第15話 レベル7
「あら、クラリッサさんに、アオイくん。珍しい組み合わせね。いつの間に知り合ったの?」
受付嬢のロザリィは呑気な口調で言う。
しかし、こちらの表情……特にクラリッサが眉間にシワを寄せているのを見て、ただ事ではないと察したらしい。姿勢を正してメガネの位置を直す。
「たんに仕事の成果を報告に来たわけじゃなさそうね」
「……森で異変が起きてるの」
クラリッサは小声で言う。
「……奥で詳しく聞くわ」
個室に連れて行かれた。
アオイとクラリッサは、森の浅いところでカメレオウルフの群れと遭遇したこと。その直後、サイクロプスまで現れたと報告した。
「カメレオウルフはともかく、サイクロプスがあの森に……!? 今まで目撃情報は一件もないはずよ。どこからか移動してきたとか……?」
「サイクロプスが出現するのは、ずっと遠く。さすがに考えにくい」
「けれど、あの森でサイクロプスが自然発生するとは思えないし……まさか……スタンピードが起きるかもしれないってこと……?」
ロザリィは一つの可能性に思い至り、己が語った言葉に息を呑んだ。
「私はその可能性があると思ってる」
クラリッサは頷く。
重苦しい空気が漂った。
スタンピードというのは、モンスターが大量発生し、群れで大移動することである。町に帰るまでの道すがら、アオイはクラリッサにそう説明してもらった。
たんにモンスターの数が増えるだけでなく、いつもならそこにいないはずの種類まで湧き出す。
運がよければ、スタンピードが本格的に起きる前に、前触れを観測できる。
アオイとクラリッサが遭遇したのがそれである。
いきなりスタンピードが発生すれば、近くの町は為す術なく飲み込まれ、最悪、全滅してしまう。
が、今回は対策を練る時間が与えられた。それがどれほどの時間かは不明だが、ただ覚悟を決めておくだけでも、かなり違うだろう。
「……分かったわ。王都に応援を頼む。防衛戦力を増やしつつ、森を調査。スタンピードが起きるとハッキリすれば、王国軍の派遣も認められると思う」
王国軍。頼もしい響きだ。
しかしアオイは不安も覚えた。
「あの……調査しているあいだにスタンピードが起きたらどうするんですか?」
そう質問すると、ロザリィとクラリッサは、また暗い顔になる。
が、すぐに笑顔を浮かべた。
アオイを安心させるための笑顔か。あるいは自分に言い聞かせるためのものか。
「大丈夫、大丈夫。私もスタンピードって経験したことないけど、聞いた話だと、兆候が出てから本番が来るまで、かなり時間がかかるらしいから」
と、クラリッサが。
「ええ。私もそう聞いてるわ。森の異変を報告してきたのは、あなたたちが最初。だから、兆候が出たのはつい最近のはず。スタンピードが起きるのは、何ヶ月も先だと思うわ」
と、ロザリィが、相次いで楽観論を語る。
そういう統計があるから大丈夫と言われれば、異世界から来たばかりのアオイは黙るしかない。
それに、スタンピードが明日起きるかもという前提で動いたところで、できることはなにもないのだろう。
過去の統計と同じだけの猶予があると信じるしかない。
これ以上、スタンピードについて焦っても無駄なのだ。なら本番が来るまで考えても意味がない。
強いていえば、それが起きるまでに可能な限り強くなる。個人ができる対策なんて、そんなものだ。
せっかくギルドに来たので、パラメーターを測定することにした。
――――――
名前 :アオイ
職業 :魔法師
レベル:7
HP :35(+200)
MP :39
攻撃力:25(+1)
魔力 :29(+203)
防御力:20(+206)
敏捷性:21
――――――
レベル7になっていた。
それなりにモンスターと戦ったとはいえ、一気に上がりすぎな気がする。
アオイは首を傾げる。
「私と一緒にサイクロプスを倒したからだね!」
トドメを刺したのはクラリッサだが、共闘しただけでも経験値が入ってくるシステムのようだ。
「私も久しぶりに測ってみよっと!」
――――――
名前 :クラリッサ
職業 :剣士
レベル:21
HP :173
MP :16
攻撃力:70
魔力 :13
防御力:42
敏捷性:65
――――――
「やった! レベルアップしてる! レベル10を超えると、なかなか上がらなくなるんだよねぇ」
クラリッサはしみじみとした口調で語る。
二人ともレベルアップしていてめでたい。
スタンピードのことはいったん忘れ、アオイとクラリッサはちょっと高めのディナーを一緒に食べた。
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