は人類のゆりかごである。しかし人類はゆりかごの中にいつまでも留まっていないだろう。
「これを極大解釈して、『異世界=惑星=地球』的な連想ゲーム的に、世界全体を揺らして集団を一気に眠らせるスキルになると思います。多分、地震系統のスキルへと覚醒すると思います」
「それは……マズいですね」
「ご指摘、ありがとうございます」と、クール美人さんは丁寧に頭を下げる。
「神様にお伝えして、訂正をお願いしてきます。リテイクです。
鹿野末様、的確なご指摘、本当に感謝します」
「あっ、うん……」
「では、これにて」とクール美人さんは出ていく。
「あっ、自己紹介を忘れておりました。
----私、鹿野末様と同じハズレスキル研究会所属で、神様との連絡役を務めております【
(※) 調査報告 レポート.001 (※)
ハズレスキル候補 【風のゆりかご】
『ゆりかごをほんのりと揺らす程度のスキル。心地よくゆりかごを揺らして、良い感じに眠らせるスキル』
……との事でしたが、ハズレスキル研究会所属の新人、鹿野末様のご指摘により、覚醒すると世界全体を揺らし、また全生物を眠らせる可能性があります
そのため、ハズレスキル覚醒の傾向があると判断しました
対策としまして、スキル説明に『ただし、赤子を載せた本物のゆりかご限定とする』という文章を追加することで対策とします
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