第32話 ビルダーの能力にはドラゴンもびっくり
アオイが病室でプレイしていたMMORPGには、自宅をカスタマイズする機能があった。
家をいくら飾り立てても、ゲームが有利になったりはしない。
ただ自宅にフレンドを招いて、自慢するだけだ。
なのでベテランのプレイヤーでも、その機能を一切使ったことがないという人もいた。
しかしハマる人は、とことんハマる。
NPCから買ったり、生産職『ビルダー』に作らせたりして家具を手に入れ、何時間も配置に悩む。
運営会社が変ってからは課金家具なんてのも大量に実装され、王宮みたいな家を作るプレイヤーもいた。
アオイは課金せず、ビルダーの能力の範囲で自宅を飾っていた。
なので家具のレシピも習得しており、生活に必要な物は自力で作れる。デザインだって悪くない。むしろ課金家具は成金趣味が強く、アオイの好みではなかった。
「前からあったベッドは古くなっていたので、ビルダーの能力を使って解体して、ボクとクラリッサさんの新しいベッドの材料にしたんですよ」
「うーん……いまいちよく分からないから、実際にやってみせて~~」
エメリーヌの要望通り、みんなで庭に行く。
そこにはエメリーヌが片付けてくれた、家具などの破片が積み上げられていた。
「まず、このゴミをボクの鞄に入れます」
「あらあら。その鞄、体積よりも沢山入るのね」
「そして『解体』と念じます」
「見た目の変化はないわね~~」
「けれどボクには、素材ゲージが増えたという感覚があります。これを使って、とりあえずエメリーヌさんのベッドを作りましょう。寝るところがないと困りますから」
まずエメリーヌに好きな部屋を選ばせた。
「ボクが作れるベッドは三種類です。一番シンプルなのはパイプベッド。それから普通の木製ベッド。最も豪華なのは天蓋付きベッドです」
「口で説明されても~~。見本はないのかしらぁ?」
「じゃあ、ボクたちの部屋を見に行きましょう」
クラリッサのは普通の木製ベッド。
そしてアオイが天蓋付きベッドだ。
「ああ。天蓋付きってこういうのね。ベッドに屋根がついてるやつ」
エメリーヌは納得した声を出す。
「貴族っぽいわねぇ……と思ったけど、よく見ると作りが簡素ね~~」
そう。
ナントカ宮殿などに残されている天蓋付きベッドは、これでもかというくらい刺繍やら彫刻やらが施され、一目で王侯貴族のものですと分かる。
しかしこれは、シンプルな鉄の柱が四隅から伸び、その上から無地で半透明なカーテンで覆っただけの作り。
実のところ蚊帳と似たようなものだ。
「よく見なきゃいいの! これでもちゃんと、お姫様気分になれるんだよ」
と、クラリッサは力説する。
「ふぅん。けど、それならクラリッサちゃんが使えばいいんじゃないの? どうしてアオイくんの部屋に……?」
「ふっふっふっ。最初はそのつもりだったんだけど……どう考えてもアオイくんのほうが似合うから交換したの!」
クラリッサは不敵に笑いながら語る。
「アオイくんね、早起きするのあんまり得意じゃないみたいで、毎日、私が起こしてるんだけど……この薄いカーテン越しに見るアオイくんの寝顔、マジお姫様! 朝からこんな可愛いものが見られてありがとうって神様に感謝しちゃう! 胸がキューンってするんだよ!」
「なるほどね。想像したら、確かにお姫様だわ~~。クラリッサちゃんはお姫様を守る少女騎士って感じね~~」
「おお、私は騎士! アオイくん姫をお守りするため、毎日添い寝してあげなきゃ!」
「うふふ。そう言うクラリッサちゃんが、アオイくんにいたずらしちゃうんじゃなーい?」
「えへへ。その可能性はありますなぁ」
少女騎士クラリッサは自分が一番の危険人物だと認めつつ、悪びれずに、にへらぁと笑う。
それを見てエメリーヌも「あらあら~~」と愉快そうに微笑む。
どうやらこの家にはアオイ姫を真剣に守ろうという人はいないらしい。
まあ、そもそも姫ではないのだが。
「そういうことなら、天蓋はアオイくんの特権ね。私はクラリッサちゃんと同じ、普通のベッドにするわ」
「別にそんな特権はいりませんけど……分かりました」
エメリーヌの部屋に木製ベッドを作る。
大きな物体が急にポンと現れたのを見て、エメリーヌは目を丸くし「凄いわねぇ」と驚いていた。
しかしアオイとしては、ドラゴンが人間に変身するほうが、よっぽど凄いと思う。
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