第2話 初めてのキス

 はあはあ、と星奈さんの生温かい息が鼻に感じる。


「ほ、星奈さん……どいてください」

「ご恩は身体で……」


 ポロポロと星奈さんの目から涙が溢れ出す。


 星奈さんは俺の両頬を掴んで。


「私を犯してください」

「ん──!」


 次の瞬間、星奈さんは俺の唇に自身の唇をくっつけた。

 口の中にぷにっとしてねっとりとした生温かい物体が入ってきた。

 舌ベラだ。

 星奈さんの舌が俺の舌に絡まる。

 それは俺にとって初めてのキスだった。


「はあはあ……」


 星奈さんが俺の唇から離れ、涎を手の甲で拭いた。


「星奈さん……」


 一瞬でだいぶ心に傷を負っているんだということがわかった。

 それはそうだ。

 あんなことがあったのだから。


「私、もうあの時点で犯されるつもりでいたんです……だから」


 俺のせいだ。

 俺のせいで星奈さんは……。

 俺が迷ったから。


「だから、私を犯してください!」


 星奈さんは心に深い傷を。


「ごめん、そういうのは」

「……そうですか」


 星奈さんは下を向きながら、俺から離れ、その場に崩れるように内股で座り。

 さらにポロポロと涙を溢れさせた。

 うえーん、うえーん、と泣き出した。

 まるで赤子のように。


 ごめん、星奈さん。


 立ち上がる。


 あの時、俺の迷いによって星奈さんは。


「怖かった、怖かったです……なのに感じてしまった自分が……憎いです」


 俺は優しく星奈さんを両手で包み込んだ。


「今の私ができることは身体で恩返しすることだけです! だから、私を抱いてください!」

「ごめん、星奈さん。俺のせいで……」


 こうやって、星奈さんと話すことなんて初めてなのに話しやすいと感じた。

 少し不思議に思った。

 けれど、今はそれどころではない。


「怖かったです!」


 と、星奈さんは俺に抱きつき胸元で泣いた。


「ごめん」

「怖かったです」

「ごめん」

「怖かったです」

「ごめん」

「怖かったです」

「ごめん」

「怖かったです」

「ごめん」


 星奈さんは甘い匂いがした。


 こういう時でも身体というものは正直で少し興奮していた。


「……とりあえず、服を」

「今からするから着る意味なんてありません」

「……いや、だから」


 白目で泡を噴きながら倒れている白池宮藤次を見る。

 いつ起き上がってもおかしくないだろう。


 不意打ちだったからいけたものの、このガタイだ。

 起きたら次はない。


「星奈さん、スマホを借りていいですか? 警察に電話を」

「やめてください」

「え?」

「犯されかけていたなんて知られたくないんです。だから、警察には」


 そう言われてもである。

 警察に言わなければ白池宮藤次はこのまま起きるだけだ。


「な、なら、泡を噴きながら倒れていると通報だけ。あとは警察に任せて逃げましょう」

「私のスマホからだとバレます」


 確かにそうか。

 最近は逆探知のレベルも上がってきている。

 そうなるとである。


「わかった、なら公衆電話にしよう。ちょうど外にあるもんな」

「はい……とりあえず、シましょう」


 失礼だが、星奈さんは精神科に行った方がいいと思う。

 ダメだ、完全に心が傷ついておかしくなっている。


「だから、そういうのは」

「私には抱かれる価値もないってことですか?」

「いや、そういうわけじゃ……とりあえず、白池宮藤次が起きる前に警察に……」


 正直、下着姿の星奈さんを見た時に真っ先に思ったのは、可哀想というよりエロいという感情だった。

 そりゃあ、星奈さんのような女の子とヤれたら幸せなのだろう。

 ただ、そんな気にはなれない。

 きっと、星奈さんをこうしてしまったことの罪悪感からだろう。


「わかりました。代わりに、あなたのお家に行きたいです」


 とりあえずはこれで警察には通報できるわけだ。


「わかった。ほら、スカート履いて俺の渡したブレザーを着て」

「はい♡」


 俺の右腕に抱きつく星奈さん。


 胸が当たってるんだよなー。


 とてもぷにぷにと弾力があり、そして大きくて気持ちいいと感じてしまった。


 こうして、とりあえずは白池宮藤次が倒れていると警察に通報することに成功した。

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