第13話 サイクロプス出現
ラディクスの町は、レベル10や20程度の冒険者が集まる場所だ
アオイたちの前に現れたその敵は、そんな町の近くに生息するにしては、あまりにも巨大すぎた。
身長五メートルはあろうかという一ツ目の巨人である。
「サ……サイクロプス……?」
クラリッサは呆然と見上げて呟く。
現実の光景だと、上手く認識できていない様子だ。
それほど、この巨人がここにいるのが信じがたい状況なのだろう。
しかし、唖然としていたのは一瞬だけだ。
すぐに剣を構え、全身から闘気を放つ。
カメレオウルフのときより明らかに怯えているが、それでも諦めていない。
「アオイくん、逃げて! いくらキミの装備が凄くても、あいつは無理よ! 私が時間を稼ぐ!」
逃げてと言われて、はいそうですか、と逃げられるわけがない。
確かに相手は未知のモンスターで、今のアオイの防御力でも耐えきれないかもしれない。
しかし、クラリッサを囮にして、自分一人だけ助かる?
そんなことをしたら仮に生き延びたとしても、残りの人生をずっと惨めな気持ちで過ごすことになる。
そんなのは御免だ。
刹那。
サイクロプスがクラリッサを蹴った。
彼女は剣を盾にして防御するが、衝撃を殺しきれず、体が宙に浮いた。そのまま吹っ飛び、後ろの木に激突する。
サイクロプスは追撃をかけようと突進。
アオイは、サイクロプスとクラリッサの間に割って入る。
そして鞄から鉄の剣を出し、迫り来る爪先に振り下ろした。
刃がめり込んだ。
サイクロプスは足から血を流し、悲鳴を上げながら後退する。
だが、致命傷にはほど遠い。
アオイは鉄の剣を手放してしまった。
サイクロプスが後ろに下がるときの力が予想以上に強かったのだ。剣はサイクロプスの足と絡まり、引っ張られ、地面に落ちた。
(遠い……)
鉄の剣はかなり離れた場所まで飛ばされた。
あれを拾いに行くくらいなら、別の手段をとるほうがマシだ。
「アオイくん、なにしてるの! 逃げて!」
後ろからクラリッサの悲鳴のような声が聞こえた。
もちろん逃げない。
アオイが考える別の手段とは、決してクラリッサを見捨てるものではない。
しゃがむ。
無論、怖くて身を低くしたのではない。
足下に落ちていた
それはサイクロプスの蹴りで折れた、
柄と刃。その両方を鞄に突っ込み、解体スキルを実行。
『ユニコーンの角』の素材ゲージが増えた。
そして『ユニコーンソード』のレシピを習得した。
その二つを使ってアイテムを作成。
――――――
名前 :ユニコーンソード
攻撃力:+50
加護枠:残り二つ
説明 :ユニコーンの角を削って刃にした。処女以外が装備するとまるで斬れないナマクラになる。
――――――
(加護枠が二つもある! なにを付与するか、じっくり考えたいけど、その余裕はない……!)
――――――
名前 :ユニコーンソード
攻撃力:+50
加護枠:攻撃力+200 攻撃力+200
説明 :ユニコーンの角を削って刃にした。処女以外が装備するとまるで斬れないナマクラになる。
――――――
これで攻撃力450の剣になった。
攻撃力214の鉄の剣であれだけの傷を負わせられたのだ。その倍以上なら確実に仕留められる。
ただしアオイが使ったのでは駄目だ。
敵に振り下ろした剣を手放してしまうような素人では、どんな名剣でも役立たず。
ゆえに作り直したユニコーンソードを後ろに投げ、クラリッサの眼前に突き刺した。
そのときサイクロプスはようやく動き出した。
足の傷が痛いのか。それともアオイが次になにをするのかを恐れて慎重になっていたのか。
なんにせよ猶予は終わった。
サイクロプスは距離を詰め、両手の拳をアオイの頭上に振り下ろしてきた。
アオイも両腕をクロスさせて、防御の姿勢をとる。
激突の瞬間、衝撃が駆け抜けた。
受け止めた腕だけでなく、全身に鈍い痛みが広がる。
「っ!」
しかし骨が折れたり、皮膚が破けたりはしていない。
痛いだけ。
このローブはサイクロプス相手でも有効だ。
ただし、このままずっと殴られ続けたら、どうなるか分からない。
いや、分かりきっている。
痛みを感じたということはダメージが通っているわけで、それが続けばいずれ傷を負い、骨が折れ、内臓を損傷する。
残りのHPなど見えなくても分かる。容易に想像がつく。
自分の何倍もある巨体が全力で殴りかかってくる。これまで体験したことのない状況だ。それを意識した途端、恐怖が走り抜けた。
死ぬかもしれない。
アオイは地球からこの世界に転生してきた身だ。
すでに死を経験している。
しかし……自分を殴り殺そうとしている相手を前にする。これは、まるで別種の恐怖だった。
だが逃げない。サイクロプスの攻撃を受け止め、クラリッサの盾になるのだ。
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