第11話 付き合わずのキス
放課後、俺は西園寺さんが教室を去ったのを確認したあと屋上へと向かった。
昨夜、いろいろと考えてみたが俺と西園寺さんが話す内容などないような気がした。
わからないな。
扉を開けて、屋上に出るとフェンスに寄りかかりスマホをいじっている西園寺さんの姿があった。
俺に気づいた西園寺さんはスマホから目を離してこちらを見る。
「時間作ってもらってごめんね」
「いや、べつに」
元々予定などなかったのだ、作るも作らないもない。
「最近、私思うんだ……」
「?」
彼女は俺に何を言おうとしているのだろうか。
西園寺さんはこちらに近づいてきて、俺にスマホの画面を見せつけた。
「まあ、正確には昨日からなんだけだね。香澄と……」
西園寺さんのスマホの画面を見た。
そこには一枚の写真が写されていた。
「柚木くんの間に何かあるなって……」
そう、それは昨日、俺と星奈さんがキスをしていた時の写真だった。
「写真はすぐに消すから大丈夫……」
見られていた。
俺と星奈さんがキスをしている現場を。
身体中から冷たい汗が溢れ出した。
「ねえ、柚木くん」
西園寺さんはさらに俺に近づく。
「香澄と付き合ってるの?」
付き合っていない。
「香澄からそんな話聞いてないからさ。私たち親友なのに……」
「……いや」
「?」
俺に星奈さんと付き合える資格などない。
「まさかぁ……」
声が震えていた。
「俺が星奈さんと付き合えるはずないじゃん」
あれはただのキスだ。
愛も性欲もない。
驚きの表情をする西園寺さん。
「え、なんで?」
「え?」
「なんで付き合ってないのにあんなにキスしたの?」
星奈さんの気持ちを癒すため、そんなこと言っても信じてもらえない。
さらにその前の事情から言うのは星奈さんが傷つく。
だから、それは言えない。
「言えない」
「おかしいよ、付き合ってないのにキスの時点で……それに長さが尋常じゃなかったよ」
若干引き気味なのが見て取れる。
確かにあれは恋人、それもかなり仲の深まった恋人がするような行為だった。
「……香澄との間に何かあったでしょ……」
なぜこんなに簡単に見破られてしまうのだろうか。
「な、何も……」
「何もないはずがないじゃん!」
西園寺さんはさらに近づき、気づけば西園寺さんの息が届くほどの距離になっていた。
慌てて一歩後ろに下がると、西園寺さんが一歩前に──。
と、その時のことだった。
俺は段差に躓いてその場に転んだ。
「うわっ!」
「きゃっ」
同時に西園寺さんも俺が転んだことにより足に引っかかり転んだ。
転んだ俺の上に跨がる西園寺さん。
一センチほどの距離のところに西園寺さんの顔が──。
赤面していた。
まるでりんごのように真っ赤に。
慌てて俺はそっぽを見る。
ドクドクと心臓ががうるさい。
「さ、西園寺さん……どいて……」
「どかない」
「っ!?」
俺の両頬を掴み、固定させる西園寺さん。
「ねえ、私の目を見て! 教えて……」
「むっ、無理だ……星奈さんから直接聞けばいいじゃんか……」
ああ、西園寺さんも美人だなあ。
「それができたら苦労しない! 早く教えてよ」
「だから、無理だって……」
ああ、これだけで下腹部が興奮している俺は変態だろうか……。
こんな状況誰かに見られてしまったら、誤解されるに違いないだろう。
いち早くこの状況から脱出しなければ。
「香澄さ、異性との関係が嫌いなんだけどさ……昨日の光景を見ちゃうとさ……」
と、その時のことだった。
ガチャリと扉が開いた。
「静香……ここに……」
聞き覚えのある声がした。
そこからやってきたのは星奈さんだった。
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