第4話 お泊まり会

「ありがとうございます」


 扉が開き、星奈さんの声がする。


「う、うん……」


 俺は星奈さんの方を見ないで。


「じゃ、じゃあ、俺は外で待ってますね」


 脱衣所を後にする。


「はい」


 ソファーに座りながら、スマホをいじっていると俺のジャージを着た星奈さんがやってきた。

 ちなみに、市の公式ラインから『白池宮藤次が廃墟ビルで無事逮捕』というお知らせが来ていた。


 ふう、よかった。

 本当によかった。


「……母さん、今日は友達のお家に泊まります」


 ふと、星奈さんからそんな声が聞こえた。


 え?


 慌てて星奈さんを見ると、右手にスマホを持ち耳元に近づけていた。


「ほ、星奈さん……?」


 連絡を終えたのかスマホを耳元から下ろす星奈さん。


 それってつまり……そういうことだよな。


 ゴクリと唾を飲み込んだ。


 こちらを見てニコリと微笑む星奈さん。


「……今日はもう遅いですし、すみません、ここに泊まることにしますね」

「ま、まだ六時前ですよ!」

「こんな遅い時間に私を一人で帰らせようとするんですか……」

「いや、だから……そんなにまだ遅くないですって……なんなら、俺が送って行きますから……」


 俺の隣に座り、俺の右腕に抱きつく星奈さん。


 右腕からぷにっと柔らかい……すぎじゃないか?

 なんというか、なんだこの、吸い込まれそうな感触は。


「ほほほ、星奈さん?」


 ももも、もしかしてこれって……。


「ふふっ、気づきましたね……下着をつけてません」


 で、ですよねー。


 慌てて、右腕を引っ張り星奈さんから離れる。 

 そのまま立ち上がり、距離を見る。


「なんで、離れるんですか……」


 頬を膨らましながらそう言う星奈さん。


 なんでって、こんなことされると変に星奈さんのことを意識してしまうからに決まっている。

 俺が星奈さんの心を傷つけてしまった張本人なわけで、俺に星奈さんとそういうことをする資格などない。


「星奈さん、ごめん、俺のせいですよね」

「……私はショータローに助けてもらったんですよ。なのに、なんでショータローは謝るんですか?」

「いやっ」


 正直に言うのがいいに決まっている。

 そんなことわかっている。

 けれど言えない。

 言おうとすると、喉がそれを抑えるように締めてくる。

 俺は悪者だ。


「……」

「恐怖を覚えました、一人が怖いです……だから、一緒に……」


 ポロポロと星奈さんの大きな瞳から涙が溢れ出す。


 星奈さんは両手を広げて。


「一緒にいてください」


 今はとにかく星奈さんの心を癒す、ただそれだけに徹するのが正解だろう。


 俺は星奈さんへと抱きついた。


 顔に星奈さんの胸の感触がする。

 

「ショータロー、今日は本当にありがとうございます」

「ううん、星奈さんが無事でよかったです」

「うん。夜ご飯は何を食べましょう」


 こう見えて俺は自炊が得意である。

 というか、大体の料理はレシピ通りに作ればなんとかなるのだ。


「今日はカレーを作る予定ですので、出来上がるまでゆっくりしていてください」

「……なら、私も手伝いますね」


 こうして、俺は星奈さんと共にカレーを作った。

 星奈さんの包丁さばきは見事なものだった。


 今日食べたカレーは人生の中で一番美味しいと感じる出来だった。


「ふあ〜、ショータロー。私は眠いのでお先に寝るとします」


 時刻は八時過ぎ。


 あんなことがあったのだ、精神的にも疲れているに決まっている。


「うん、おやすみなさい」

「はい」


 一つ空き部屋があったため、そこで星奈さんは寝ることにした。

 さすがに一緒は……ね?

 本当は俺のベッドをと思ったが、男が使った後のは嫌だろう。


 そして、事件は朝起きた。

 目を覚ますとまるで金縛りのように動かなくなっていたのだ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る