第26話 闇の魔導書
アオイとクラリッサは手記を読む。
この屋敷の持ち主は魔法師だった。
それも研究者肌の魔法師だ。
魔導書を使って魔法を覚えるだけでなく、儀式や実験を行い、オリジナルの魔法を作り出していたようだ。
それらの魔法は、魔力効率が悪かったり、効果が弱すぎたりと、ほとんど実用性がなく『ただ作り出せた』という以上の意味はない。
だが、重要なのは積み重ねること。
一歩一歩が小さくても進み続ければ、いつか知識の地平へと辿り着けるはず。
今はダンジョンの宝箱やキューブから現れる魔導書に頼り切っているが、いつか人間の力で、それ以上の魔法を生み出してみせる――。
手記にはそんな意気込みが綴られていた。
町の外でモンスターとの激戦を繰り広げる冒険者とはまた違った『熱さ』が込められている。
ところが、その熱意は途中から、暗黒の炎に変ってしまう。
将来を誓い合った恋人が死んだらしい。
彼は、恋人を生き返らせるための研究を始めた。
ありとあらゆる文献を漁り、魔法とも呼べない、まじないに手を出す。
盗んできた死体を切り裂いては縫い合わせたり。
動物の血を使って血文字の護符を作ったり。
終いには誘拐した人間を生贄に捧げ、降霊術を行ったらしい。
が、全て失敗。
彼の恋人は戻ってこない。
手記の最後のほうは、文体も筆跡も乱雑になり、もはや判読不能だった。
詳細はまるで分からない。
ただ、どうやら彼は、自分で作りだした闇魔法によってゾンビと化したようだ。
ここがゾンビ屋敷になってしまったのも、その魔法のせいだろうか。
彼が最後に行った闇魔法は、なにを目的としていたのだろうか。
ゾンビになって恋人を生き返らせる研究を永久に続けたかったのか。
それとも恋人をゾンビとして蘇らせようとして失敗したのか。
あるいは恋人は蘇っていて、あの無数のゾンビの中に混ざっていたのか。
もう確かめるすべはなさそうだ。
「好きな人にもう一度会いたいってのは分かるけど……けど……色んな人を犠牲にして、自分までゾンビになっちゃって……人生ってどこでおかしくなるか分かんないね」
クラリッサの言葉に、アオイは無言で頷くにとどめた。
人生を語れるほどの経験はしていない。死んだ人間を生き返らせようというのが間違いだ、という一般論さえ言えない。なにせアオイは一度死んで転生している。
手記以外の本は、破れていたり、冒頭から専門用語の連発で読む気にならなかったりと、アオイたちにはどうにもできないものばかりだった。
ただ一冊だけ、魔導書を見つけた。
――――――
名前:ダーク・アンプ
属性:闇
説明:ゾンビや悪霊、吸血鬼といった闇の存在を強化する魔法。攻撃力や防御力、素早さなどをまんべんなく強化する。
――――――
自分を強化できるならともかく、これは使い道がなさそうだ。
ゾンビや悪霊を使役する死霊術師なら重宝するかもしれないが、アオイには闇の存在を仲間にする予定はない。
しかし、せっかく見つけた魔導書を捨てておくのはもったいないので一応、持ち帰る。
習得するか売るかはあとで考えよう。
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