第5話 初めての洞窟
「そうだ。具体的な数字だと、どのくらいMPを使ったことになってるんだろう」
自分のパラメーターを見ようと念じる。
が、表示されない。
「ん?」
何度やっても駄目だった。
しかし鑑定スキルは上手く働いている。
「ゲームのスキルは使えるけど、ゲームそのものじゃないから、なにもかも同じにはいかないってことか」
無限収納の鞄だってそうだ。
ゲームだと画面にアイテム欄が表示され、そこから使いたいアイテムを選ぶ。
この世界では鞄に手を入れ、念じるとアイテムが出てくる。
装備を選択すれば即座に切り替わったが、ここではモゾモゾと着替える必要がある。
「パラメーターを確認するには、ギルドの水晶玉がなきゃ駄目か。あと、魔法一発の消費MPが決まってない気がする。ボクの力加減でかなり変わりそうだ」
受付嬢は、パラメーターは目安と言っていた。
攻撃力10の者が攻撃力100よりも強いパンチを放つのは、おそらく無理だろう。しかしわずかな違いであれば、そのときの状況で差がひっくり返りそうだ。
ゲームでさえ、乱数によるランダムが組み込まれている。
ましてここは現実。不確定要素は比べものにならないほどあるに違いない。
「数値じゃなくて、感覚でやれってことだな。まあ、そのうち慣れるだろ」
納得したアオイは、更に草原を進む。
すると洞窟の入口が見えた。冒険者ギルドでもらった地図の通りである。
ラディクスの町の周辺では、この洞窟が一番危険な場所であるらしい。
名前は町の名からとって、ラディクス洞窟。
レベル10になるまで一人で潜るべきではないと、冒険者ギルドの受付嬢が真剣に忠告してくれた。
それだけ強いモンスターが生息しているのだ。
ゲームなら難易度に相応しいアイテムを入手できるのが定番だが……ここはゲームではない。そう都合よくいかないかもしれない。
それでもアオイは、今の自分の強さを知るため、あえて洞窟に足を踏み入れた。
受付嬢から聞いたとおり、壁のあちこちに明かりが設置されている。
油ではなく魔石を燃料にした、魔法のランタンだと言っていた。
明かりが常設されているということは、それだけ頻繁に人が来るのだろう。
ならば加護で強化されたアオイなら、安全に探索できるはずだ。
歩いていると、コウモリ型のモンスターが現われた。
ガシガシと噛みついてくる。
手首を噛み千切れそうなほど鋭い牙と大きな口だ。
かなりの力を感じる。
が、防御力のおかげで痛くはない。
「えい!」
アオイは杖でコウモリを殴った。
一撃で死んでくれなかったので、もう一発殴る。ようやくコウモリは動かなくなった。
「あれ? 死体が消えた?」
スライムは水分の塊という感じなので、消えても違和感がなかった。
しかしコウモリ型のモンスターまで死体が消えるというのは、とても不思議だ。
首を傾げつつ、奥へと進んでいく。
するとRPGに出てきそうな、いかにもな宝箱を発見した。
「この世界、ゲームっぽいところと、そうじゃないところが混ざってるなぁ」
アオイは宝箱を開けようと腕を伸ばし、ふと思いとどまる。
ゲームによっては宝箱に罠が設置されていて、開けた途端に爆発したり、モンスターが飛び出してきたりする。
――――――
名前:宝箱
中身:アイテム
罠 :なし
――――――
鑑定が通じた。
安心して開ける。
中身は透明な瓶に入った液体だった。
――――――
名前:ポーション(小)
説明:飲む傷薬。HPを30程度回復する。HPが低い者ならこれ一本で瀕死の状態から回復するが、HPが高い者はもっと強いポーションが必要。
――――――
アオイは素の状態だとHPが10しかない。が、装備のおかげで200を超えている。
瀕死になってからこのポーションを飲んでも、あまり効き目がなさそうだ。
もっとも防御力も200オーバーなので、そうそうHPが減ったりしないはず。
「ん? 宝箱も消えるんだ……」
ポーションが入っていた宝箱の輪郭がボヤけ、最初からなにもなかったかのように消滅してしまった。
しかしアオイの手には、ポーションが残っている。
夢を見ていたわけではない。
「どういう仕組みなんだろう? いや、魔法がある世界で仕組みとか考えても仕方ないけど……」
この洞窟は今まで、大勢の冒険者によって探索された。
なのに、こんな浅いところにアイテムが入った宝箱が放置されてるなんて妙だ。
宝箱は新しく湧いてきて、中身を取り出すと消えるのか。
「次にギルドに行ったら受付嬢さんに聞いてみよう。さーて。探索するぞ」
この世界をもっと知るため、洞窟の奥へと進む。
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