【ゲーム化決定!・電撃マオウでコミック連載中!】 エトランジュ オーヴァーロード ~反省しない悪役令嬢、地獄に堕ちて華麗なるハッピーライフ無双~
喜多山浪漫
<episode 1> 悪役令嬢、地獄に堕ちる。
「地獄に堕ちろ」
エーデルシュタイン王国第一王子にそう言い渡されたワタクシこと、エトランジュ・フォン・ローゼンブルク公爵令嬢は、一方的に婚約破棄された挙句に稀代の悪女として処刑された。
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そして、気がつくと───
ワタクシは今、地獄の悪魔たちにメッチャからまれている。
「ひっひっひっ。また人間世界から悪人がやってきたぜ」
「おっ? きれいな顔してんじゃねえか。その顔が苦痛と恐怖に歪んでいくのが楽しみだぜ。くっくっくっ」
「どんな罪を犯したか知らねえが、これから俺たち地獄の悪魔がたっぷり可愛がってやるから覚悟しな! ひゃっはー!」
角を生やした醜悪な容姿に、品性の欠片もないお下劣な発言。鋭い牙と爪は人間の肉を紙切れのように切り裂くだろう。
幼い頃に叔母夫婦から「悪さばかりしていると悪魔がやって来て喰われてしまうぞ!」と稚拙な脅迫をされたものだが、今まさにそのシチュエーションの真っ只中。
そこいらに転がっている有象無象のご令嬢ならば、ここでしおらしく悲鳴の一つも上げた後に「おお、神よ!」と天に祈りを捧げるに違いない。
けど、ワタクシは誇り高きエトランジュ・フォン・ローゼンブルク公爵令嬢。悲鳴なんて上げたりはしない。こういうときは、そう───
「ちょっとそこのブサイクな貴方たち。ドブくさい息をまき散らしている暇があるのなら、早急にふっかふかのソファベッドと最高級の紅茶、それから極上のスイーツでワタクシをもてなしなさい」
天上天下唯我独尊。
この世に恐れるものはない。
我が人生に一片の悔いなし。
それがワタクシの変わらぬ生き方。
この様子ではどうやら死んで地獄に堕ちてしまったようだけど、そんなことは一切関係ない。己のスタイルを徹底的に貫くのが死してなお変わらぬワタクシの信条だ。
「ひっひっひっ。コイツ、何言ってやがんだ?」
「どうやら、まだ自分の立場がわかっていないようだな。くっくっくっ」
「とんだ世間知らずのお嬢さんだ。俺たちがしつけてやらなきゃな。ひゃっはー!」
なるほど。人間世界も地獄も大して変わらないようだ。
ワタクシが何かすると、なぜかおおむねこのような反応が返ってくる。ワタクシはただ心の赴くまま自由に発言し、行動しているだけだというのに、王侯貴族の皆様はそれがとってもお気に召さないらしい。
彼らはいつも伝統だ、身分だ、規則だ、常識だとまくしたてる。
けれども、そんな誰が作ったかも定かではないしょうもない枠組みに心を縛られるなんて、まっぴらごめんだ。
……ま、そうやって自分を貫きすぎた結果、悪役令嬢だの、稀代の悪女だのとレッテルを貼られ、ついには王族暗殺未遂とか身に覚えのない罪で処刑されてしまったわけだけど。
普通ならそこで反省して大人しく生き方を変えるのだろうが、そうは問屋が卸さない。一度や二度死んだぐらいで自分の生き方と自由を奪われてたまるものか。
ワタクシは、ずずいと一歩前へと進み出た。
あくまでも淑女としてエレガントに。それでいて威風堂々と。
「お!? な、なんだぁ、やる気か? ひっひっひっ」
「どうやら、まだ夢の中だと勘違いしているようだな。くっくっくっ」
この手の連中はこれまで嫌というほど相手にしてきた。あしらうのはお手のものだ。
ワタクシは右手にあるものを握りしめ、ゆっくりと、優雅に、舞踏会でダンスを披露するかのように放り投げた。
それはキラキラとまばゆい光を放ちながら、悪魔たちの頭上から地面へと散らばっていった。
「き、金貨だ!! ひゃっはー!」
地獄の沙汰も金次第というが、案の定、地獄の悪魔たちにとっても金は貴重なようだ。
さて、と。ここで選択肢だ。
選択肢①
→この隙に逃げる
この選択はまずあり得ない。
ワタクシの辞書に『逃げる』なんて言葉は存在しない。とうの昔に辞書もろとも燃やした。
選択肢②
→金貨で悪魔を買収する
ワイロで買収という発想は悪くない。
けれども、それは武力を持たない文官や一般庶民に対してのみ有効な手段だ。
相手は悪魔。ワタクシから金貨を奪ったあと、ゆっくり煮るなり焼くなり、とても淑女が口にできないようなあんなことやこんなことをやりたい放題やればいいと考えるだろう。
よって今回のケースでは、この手段は通じない。
つまり───
この場面での最良の選択肢はただ一つ。
選択肢③
→悪魔たちが金貨に夢中になっている隙に背後から攻撃する
これが正解だ。
このあと地獄の悪魔たちが目を白黒させてビックリ仰天するさまを思い浮かべると……。
うふふっ。嗚呼、ワクワクが止まりませんわ♪
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