第7話 不穏な予感

 昼休み──。

 勢いよく降る雨粒が窓ガラスを叩く音が図書室中には広がる。


 俺は星奈さんに言われた通りに机の上に右手を差し出した。


「があああ……っ」


 次の瞬間のことだった、右手に激痛が走り出した。

 ポタポタと星奈さんが手に持つカッターから血が垂れる。


「なんで、私以外の女の子と仲良くするんですか……」


 また、星奈さんの目が虚になっていく……。

 


 学校に行くのはめんどくさい。

 一日の半分をあそこで過ごさないといけないと考えると退屈だ。

 なのに、学校に行かなきゃという思いがある。


 スクールバッグを手に持ち、俺は玄関を出た。


 昨日はあの後、星奈さんを途中まで送って行った。


 はあ……星奈さんを犯すという約束をしてしまった。


 別に後悔はない。

 ただ、言葉にはできない変な気持ちがある。


「今日は雨か……?」


 空が真っ暗な雲で埋め尽くされていた。

 天気予報では曇りとなっていたが、いつ降ってもおかしくない状態である。


「傘持ってくるんだったな……」


 一人、トボトボとポケットに手を入れて歩く。


 二年E組の教室に入り、自分の席に着く。

 俺の席は真ん中の一番後ろの教卓から見て右側の席だ。

 すでに星奈さんは登校しており、周りには女友達が三人と男友達が二人いた。


 やっぱり、俺と彼女では住んでいる世界が違いすぎる。

 いわば、陽キャと陰キャのようなものだ。

 中でも星奈さんはやはり、別ものである。

 オーラが違った。

 そんな星奈さんと俺はキスをした。

 それに犯す約束もした。


 ふと、星奈さんと目が合った。

 俺はコクリと首を縦に振ると、星奈さんは笑顔でコクリと首を縦に振り返してくれた。

 ん? と一人の女子生徒がそれを不審に思ったのか、立ち上がりこちらを見る。

 目が合った。


 慌ててスマホを取り出し、いじっているフリをしていると、突如スマホが上に──。


「ねえねえ、君……柚木くん?」


 俺は上を見ると、そこには先ほど目が合った女友達がいた。


「は、はい?」


 すると、女友達はニコリと笑顔になり。


「香澄となんかあるな〜」

「え、いや……」


 昨日の出来事は全て俺しか知らないことである。

 言えない、というか絶対に言ってはいけない義務が俺にはある。


 下を見る。


「なんか隠してるな〜、この〜」


 肘でツンツンと俺をつつく女友達。


「え〜と、名前は……」

「ひどっ、シンプルにひどいの一言だよ!」

「ご、ごめんなさい……」


 確かに自分だってクラスメイトに名前を覚えてもらっていなかったら傷つくだろう。


「西園寺静香だよ!」


 し、知らなかった。

 名前だけは知っていた、けれど顔は知らなかった。

 

「さ、西園寺さん……」

「?」

「俺と星奈さんの間には本当に何もないですよ」

「はは〜ん、嘘だ! 嘘ダァ、案件だよそれ!」


 なんだよ、その案件。

 聞いたことないぞ。


「本当ですって!」

「信じれるか〜い!」

「……二人とも、何話してるんですか?」


 と、そこで星奈さんがやってきた。


 なぜだろうか、目が虚になっている気がする。


 一体何がどうしてこうなった……?


「ちょっと、香澄〜? 柚木くんとはどういう仲なの〜?」

「別に何もありません」

「え〜、本当?」

「本当です」


 おかしい、まるでこれじゃあ、昨日の助けた時みたいじゃないか……。

 それになぜ、西園寺さんはそれに気付いていない?


「ほら、戻りますよ……」

「は〜い!」


 二人は星奈さんの席へと戻っていった。


 しばらくしてからのことだった。


「昼休み、四階の一番隅にある空き教室に来てください」


 すれ違い様にそんなことを言われた。


 なんだろうか、とても不穏な予感がする。

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