第2話 長距離走だけしか取り柄がない自分
ホームルームはたいしたニュースもない退屈な小沢の話だけだった。
諸連絡を言った後、なかだるみの時期にあるから目標を持って充実した日々を送れとか、テストが近いのでしっかり勉強するようにとか、そういうことを話しただけだった。
僕はその小沢の話を熱心に聞いてなくて、遠く離れた席にいる澤村のほうをずっと見ていた。
ホームルームが終わると、そのまま小沢は数学の授業を始めた。
金曜日の一限目は小沢が担当の数学だった。
僕はテストが近いにも関わらず授業中にぼーっとしていた。。
「じゃあ、この問題を水田、解いてくれ」
話を聞いていなかったので、僕は正直にわかりませんと答えておいた。
クラスの生徒全員がどっと笑う。
「こんな初歩的な問題もわからないのか、水田?」
小沢はあきれたかんじで言った。
前の席の篤史が小さな声で問題を教えてくれた。
そして、僕は自分の痴態に気づいた。
澤村にも笑われて、ショックだった。
「おまえな―、授業まじめに聞いとけよ、テストも近いんだぞ」
一時間目の放課後、次の時間は体育だから、僕たちは着替えている最中だった。
篤史は体操服に着替えながら、僕に説教をしていた。
篤史がシャツを脱いだとき、嫌でも、その筋肉質な上半身が目についた。
僕なんて全然筋肉が付かないのに、どこが違うんだろう。
「おい、聞いてるのか?」
篤史がぐっと顔を近づけてくる。
「聞いてるよ」
僕は篤史を少しうっとうしく思いながら言った。
彼はおせっかいすぎるのが困りものだ。
それが篤史の人気なところなんだろうけど。
「おまえ、最近変わったよ」
「そうかな」
その言葉に後ろから不意に何かで刺されたような痛みを感じたが、表面上は冷静だった……はずだ。
「おまえ、昔は何事にも一生懸命だったじゃん。走るのも、勉強も、今とは正反対だ。どうしたんだよ?」
「どうもしてないよ」
僕が苦笑すると、彼はそんな僕を訝しんだ後、大げさにため息を吐いた。
「おまえやっぱ変わったよ」
変わったっていうけど、変わらずにいられるだろうか、いつまでも一生懸命でいられるだろうか。
そんなの、疲れるだけじゃないか。
●
二限目の体育の時間はバスケだった。
僕と篤史は同じチームだった。
ゴールの近くで僕にボールが回ってきた。
僕はレイアップシュートをしたが、それをはずした。
しかし、そのはずしたボールを、篤史がすかさずリバウンドしてゴールに入れた。
とたんに沸きあがる歓声。
その後も、篤史はシュートを5本も決めた。
授業が終わった後、クラス中のやつから篤史は褒められていた。
篤史は短距離が速いだけでなく、球技も万能だ。
僕はシュートの機会がたくさんあったのに、全部はずした。
僕には長距離走しか秀でてるものがない。
その長距離走も最近は伸び悩んでる。
いいところなしだった。
なにが違うんだろう、あいつと。
あいつは僕がほしいものを全部持っていた。
やっぱり、僕はあいつが苦手だ。
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