<episode 3> 悪役令嬢、愛猫と再会する。
「にゃーご」
聞き慣れた鳴き声につられて、ふと足元を見ると、黒猫が足元でじゃれついている。その首輪には我がローゼンブルク家の紋章が刻まれた金色のアクセサリーがきらめいている。
「あら、貴方は……」
黒猫の名は、ネコタロー。生前、ワタクシが飼っていた猫だ。
「もしかして、貴方も一緒に処刑されてしまいましたの? だとしたら、とんだとばっちりね。ひどい話ですわ」
ネコタローとの出会いは、7年ほど前にさかのぼる。
雨の夕暮れに傷だらけで道端に倒れている子猫を拾った。それがネコタローだ。
叔母夫婦には黒猫は不吉だと猛反対された。
両親を早くに亡くしたワタクシの後見人となった叔母夫婦は、ワタクシのやることなすことすべてに難癖つけてきた。
しかし、そんなことはどこ吹く風。ワタクシはワタクシの好きなように生きると決めていたので、ガン無視して飼うことにした。
古来より黒髪は不吉とされており、黒猫はそのあおりで今も迫害の対象となっている。
黒がそこまで忌み嫌われる原因は、地獄の魔王が黒髪で漆黒の衣装を身にまとっていたという言い伝えのせいらしい。
しかも、その存在するかどうかも定かではない地獄の魔王とやらは闇魔法の頂点を極めた存在だそうな。
ワタクシも黒髪。さらには闇魔法の使い手と、見事にコンボを決めている。おかげさまで周囲の人々からは禍々しいだの、魔女だの、魔王の再来だのと、幼い頃からさんざん陰口を叩かれてきた。誰の作り話かは知らないが、いい迷惑だ。
だけど、そんなことでいちいち傷つくようなワタクシではない。言い伝えを鵜呑みにして自らの頭で考えることをせず、黒髪、闇魔法を侮蔑の対象にする人々の愚かさに、ただただ呆れかえるばかりだ。
正直、付き合いきれないと幼心に思ったものだし、今もその考えは変わらない。
「にゃーご」
嬉しそうにじゃれてくるネコタロー。あごの下を優しくなでてやると気持ちよさそうに喉をゴロゴロと鳴らす。
可愛がっていた猫と地獄で再会するなんて、人生わからないものだ。
「ひゃっはー!! 待たせたな、小娘!!」
下品な声に振り返ってみると、例の三人組の悪魔がどうだと言わんばかりの顔でこちらを睨みつけている。その背後では十を軽く超える悪魔たちがニヤニヤと粘りつくような嫌らしい笑みを浮かべている。
せっかくネコタローとの再会に油断していたのだから、ワタクシを見習って遠慮せずに背後から攻撃してくればいいものを、悪魔も存外お行儀が良い。
それにしても、もう仲間を集めてくるとは、なかなかどうして仕事が早い。こんなことなら、やはり紅茶とスイーツも頼んでおくべきだった。
悔やむ気持ちが表情に現れたのだろうか。悪魔たちはそれを焦りと恐怖だと受け取ったらしく、満足げに笑う。
「くっくっくっ。これから地獄を見せてやるぜ」
ここは地獄だから、すでに地獄は見ているのだが。
「いくら闇魔法の使い手でも、この数の悪魔を相手に一人じゃ勝ち目はねえ。観念するこったな、ひっひっひっ」
なるほど。ワタクシを背後から攻撃しなかったのは、数の優位を背景にした余裕というわけか。
確かに、多勢に無勢。地獄に来て1時間そこそこで早くも絶体絶命の大ピンチ!!
……などと思ったら大間違い。
なぜなら、ワタクシはエトランジュ・フォン・ローゼンブルク公爵令嬢。
この程度のことは朝飯前の日常茶飯事。ちょちょいのチョイと鮮やかに解決して差し上げますわ。
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