第51話 真祖VS美少女剣士 後編
「うひゃあああ! 脇腹はやめるのじゃ……脇の下も駄目じゃぁぁぁ!」
超高速のくすぐりが真祖吸血鬼に襲い掛かった。
泣こうと喚こうと、その指の動きが弱まることはない。
「わ、我は真祖! こ、こんなのに負けてたまるか――はひゃひゃひゃ!」
イリスはジタバタともがくが、まるで力が入っていない。本来なら人一人を押しのけるくらい小指一本で事足りるのだろうが、水揚げされた魚のように、のたうつことしかできないでいる。
やがて、それさえも止まり、ピクピクと痙攣するだけになった。
「どうだ、参ったか!」
「参らぬ……わ、我は……」
「なんて強情な……分かった。その勇気に敬意を表して、トドメをさしてあげる!」
クラリッサはイリスのブーツを脱がし、足の裏をくすぐりだした。
「ああああっ! うああああああっ!」
「からの~~」
遂に靴下に手をかけた。
太ももまである長いニーソックスだ。
脱がされてたまるかとイリスは腕を伸ばすが、無駄な抵抗だった。あっという間に生足にされ、素肌を直接こしょこしょされる。
「にょえええええ! ま、参った! もう許してくれぇぇぇっ!」
決着である。
人間が正面から真祖を倒したのだ。
フィクションでは吸血鬼を倒すのに、銀の杭を心臓に打ち込むとか、真名を呼んで弱体化させるとか、魔眼で弱点を突くとか、色々なことをしていた。
が、本当の答えは『靴下を脱がせて足の裏をくすぐる』だったのだ。
「凄いです、クラリッサさん! 完全にそのスピードを自分のものにしましたね!」
「うん! 体を動かすのも、剣を振るのも……そして、こしょこしょも慣れた! ありがとうイリス。あなたが練習相手になってくれたからだよ!」
「そ、そうか……自信をつけたようでなによりじゃ……しかし、これで我に勝ったと思うなよ。我はまだ無傷。さあ、勝負を続けようではないか……」
イリスはうつ伏せに寝転んだまま、偉そうなことを言う。
即座にエメリーヌがツッコミを入れた。
「往生際が悪いわねぇ。完膚なきまでに、あなたの負けよ、イリス」
「な、なにを言っておる! 我は灰になっておらぬし、結界に封印されてもおらぬ。ただちょっと笑い疲れてぐったりしとるだけじゃ!」
「参ったってハッキリ言ったじゃないの~~。参ったと口にした以上、余力があってもあなたの負けよ。まあ、余力なさそうだけど」
「余力はたっぷりじゃ! なんなら、お前たち三人を同時に相手してやろうか!?」
「あら~~。相手してもらおうじゃないの~~」
「いや……今すぐというのは……もうちょっと呼吸を整えてから……うおっ、エメリーヌ、お前なにをしておる!?」
エメリーヌはイリスのもう片方のブーツと靴下を脱がせる。
「私は足の裏こしょこしょするから、クラリッサちゃんは脇腹と脇の下お願いね~~」
「お任せ!」
「それからアオイくんは……とりあえずその靴下を履いといて~~」
「え、ボクがイリスさんの靴下を……? 別にいいですけど……」
なぜそんな指示を出されたのか分からないが、自分一人だけぼーっと見ているのも嫌だ。
重労働というわけでもないので、大人しく従うことにする。
――――――
名前 :真祖のニーソックス(黒)
防御力:+10
加護枠:残り二つ
説明 :真祖イリスが愛用していたせいでわずかに魔力が宿り、薄い繊維ながらも少しだけ防御力がある。
――――――
なにげなく鑑定スキルを使ったら、思いのほか、いい品だった。
だが考えてみるとイリスはボスキャラ級の戦闘力だ。そこからがドロップした装備が強いというのはゲームバランス的に正しい。
イリスは似たような靴下を沢山持っているので、熱心に頼めばこれ一足くらいくれると思う。
(でもこの靴下、女物だよね。ボクが履いてて変じゃないかな?)
不安になったアオイは、みんなの反応を参考にすることにした。
ニーソックスを履き、三人の隣に立つ。
「あら。あらあら~~。絶対に似合うと思ってたけど、想定以上ね~~。二人はどう思う?」
「か、かわゆい! かわゆすぎて心臓がバクバクして口から飛び出しそう……!」
「アオイに見とれて二人の指が止まったのじゃ……助かった。そして……うむむ、似合ってるのぅ。その靴下はアオイにあげるのじゃ。もっと可愛くなって我の目を楽しませるのじゃぁ」
「ありがとうございます。遠慮せずにいただきます」
さあ。
どの加護をつけるか考える、楽しいお悩みタイムだ。
(そういえば、俊敏性の強化だけしてないんだよな。ボクは魔法師だから速さはそこまで重要じゃないけど。あんまり足が遅いとみんなについていけないし。よし!)
――――――
名前 :真祖のニーソックス(黒)
防御力:+10
加護枠:俊敏性+200 MP+200
説明 :真祖イリスが愛用していたせいでわずかに魔力が宿り、薄い繊維ながらも少しだけ防御力がある。今はアオイの可愛い脚を包んでいる。ニーソックスも本望だ。
――――――
一瞬、枠を二つとも俊敏性で埋めてクラリッサと同等の速度を得よう、という考えが頭をよぎった。しかし自分ごときの反射神経で同じことをしたら破滅するばかりだ、と思い直した。
とにかく、これで速さもMPも強化された。
マナバーストの威力が更に上がったはず。どういうときに使うかは定かではないが……攻撃の選択肢が多いと心に余裕が生まれる。
素早く動き回りながら、魔法を乱れ打ちするという戦術ができるかもしれない。
運動神経に自信がないので、今度、クラリッサに稽古をつけてもらおう。
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