第14話 ユニコーンソードの切れ味
病室にいた頃のアオイは、死ぬまでの暇つぶしを繰り返しているようなものだった。
ゲームの世界でどれだけ活躍しても、モニターから目を離せば、どこか虚しかった。
ところが今、死を待つだけだった無力な自分が、クラリッサという一人の人間を守っている。
どんなに怖くても、逃げたくない。
「アオイくん! キミ、凄すぎるよ!」
いつの間にか、クラリッサがサイクロプスの背後に回り込んでいた。
次の瞬間、巨大な頭部が宙を舞った。
いつ斬ったのかアオイの動体視力では分からない。
とにかく凄まじい速度でクラリッサは剣を横に振り抜き、サイクロプスの首をはねたのだ。
彼女の斬撃はそれで終わらなかった。
二本の腕も、胴体も、両足も、全て斬る。
サイクロプスはもう人の形などしていない。ただの肉塊だ。
クラリッサが着地するとサイクロプスの肉も地面に落ち、そして消えてしまう。
あとにはキューブが残された。
「クラリッサさん……す、凄い! なんか剣がシュパパパパって! ボク、剣術なんか全然分からないけど、クラリッサさんの動きが凄いってのだけは分かりました!」
「いやいや! 凄いのはアオイくんだって! 私の剣、折れたよね? なのに直ってる。しかも切れ味がとんでもないんことになってるんですけど!?」
「直したというか……一度、分解して、作り直したんです。あとさっきも言いましたけど、ボクは装備を強化できるので。その能力で強化しておきました。サイクロプスに通用して、よかったです」
「う、うん……なるほど……」
クラリッサは歯切れ悪く呟きながら、剣を鞘に収めた。
「ねえ、アオイくん。私さっき、能力はバラしたほうがいいって言ったけど……取り消す。キミの能力は凄すぎる。知られたら……多分、多くの人がキミを狙う。私だって、キミの能力があったらどんなことができるかって妄想しちゃってる。人前で使っちゃ駄目な能力だよ」
もともとアオイは、能力をペラペラ語ろうと思っていない。
それにしたってクラリッサの言葉は大げさに感じた。
だが、冷静に考えれば大げさでもなんでもないのだ。
クラリッサは間違いなく優れた剣士だ。レベル20というのはこの辺りではかなり高いはず。
その彼女が手も足も出なかったサイクロプスを、アオイは雑魚に変えてしまったのだ。
ゲームバランスを崩壊させる装備を生み出せるのだ。
倫理観を無視して考えてみよう。
極悪人がアオイの能力を知り、自分の利益のために使おうとしたら。
アオイを脅して、無限に武器を生産させ、それを売って儲けるか。
あるいは、自分用の武器を作らせたあとアオイを殺してしまうというのも手だ。強力な装備を何人も有していては、アドバンテージがなくなってしまうから。
アオイの装備は強い。が、アオイ自身はレベル1の初心者冒険者だ。服を脱いだときに襲われたら、どうにもならない。
「想像したら、怖くなってきました……」
「まあ、自分から言ったり見せびらかしたりしなきゃ、バレないと思う。脅すようなこと言っておいてなんだけど、そこまで怖がらなくてもいいよ。ほら、とりあえず町に帰ろう。手を繋いであげるから」
アオイは躊躇せずに彼女の手を握り返した。
町に着くと、真っ先に冒険者ギルドに向かう。
森でサイクロプスと遭遇した、と伝えねばならない。
クラリッサいわく。これはアオイの能力より、更に恐ろしい問題である。
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