第43話 ヤバげな魔法を覚えた

「こんにちは、おばあさん」


「おや? 久しぶりだねぇ、転生者の。ええっと、アオイとかいう名前だったね」


 魔法道具屋に行くと、店主の老婆がそう話しかけてきた。

 覚えていてくれた。それだけのことがアオイには嬉しかった。


「胸の大きい剣士の子とは一緒じゃないのかい?」


「クラリッサさんはレベル上げしたいって、一人で洞窟に行きました」


「ふぅん。あの子、レベル20超えてるみたいだから、よほど無茶しなきゃ平気だろうけど。一人で行かせて心配じゃないのかい?」


「大丈夫ですよ。クラリッサさんは何年も冒険者やってるベテランですから。ボクなんかより、ずっと判断力があります。むしろ一人のほうが身軽に動けると思います」


「信頼してるね。まあ、あんたから見たら年上のお姉さんなんだろうけど。あたしからすれば二人ともガキだからね。子供のうちは、とんでもない理由でとんでもない失敗をやらかすものさね」


 そうだろうか、とアオイは疑問に思う。

 クラリッサは脳天気な性格だが、命がかかった状況では極めて冷静だ。

 信頼するに値する姿を、何度も見てきた。

 とはいえ、絶対に失敗しないなんてあり得ない。


 ふと、昨日を思い出す。

 浮世離れし、喜怒哀楽の喜と楽しかないように見えたエメリーヌにも、色々な葛藤があるらしい。

 クラリッサだって、どんな悩みを抱いているか分からないし、それが原因で集中力を欠くことだってあるだろう。


「……けど、心配だからといつもついていくのは違うというか。ボクだったら、そこまで過保護なのは嫌です。特に、年下からそんな扱いは受けたくないでしょう」


「そりゃそうだ。べったりくっつけと言ってるんじゃない。いつもと違う様子があったら、ちょっと気にしてやればいいのさ」


「なるほど……」


 年長者の忠告だ。素直に心にとめておこう。

 それからアオイは老婆と雑談を交わす。

 老婆のアドバイスのおかげで二冊の魔導書が見つかり、それを組み合わせることでゾンビを浄化できた。そのお礼と報告をする。


「そして今日も魔導書を探しに来ました」


「どんな魔導書が欲しいんだい?」


「えっと……火、風、水、土。そして光と闇。この六属性の魔導書を一冊ずつ。属性が合ってれば、どんな魔法でも大丈夫です。ボクがすでに習得しているのでも」


「すでに習得してるのでもいい? なんに使うんだい? まさか剣士の子に魔法を覚えさせるつもりかい? 魔法師の適性がないと、覚えても威力が出なかったり、そもそも契約できなかったりするよ」


「いえ、そうではなく……普通の使い方じゃないんです。ボクが転生者として持っている特別な能力にかかわることで……」


「ふぅん、なるほどね。なら、あまり深く聞かないよ」


 そして老婆は、六冊の魔導書を見繕ってくれた。


「この四冊は、あんたが前に買ったのと同じ。ファイアにエアロにウォーターにロックショットの魔導書。こっちの二冊はライティングとライトカット」



――――――

名前:ライティング

属性:光

説明:光源を出す魔法。光の強さは調節できる。強い光で目を痛めないよう注意。

――――――


――――――

名前:ライトカット

属性:闇

説明:この魔法を使うと視界が少し暗くなる。日差しが眩しいときなど便利。

――――――



 ライトカットという名前から光属性の攻撃魔法を防ぐ効果かと思ったが、ただのサングラスだった。

 だが使い道はありそうだ。ライティングは更に使い道が多いだろう。

 どちらも習得したいので、二冊ずつ買った。


 家に帰る途中、イリスが知らない子供たちと虫網を持って走り回っているのを見かけた。

 仲がいいのは結構なことだが、本当に二百年以上生きてる真祖なのかと疑問が浮かぶ。


「あら、アオイくん。おかえりなさい。早かったのね~~」


「エメリーヌさん、ただいま。一軒目の店で必要な物が揃ったので」


 さすがにクラリッサはまだ帰宅していなかった。

 夕飯までかなり時間があるので、アオイは自室に戻る。

 まずはライティングとライトカットを習得。


 試しにライティングを使う。光源が空中に浮かび上がり、スマホのライトくらいの光を放った。軽めにやってこれなので、強めにやれば広い空間でも役立つだろう。

 次にライトカットを使って光源を見つめる。いい感じに暗くなった。効き目を強くすれば、太陽を直視しても平気だろう。


「よし。次はマナバーストの魔導書を作るぞ。どんな効果の魔法なのかなぁ」


 マナバースト。

 昨日、イリスに闇魔法ダーク・アンプを使ってしばらくしたら、その魔導書の作り方が頭に浮かんできたのだ。


 レシピ習得の条件は、六つの属性の魔法を使うことのようだ。

 そんな仕様、ゲームにはなかったと思う。


「けれど転職システムが実装された瞬間に死んだから、新しいシステムを知らないんだよな」


 きっとビルダーから魔法師に転職した者の特権なのだろう、と思っておく。


 マナバーストの魔導書に必要な材料は、火、風、水、土、光、闇の属性の魔導書を一冊ずつ。

 属性さえ合っていれば、どんな低級魔法でもいい。

 鞄の中にあるそれら六冊を、ビルダーのスキルを使って合成。

 アオイの手に、新しい魔導書が出現した。



――――――

名前:マナバースト

属性:無

説明:残っているMPを一度に全て放出する。ほかの攻撃魔法よりMPを破壊力へ変換する効率が遙かにいい。ただし自分で威力の調整はできない。使用する際は周りを巻き込まないよう注意が必要。

――――――



「な、なんか、とんでもない効果の魔法が出てきちゃったな……」


 この世界の魔法は、一発当たりの消費MPが決まっていない。

 使用者のさじ加減で、消費MPも威力も変る。

 その気になれば、かつて冒険者ギルドでアオイがやったように、何百というMPを一瞬で使い切ることもできる。

 だが、このマナバーストという魔法は、より効率がいいらしい。

 要するに使ったMPの量が同じでも、威力が段違いということだろう。


「ギルドでやったあれでさえ、結構な騒ぎになってロザリィさんに迷惑かけちゃったからなぁ……。今のボクのMPでこの魔法を町中で使ったら……死人が出る」


 試し撃ちは周りに誰もいないところでやろう。

 それとMPがゼロになるわけだから一人は駄目だ。

 守ってくれる人を連れて行かないと。

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