第31話 そのドラゴンは家事ができる
アオイとクラリッサがこの屋敷に住むようになってから、約一週間が経つ。
冒険者ギルドで請け負った仕事をしつつ、少しずつ掃除をしてきた。
まず最優先は、それぞれの寝室。ホコリっぽいところで寝ていたら、咳が止まらなくなってしまうので、そこの掃除は頑張って終わらせた。
が、それ以外のところはまだまだである。
ホコリや汚れだけでなく、ゾンビたちが破壊した家具や壁の破片が散乱している。
いずれ本腰を入れて大掃除をしようと思っていたが、なかなか手をつけないでいた。
しかし。
アオイとクラリッサが一週間かけてまるでできなかったことをエメリーヌは一日で……いや、数時間で終わらせてしまった。
「うふふ、どうかしら。これで私が家事できるって認めてくれる?」
エメリーヌは自信たっぷりに言うが、むしろ謙虚な言葉に聞こえた。
なにせ薄汚れていた廊下が、新築のようにピカピカになっているのだ。
どの扉を開けても、その向こう側はゴミ一つ落ちていなかった。
クラリッサは窓のふちを指でなぞり、光に照らしている。
おそらく「ホコリが残ってるわ。まだまだね」なんて姑みたいなことを言いたいのだろう。ところがホコリなんて全然なかった。
往生際が悪いことに、彼女は色んなところに指で触れまくる。しかし、どうしても掃除のほころびは見つからないようだ。
「クラリッサさん。せっかくエメリーヌさんが綺麗にしてくれたのに、ベタベタ触らないででくださいよ」
「だって……こんな完璧にされたら悔しい……私、アオイくんにお姉ちゃんぶりたいのに……これじゃエメリーヌさんが上位互換だよぉ……」
「安心してください。最初からクラリッサさんに家事は期待してないので」
「わーい、それなら安心……安心できるか! 私、アオイくんに見放されたんだ……ひーん」
クラリッサは半べその顔になる。
「違いますよ。見放したりしません。ボク、クラリッサさんのこと、大好きですよ。元気なところや、グイグイ引っ張ってくれるところとか、優しく抱きしめてくれるところ、ちゃんとお姉ちゃんっぽいです」
「アオイくん……私もアオイくん好き! そういう、素直に好きっていってくれるとこが大しゅきぃ!」
「あらあら。二人とも、本当に仲良しなのね~~」
エメリーヌは、アオイにしがみつくクラリッサを見て、和やかに微笑む。
そのあと三人で買い物に出かけて料理の材料を買う。エメリーヌはそれで夕飯を作ってくれた。
「お、美味しい……お店で食べるより美味しいかもしれません!」
アオイは驚いて大声を出した。
「エメリーヌさんと一緒なら毎日こんな美味しい料理が食べられる……家事は完敗なのを認めます。なのでこれからよろしくお願いします」
クラリッサは敗北宣言してから、パクパク食べまくる。
「うふふ。ありがと。認めてもらえて嬉しいわ~~」
エメリーヌは料理を味わうアオイたちを嬉しそうに見つめつつ、自分の腹も満たしていく。
ドラゴンでも人間の姿になっているときは、食欲が外見通りになるらしく、一人前で終わった。
素晴らしい料理のお礼に、後片付けはアオイとクラリッサでやる。
「ところでエメリーヌさん。この屋敷が綺麗になったのはいいんですが、沢山あったゴミはどこに片付けたんですか?」
「庭に積んでおいたわ~~。さすがに町中だと、私のブレスで焼き払っちゃ駄目でしょ?」
「賢明な判断です」
エメリーヌがある程度の常識を身につけたドラゴンでよかった。
そう安堵したアオイだったが、ふと自分が冒険者ギルドでやらかしたことを思い出す。
MPの多さを証明するため全力で魔法を使って大騒ぎを起こし、ロザリィに迷惑をかけてしまった。
ドラゴンでも気づけることに、気づけなかった。
我ながら恥ずかしい。
きっと病院生活が長かったからだ、と理屈をつけて、なんとか自己正当化する。
「では、せっかくゴミを一カ所にまとめてくれたようなので、それを解体して、新しい家具の材料にしましょう」
見ず知らずの人にビルダーの能力を教えるつもりはない。
が、同じ家で暮らす相手にまで秘密にしなくてはならないとしたら窮屈すぎる。
思い切って、能力を披露してしまおう。
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