<episode 2> 悪役令嬢、趣味と特技を披露する。

 方針は明確。あとは金貨に夢中になっている悪魔たちを背後から攻撃するだけだ。

 多くの人々は、貴族のご令嬢と言えば虫も殺せぬお淑やかな深窓のお嬢様を思い浮かべることだろう。

 しかし、ワタクシはエトランジュ・フォン・ローゼンブルク公爵令嬢。そんじょそこらのご令嬢と一緒にされては困る。

 あれは確か、叔母夫婦に初めて婚約者として第一王子に引き合わせられたときの一幕───


「趣味は?」

「闇魔法を少々……」


「特技は?」

「闇魔法を少々……」


 淡々と事実を述べたに過ぎないのだが、あのときの第一王子と叔母夫婦の引きつった表情は今思い出しても笑ってしまう。

 そう。ワタクシは闇魔法の使い手なのだ。


 一般的に魔法には火、水、風、土の力を借りて使用する四つの精霊属性がある。だが、この四属性以外にも光と闇の聖霊属性という超レア属性が存在する。

 勇者、英雄、聖女として歴史に名を残してきた者たちは皆、光魔法の使い手だったと言われている。一方、闇魔法の使い手には魔人、大量虐殺者、狂帝として歴史に悪名を刻んできた錚々(そうそう)たるメンバーが名を連ねている。

 世間の人々がワタクシにどういう印象を持っていたかは、言わずもがなだ。


「闇の光よ、我が敵を滅ぼせ。ダークアロー」


 ワタクシが呪文を詠唱し魔力を込めると、黒く妖しい光を放つオーラが悪魔の臀部めがけて一直線に飛んでいく。


「ひゃっはー!!? い、痛ぇぇぇ! 何しやがる!?」


「何と言われましても……。魔法攻撃ですけれど?」


「ひっ、ひっ、ひっ、卑怯だぞ! 俺たちが油断してる隙に後ろから攻撃するなんて!」


「乙女一人を相手に三人(?)がかりで恐喝してきた悪魔には言われたくありませんわね」


「くっくっくっ! どうやら俺たちを本気にさせちまったようだな。もうどうなっても知らねえぞ。覚悟しやがれ!」


 残念ながら覚悟をするのは自分たちのほうだということをまだわかっていないらしい。

 極めて遺憾だが致し方あるまい。やられる前にやれ、やるからには徹底的に、というのがワタクシが勝手に作ったローゼンブルク公爵家の家訓だ。


「ダークアロー × 3」


 今度は指先から3本の黒い光の矢が放たれる。

 そして、その矢が悪魔たちの臀部を的確に捉える。


「「「ぎゃーーーーーーーーーーー!!!!?」」」


 悪魔たちの悲鳴が美しいハーモニーを奏でる。

 生前、ワタクシのことが気に食わない紳士淑女の方々が暴力に訴えかけてきたとき、この魔法は大変重宝した。

 ちなみにこの魔法を習得した頃───聖ウリエール学園・初等部時代についた二つ名は『黒き惨劇のエトランジュ』。今年17歳を迎えた今でも、意外と気に入っている。


「ひっ! コイツ、闇魔法の使い手だ!」


「もっと仲間が必要だ! 今すぐ呼んでくるから、そこで待っていやがれ! 必ずブッ殺してやるからな! ひゃっはー!!」


 言うが早いか、三人(?)組の悪魔は一目散に逃げていった。

 待っていてほしいと頼まれはしたものの、本当に待ってやる義理はどこにもない。さっさと立ち去るとしよう。


「ああ、早く紅茶とスイーツで一息つきたいものですわ」


 あ。どうせならまた来るというのなら、あの三人組に紅茶とスイーツを注文しておけば良かったかも。地獄に紅茶とスイーツがあればの話だが……。


 ……あれ? まさか無いなんてことはありませんわよね?

 もしも、紅茶とスイーツが無かったとしたら───


 それこそ地獄ですわ。

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