短編:戦う料理人グリエの成り上がり~「先代が亡くなってから味が落ちた」と追放された料理長。いや、以前から真のシェフは俺ですが? 特殊食材の調達も処理もお任せあれ。隣国の女王に見初められ、名を上げる

宮城こはく

【短編】追放から始まる大料理人の冒険譚

「グリエ、お前が料理長だなんて間違っている! お前が料理長になってから味が落ちたって、もっぱらの噂だ!!」

「そうだ。下民がつくる飯は臭いんだよ! さっさとここから出ていけ!!」


 ――そんな風に料理人仲間から罵倒され、グリエは困惑するしかできなかった。


 グリエは宮廷料理人ロティールの身の回りで雑用として働いていた。

 とはいえ雑用とは名ばかりであり、近年はロティールの代わりにメインディッシュを仕込むほどの腕前に成長し、ロティールの遺書によって次の料理長に指名されたわけだ。

 しかしグリエを雑用としか認識していない他の料理人たちはグリエに嫉妬し、グリエの指示に従わないどころか罵倒するようになっていた。


「味が落ちた……か。それはただの言いがかりだな。ロティールさんが亡くなる前……それこそ何年も前から、メインディッシュを担当してたのは俺なんだぜ」


 先代の料理長ロティールの指示で、彼の代わりに料理をしていたのは他ならぬグリエ自身だ。それなのに「味が変わった」なんて言うんだから、グリエは呆れてしまった。

 宮廷の奴らが味わっていたのは料理ではなく、「世界的な料理人ロティールの料理」という情報だったんじゃなかろうかとさえ思う。


 副料理長のアントレは嫌味な感じで笑ったままだ。

 アントレはロティールの実の息子であり、次の料理長の座を狙っていたらしい。

 彼がまわりの料理人たちをたきつけてグリエを罵倒しているのは明白だった。


「今まで料理してたのが貴様? はは。言うに事欠いて、親父の功績を横取りしようというわけだ。下民の卑しさには反吐ヘドが出る」

「横取りするつもりなんてない。ただの事実だ。奥の厨房での出来事だから知らなかったろうが、ロティールさんはずっと俺に任せてくれていたんだ」

「そんなわけあるかっ! 料理人失格の大ぼら吹きめが!」


 そう言ってアントレは生ごみ袋をぶちまけ、グリエは頭から酷く汚されてしまった。

 まわりの料理人もそれを見て鼻をつまむ。


「雑用風情が一丁前にコック服を身にまとってんじゃねぇよ。脱げ。クセェんだよ!」

「……雑用。雑用か」


 グリエはつぶやき、深くため息をついた。

 確かに彼は他の料理人の前では皿洗いとゴミ捨てしかしてこなかったので、雑用呼ばわりされるのも仕方ないと思った。

 ロティールの言いつけにより、グリエはロティール専用の厨房の中でしか料理を許されなかったのだ。


(ロティールさん……まさか自分の名声のために俺を利用してたのか?)


 ……そんな風にグリエは疑ったが、少し思っただけで憂鬱さに苦しくなり、そっと思考を閉ざした。

 身寄りのない自分をここまで育ててくれた恩人を疑うなんて、グリエにはできなかったのだ。



 そんな時、厨房に一人の紳士が顔を出した。

 いかにも貴族然とした男の名はガトー。儀典長という役職の人間で、宮廷では料理人たちの上役である。

 彼は口ひげを整えながら、グリエに厳しい眼差しを向けてきた。


「まだいたのか、グリエくん。君はクビだ。即刻出ていきたまえ」

「クビ? なぜ俺が?」

「なぜも何もない。ロティール氏の願いだからと少し様子を見ていたが、やはり下民の作る食事は臭くてかなわぬ。宮廷に……いや、この王都に君の居場所などないのだよ」


 そしてガトーは一枚の紙をグリエの眼前に突きつける。

 それは彼のサインが記された解雇通知だった。


「……なるほど。あんたのお気には召さなかったわけだ。……しかし今後の食材の調達はどうするんだ? メインディッシュの食材はずっと俺が狩ってたんだが」


 グリエが伝えると、アントレは鼻で笑い始めた。


「ははっ。大ぼら吹きもそこまで行けば大したもんだ。狩りこそ狩人や冒険者の領分。お前なんぞにできる訳がない。さっさと出ていけ!」


 そう言って、アントレは水をぶっかけてきた。

 さすがのグリエも、ここまでされると呆れてしまう。

 グリエはコック帽と白衣を脱ぎすて、厨房を出ていくのだった。



  ◇ ◇ ◇



 宮廷を追い出された後、グリエは魔獣の住まう危険な森にやってきていた。

 もちろん都で料理人としての働き口を探したのだが、宮廷から知らせがあったらしく、どの店もグリエを拒絶するばかり。

 元々身寄りのないグリエは、仕方なく食材の狩り場に使っていた魔獣の森に流れ着いていた。


 この森は危険な魔獣がうようよしているが、グリエにとっては勝手の知った庭のようなもの。狩りの滞在用の小屋に陣取りながらのサバイバル生活を始めていた。


「……まあ、食う物には困らないんだけどな……」


 グリエは話しかける相手もなく、独り言をつぶやく。

 手にしているのはジュエルボアのスペアリブだ。

 香草で肉の臭みを消し去ったうえ、宮廷では幻とも言われていた常夜茸のソースを絡めてあるので、いくら食べても手が止まらない。我ながら絶品だとグリエは思う。


 しかし腹が膨れても、心は満たされていなかった。

 ――食べてくれる客がいないからだ。


 宮廷でも客の前に立つ機会に恵まれなかったが、グリエにはロティールがいた。

 髭面で可愛げのない男だったが、グリエの料理をうまそうに食ってくれるのはありがたかった。


「ロティールさん……なんで死んじゃったんだよ……」


 ロティールは突然一人で狩りに行くと言って出発し、そのまま帰らぬ人となった。

「グリエに料理長の座を譲る」というシンプルな遺言が見つかったのは、その後しばらくのことで……。

言葉少なで自分勝手な男だったが、グリエにとっては育ての親同然であり、彼はその喪失感で消沈しているのだった。


 狩りということから、グリエは宮廷の自慢料理スペシャリテの食材を思い出す。

 『料理長のスペシャリテ』と呼ばれるメニューの食材は、グリエ自身が各地の危険な狩場で仕入れていたものだ。

 それをちゃんと伝えようとしたのに、アントレたちはまったく聞く耳を持たなかった。

 このままでは重要なメインディッシュがことごとく作れなくなるわけだが、彼らはどうするつもりなのだろう?

 ……そんなことが気になったが、アントレの顔が思い出されたので考えるのを止めた。

 もうクビにされた身。あいつらも自分のことは自分で責任を持つだろう。

 むしろ関係がなくなって生成すると、グリエは思うのだった。



「た……助けて……っ! 誰か…………!!」


 その時、森の中に女の悲鳴が響き渡った。

 今いる場所は魔獣の森の中でもかなりの奥地。獰猛な魔獣がゴロゴロいる危険地帯だ。

 グリエが樹上の小屋からとっさに出ると、眼下に見えたのは一人の若い女だった。

 冒険者かと思ったが、武器も身につけず、ドレス姿で必死で馬にすがり付いている。他に従者はいないようだ。


 そしてその女の背後から迫りくる巨体が目に入った。

 体長は10メートル以上はあるだろうか。

 全身にぶ厚い殻をまとった巨大グマで、その突進は戦車並みと恐れられている。


「チャリオットベア! おいおい、すげぇレア物じゃねぇか。しかもあの太りっぷり、今まで見たことのない大物だぞ」


 チャリオットベアは固く閉ざされた甲殻に旨味がギュッと閉じ込められており、この森に生息する魔物の中でも一級品の高級食材。宮廷料理の中でも特に重宝していた。

 あの味わいを思い出すだけで、グリエの口にはよだれがあふれて来る。


「って、よだれを垂らしてる場合じゃねぇな。何が起きたか分からねぇが、助ねぇと」

 グリエはとっさに小屋から飛び降りると、チャリオットベアの眼前で包丁を構えた。


「い、いけませんわっ! チャリオットベアの甲殻は鋼鉄とも言われます! そんな包丁では死に――」


 女性は慌てて止めようとするが、グリエにとっては敵ではない。

 彼は獲物の隙を狙い、たやすく懐に潜り込む。そして腕を駆けあがって一気に首を切断した。

 頭を失って動ける魔獣はいない。

 チャリオットベアはあっという間に動かぬ肉になり果てたのだった。


 そしてグリエは地面に座り込む女性に手を差し伸べる。

 彼女の年頃は二十歳かもっと下。……グリエと同じぐらいだろうか。

 ロイヤルブルーのドレスに銀髪が良く映える。筋肉のつき方から見ても冒険者とは思えず、どこかの貴族のご令嬢というたたずまいだ。切れ長の目元も手伝って、どこか冷たい印象があった。

 ただ、宮廷の連中のような蔑むような視線とは違い、彼女は丁寧に頭を下げてくれた。


「命を助けていただき、感謝いたしますわ。わたくしはフランと申します」

「俺はグリエだ。……しかし一人でこんな森の奥地。どうしたんだ?」


 フランと名乗る女性に問うと、どうやらウサギ狩りの際にチャリオットベアが現れ、驚いた馬の暴走でここまでやって来たらしい。

 部下の多くはチャリオットベアにやられたらしいが、確かにここまでの大物なら仕方ないとグリエも思う。

 その話の流れで、フランはグリエをしげしげと見つめ始めた。


「勇猛な騎士でさえ敵わなかったのに、あなたは包丁一振りで簡単に倒してしまわれた……。素晴らしい身のこなし、そして刃の切れ味ですわ……」

「……ああ、この包丁か。別にどこにでもある普通の包丁さ」

「どこにでもある……? でも騎士たちの剣はまったく歯が立ちませんでしたわ」

「俺には見えるんだよ。包丁を入れるべき線が」


 グリエには見えている・・・・・のだ。

 ――包丁を入れるべき場所が。

 ――さばくべき手順が。

 ロティールに『道標の魔眼』と名付けられたギフトが、獲物を食材に変える手順を教えてくれていた。


「『道標の魔眼』……。そんな素晴らしい力の持ち主、さぞや名のある冒険者かと存じます」

「冒険者なんかじゃないさ」

「では一体……?」


 その時、ぐぅぅぅぅっと唸るような音が響いた。

 それはフランのお腹の音だったようで、彼女は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしている。


「は……はしたないですわね……ごめんなさい」

「緊張が解けたんだろ。何も恥ずかしいことじゃない。……そうだ、ちょうど作りたての品があるんだ。食えよ」


 グリエは腰の鞄から包みを取り出す。その中には先ほど作った骨付き肉が入っていた。

 少し冷めているが、かぐわしい香りがフランの鼻腔をくすぐる。


「フォ……フォークもナイフも無いのにむしゃぶりつくなんて、はしたないですわ」

「そう言いながら、よだれがあふれてるじゃねぇか」

「あっ……や……。こ、これは……! アクシデントがあって昼食を食べそびれたせいで……」

「いいから食いな。うまいぞ」


 フランは頬を赤らめながら肉を手に取った。

 そしてつばを飲み込むと、その小さな口で肉をかじり取る。


「…………っ!?」


 その瞬間、今まで氷のようだったフラン嬢の目が輝いた。

 呼吸を忘れたように肉をほおばり、興奮気味に飲み込む。そして次の骨付き肉に手を伸ばし、一気に一人分を平らげてしまった。


(なんていい食いっぷりだ。……ほれぼれするな)


 グリエは見るだけで嬉しくなった。

 その表情だけで料理が最高だったと物語ってくれている。

 特にすました表情が一変した瞬間など、官能的とも思える程だった。


「ご……ごちそうさまでしたわ。……落ち着きました」


 食べ終わったフランは取り繕ったように冷静に応えるが、漏れ出る幸福感を隠せていないようだ。表情は緩み、味わいを反芻はんすうしているように見える。

 それを見るだけで、グリエの心も満たされていた。


「旨いだろ?」

「……ええ。とても……。……それに、これは何度か味わったことがありますわ。確か隣国の宮廷に招かれた際に……」


 彼女が言う“隣国”とは、おそらくグリエの故郷であるグラッセ王国のことだ。

 そして今いる魔獣の森を隔て、グラッセ王国の隣に小さな国がある。話からすると、彼女はそこのお貴族様なのだろう。


「なるほどな。だったらそれも俺が作ったんだろう。スペシャリテの一つ、ジュエルボアのスペアリブっていうんだぜ」


 そう告げた瞬間、フランの目が輝いた。


「グリエさん。あなたはまさか、宮廷の料理人ですの!?」

「元な。確かに宮廷にいたんだが、クビになったんだ」

「どういうことですの?」


 聞かれたので、グリエは自分のことを手短に説明した。 

 宮廷の料理人として働いていたこと。

 その当時から食材の狩りのためにこの魔獣の森によく来ていたこと。

 そして先代料理長の遺言で次の料理長になるはずだったが、儀典長の決定で宮廷を追い出されたこと。


 グリエの話を聞くフランは、呆れたようにため息をついた。

 そしてグリエの手を強く握りしめる。


「グリエさん。あなたのように強く、そして素晴らしい料理人は他に知りません。あなたを我が国におまねきしたいのですが、いかがかしら?」

「招く? ……すまないが、あんたはどういう?」

「わたくしはフラン・ポワレ・キャセロール。……キャセロール王国の女王ですわ」

「女王様……!? 俺とそう変わらない歳に見えるのに、驚きだな……」


 グリエは驚く。

 しかしすぐに親近感がわいた。彼女は気品ある表情をしているものの、その口元からはよだれが垂れていたからだ。

 彼女の視線はさっきから俺が持っている残りのスペアリブに釘付けになっている。

 フラン女王様はよっぽどの食いしん坊らしい。


「ふふ。ずいぶんと肉を気にいったみたいだな。さっきからよだれがこぼれてるぜ」

「こ……これは! し、仕方ありませんわ! だってこんなにも本能をくすぐられる香り、我慢できる者はおりません!」

「……いいぜ。アンタのようなほれぼれする食いっぷりは料理人冥利に尽きる。たらふく食わせてやるから、楽しみにしてな」


 グリエは笑い、フランの手を握り返した。

 ――こうしてグリエは隣の小さな国、キャセロール王国で料理人として雇われることになったのである。



  ◇ ◇ ◇



 グリエが隣国で雇われていた頃、グラッセ王国の宮廷ではアントレが料理長になっていた。

 儀典長のガトーは下民の空気が一掃され、満足そうにアントレに語り掛ける。


「アントレ殿も料理長としての振る舞いが板についてまいりましたな。推薦した甲斐があったというもの」

「ありがとうございます、儀典ぎてん長さま。恩に報いるためにも、次の宴は絶対に成功させてみせます!」

「うむ。次の晩餐会に招待するのは各国の王。重要な交易相手として粗相そそうがあってはならぬからな。……下民の皿を出す可能性があったと思うと、身の毛もよだつわい」

「はは。御心配には及びません。私には副料理長として父を支えた実績がございます。王の舌も満足させられるかと」


 もちろんアントレの言葉に偽りはない。

 先代料理長のロティールはフルコースの指揮を執っており、いくつかの料理はアントレの品でもあったからだ。

 しかしメインディッシュだけはロティールが自分専用の厨房に閉じこもって作っており、その全貌を知る料理人はいない。

 そしてそのメインディッシュの素晴らしさこそ、ロティールが世界最高の料理人と讃えられる理由に他ならなかった。


 普通ならまともな引継ぎもない状況で不安を覚えるはずだが、アントレは落ち着いていた。彼はロティールの私室から自慢料理スペシャリテのレシピ集を見つけ出していたのだ。

 レシピは料理を再現できる魔導書のようなもの。

 父がいなくてもメインディッシュは問題なく作れる。

 いや、目の上のたん瘤だった父がいなくなった今、栄光はすべて自分のものになる。

 ――アントレは輝かしい未来を思い、胸を膨らました。


「そうそう、メインディッシュにはチャリオットベアのローストを考えております」

「おお、チャリオットベアか! 私もロティール氏の時代に一度食したが、あれは素晴らしい一品であった。旨味の爆弾とも言えようか。柔らかな肉を噛みしめるごとに口の中で旨味がはじけ、あまりの旨味の濃さに昇天しかける程だったわい……」

「ええ。それに食材自体がレア物という点がポイントなのです。この宮廷でしかお目にかかれない逸品となれば、晩餐会の主役として申し分ないでしょう」

「素晴らしい! アントレくん、楽しみにしておるよ」


 ガトーは上機嫌でアントレの肩を叩くと、去って行った。

 アントレはさっそく食材の調達を部下に依頼する。

 実際のところ、特殊食材は父であるロティールが宮廷に持ち込んでくるので、その入手経路はよくわかっていなかった。しかし冒険者ならばその情報ぐらい持っているだろう。そして高額の報酬さえ出せばすぐにでも食材は集まるはずだ。

 アントレは楽観し、口元に笑みを浮かべた。


 ……アントレは何もわかっていなかった。

 安易に決めた食材の入手難易度が恐ろしく高いことを。

 チャリオットベアを易々と狩れるハンターなんてグリエ以外に見当たらないことを。


 この後、冒険者ギルドが総出で狩りに向かい、多くの死傷者を出すことになるのだが、アントレは自分の出した依頼がそんな大変なことになるなど、考えもしていなかった。



  ◇ ◇ ◇



 アントレが勝手に悦に浸っている頃、キャセロール王国の宮廷に入ったグリエは数々の料理人たちの中であっという間に頭角を現し、副料理長スー・シェフの座を獲得していた。

 もちろん実力的には料理長シェフの力量があるのだが、嫉妬によってグラッセ王国の居場所を失った過去があることから、フラン女王のはからいで当代の調理長に守られるポジションとなったのである。

 そんなグリエは本来の実力を発揮できるように自由を与えられ、この日も高級食材の狩りに精を出していた。


「なんて凄まじい剣技……いや、包丁さばきか!」


 グリエが巨大な亀の魔獣を切り倒すや、女王フランの騎士たちが感嘆の声を上げた。

 今回は凶悪な魔獣の討伐を兼ねて、彼らは森へ食材の調達にやってきている。

 グリエがあまりにもあっさりと魔獣を倒したので、騎士たちはあっけに取られているようだった。


「グリエ様のような強者が加われば、我が騎士団は安泰でございますな……」

「騎士団に入る気はねぇぜ。俺はあくまで料理人。包丁を向けるのは食材に対してだけだ」


 騎士団なんかに入るのはまっぴらごめんだ、とグリエは思う。そんな事をすれば他国との戦争に行かされるだろうし、食材以外も斬らねばならなくなる。

 あくまで料理人という立場を変えたくはなかった。


 すると、馬上でひとりの女性が大きくうなずいた。

 フラン……。グリエの雇い主である女王だ。


「そうでございますわ、騎士団長。グリエさんには我が王宮の食を司っていただく重要な役目があるのです」

「ううむ……。陛下のお言葉なら諦めざるをえません。……しかし残念無念。グリエ様ならさぞや多くの武功を上げられるに違いありませんのに……」


 騎士団長は心底残念そうにため息をついた。


「しかし、女王さまが狩りについてくるのは危険じゃないのか?」

「先日のチャリオットベアの件は想定外でしたの。ちゃんと安全には気を配っていましてよ。……それにグリエさんの狩りにはわたくしのギフトが必要と思いまして」


 フランは微笑み、空中に手を伸ばす。

 すると彼女の手もとに光の輪が広がり、何もないところから狩りの道具が現れた。


「アイテムボックスのギフト……。初めて見た時には驚いたよ。……さすがは王族だな」


 アイテムボックスとは別の空間になんでも格納できる魔法のことだ。

 存在自体は噂に聞いたことがあったが、本物を目の当たりにしてグリエは驚いた。

 先日この森で倒したチャリオットベアの肉も凄まじい量だったというのに、フランは簡単に収納して見せたのだ。

 なんでもアイテムボックスの内部は時間が止まっているらしく、食材が腐る心配もないらしい。


 その時、フラン嬢があっと声を上げた。


「もしかしてあの木の根元に生えているキノコ、常夜茸ではありませんの!? あの高級食材がこんな身近に!!」

「おっと、触れちゃダメだ。それは常夜モドキ。そっくりに見えるが、胞子に寄生されると体中がキノコだらけになる恐ろしい化け物だぜ」

「本当ですの!? 常夜茸そのものにしか見えませんのに……」

「ああ。俺の目には見えない・・・・んだよ。食材なら見えるはずの切るべき光の線・・・・・・・が」


 グリエのギフトである『道標の魔眼』は、どういう原理か分からないが、獲物を食材に変えるための手順や切るべき場所が光って見える。

 しかし目の前のキノコにはその光の線が全く見えず、食用に値しないことがハッキリと分かった。


「本物の常夜茸なら、もうすぐ見られるぜ」

「どういうことですの?」


 不思議がるフランを横目に、グリエは森の奥を指さした。

 するとメキメキと木々を押し倒す音と共に、森がざわめきだす。

 警戒を強める騎士たちの前に現れたのは、巨大なリクガメの化け物だった。


「タイタントータス!? しかし先ほど、グリエ様が討伐したはずでは……」


 今回の討伐依頼の対象であるタイタントータスは確かにグリエによって倒された。

 しかし近隣の村を襲った痕跡から考えると、さっきの亀はやけに小さかった。

 森をかき分けて出てきたリクガメの化け物は高さだけで15メートルはあるだろうか。

 背中の甲羅にはびっしりと植物が覆い茂り、そこかしこにキノコが群生していた。

 こいつが討伐対象の本命に違いない、とグリエは確信する。


「さっきの亀はおそらくこいつの子供だろう。子亀も旨いが、親亀は本当に旨いダシがとれるんだ。しかも常夜茸まで背負ってて、一緒に料理してくれって言ってるみたいだろ?」

「そんな悠長におっしゃってる場合では!!」


 悲鳴をあげる騎士たち。そんな彼らの横からグリエは飛び出していった。

 手にしている道具はフランに出してもらった鋭い鉄のワイヤーだ。断面を刃状にしてあるので、相手の重さや突進力を利用してスパッと一刀両断できる。

 グリエは地形をうまく利用して即座に罠を作り、最後の仕上げに巨大ガメを見る。

 甲羅から露出した足に見える光る線。あれがこのカメをさばく第一手……獲物にとっての弱点のようなものである。

 グリエはワイヤーを操り、光る線に的確に合わせた。


「ぐぎゃぁぁぁっ!!」

 激しい断末魔と共に、タイタントータスの四肢が切断される。

 こうなればもう、まな板の上に乗ったも同然。

 グリエは悠々とさばき、後に残るのは大量の食材の山だけだった。



 その夜の晩餐会は王宮中が宴会のようだった。

 フラン女王のはからいで城の中庭が一般に開放され、城下町に住む人々がこぞってやってくる。

 ふるまったのはカメ肉のステーキとスープをはじめとするフルコースに、タイタントータスの甲羅の上になっていた数々のフルーツの盛り合わせ。

 あの亀はあちこちに移動しては様々な木の実を甲羅の上で繁殖させる、移動する畑のようなものなのだ。

 この国ではタイタントータスを食材だとは思っていなかったようで、その珍しさも手伝って中庭は大賑わいとなった。


「キャセロール王国……。旨い食材と笑顔に囲まれ、いい国じゃないか」


 食事を楽しむ人々の笑顔を見て、グリエも嬉しそうに笑う。

 彼はこの新天地を前にして、故郷では得られなかった充実感を噛みしめるのだった――。



  ◇ ◇ ◇



「……くそ、こんなはずではないのだ。こんなはずでは……」


 グラッセ王国の宮廷では、料理長となったアントレが焦っていた。

 晩餐会のメインディッシュとして選んだチャリオットベアの肉をさばくという、調理前の段階ですでにつまずいていたのだ。

 彼は不安と焦りのあまり、近くにあった大鍋を地面に叩きつける。


 鋼鉄を相手にしているのではと疑うほどに、甲殻が硬すぎて並みの刃物や鈍器では開けない。

 それに、無理に殻を開こうとすれば中の肉がダメになってしまう。一度凄腕の冒険者に依頼して強引に開いてもらったが、肉が石のように固くなって食べられなくなってしまったのだ。

 父であるロティールがどうやってこれを食材に加工していたのか、アントレには不思議でならなかった。


「親父のやろう……。大事なことはちゃんと文書に残しておけよ!!」


 今までロティールは特殊食材の加工や調理を自分専用の厨房でやっており、その秘伝を誰にも教えてこなかった。

 父が遺したレシピ集があるからと高をくくっていたが、注意深く読んでも、肝心の食材のさばき方はどこにも書いてなかった。


 その後に書斎の中で冊子を見つけた時には心躍ったが、中にあったのは疑問符だらけの料理のメモと白紙のページばかり……。どうやら特殊食材を用いた料理に関するもののようだが、どれも手探りのような内容だった。

 白紙のページには所々に茶色くかすれた文字で『食材の調達』『アントレ』『償い』『グリエ』と書いてあるが、歯抜けだらけで意味が分からない。


「大事そうに隠してて、何だよこれは! 親父ぃぃぃっ!!」

 アントレは紙の束を握りしめ、吠えた。



 そんなアントレに恐れを抱き、部下たちは彼から離れて下ごしらえを続ける。

「アントレさん、イラつきすぎだぜ……」

「晩餐会が近いのに、メインディッシュが完成させられないんだ。苛立つのも分かるが、八つ当たりはごめんだよ」


 その時、料理人の一人が思い出したように言った。


「そう言えば普段も、姫の舌を満足させられていないらしいって聞いたぜ。アントレさんが調理長になってから味が落ちたとか言われて、苛立ってるんだよ」

「おい、黙れ。アントレさんに聞こえるぞ」


 その時、アントレが料理人たちのところにやってきた。


「おい、チャリオットベアの肉が無くなったぞ! さっさと持ってこい!」

「も……もう全部使ったんですか!?」

「当然だ。晩餐会前に完璧に仕上げなくては意味がないのだ」


 本当は仕上げるどころか調理にも入れていないのだが、部下の前で正直に言えるはずもなく、アントレは強がっていた。

 しかし仕入れ担当の男は頭を横に振る。


「もうありません……」

「は? あれっぽっちの肉ですべてだと!?」

「あれっぽっちって……。冒険者ギルドが命がけで調達してくれた食材なんですよ? それなのにまだ一品も完成してないだなんて……」


 従順な部下だったはずの仕入れ担当の意外な反論に、アントレは顔色を変えた。


「それはまさか、俺を責めてるのか……?」

「そ……そうですよ! 今回のハントでは僕の兄も大けがをしたんだ! そんな苦労して入手した食材を無駄遣いするなんてっ!」


 確かに冒険者ギルドでたくさんの死傷者が出たとは聞いていたが、今回の依頼はすべて、近隣諸国の王たちが集う晩餐会のため。冒険者がどうなろうとも、アントレにとってはどうでもいいことだった。


「逆らうなら、お前らもグリエと同じように……!」


 仕入れ担当にクビを言い渡そうとした瞬間、扉が開いた。

 現れたのは上司である儀典長ガトーである。彼はいぶかしむようにアントレに視線を送る。


「なにか騒ぎですかな、アントレくん」

「ガトー様……。いえ、なんでもございません。ところでご用件は……?」

「ふむ。……実はテルミドール帝国から『ぜひ晩餐会で使ってほしい』と食材が届きましてな。大陸にとどろく我が美食殿だからこそ、この珍重な果実をゆだねられるとのこと。テルミドール皇帝の依頼となれば、断るわけにもいきますまい」


 そう言ってガトーが持ってきたのは『ユグドラシルの実』だった。

 アントレは調理済みの形でしか見たことはなく、果実の状態を見るのは初めてだ。

 この実は王たちの間では「神の果実」とも呼ばれ、珍重されているという。

 腐りやすく風味も損なわれやすい、扱いの難しい果実だと父であるロティールは言っていた。

 これをデザートにして欲しいという、皇帝からの要望である。


 テルミドール帝国はこの大陸の覇者であり、この宮廷の美食をたいそう気に入ってくれたことから、友好が続いている。

 つまり今回の依頼は国同士の友好を左右するほどの重要な任務なわけだ。


 その重責を前に、アントレは逃げ出したい気持ちに襲われた。

 しかし料理長を任せられている手前、逃げるなんてできる訳がない。

 アントレは承諾するしかできなかった。



  ◇ ◇ ◇



 アントレが重責に押しつぶされそうになっていた頃、グリエは魔獣の森でフランと二人きりだった。

 一日の狩りを終えたグリエが樹上に建てられた小屋に戻ると、フランが「お帰りなさいませ」とニッコリ笑って出迎える。

 その彼女を前に、グリエは呆れるばかりだった。


「……女王さまよぉ。この小屋が安全だと言え、危険な魔獣の森について来るなんて、どうかしてるぜ……」

「グリエさんがいらっしゃるのですから、それだけで護衛は十分ですわ。……それにわたくしのアイテムボックスは役に立ちましてよ」

「……確かに獲物をすぐに貯蔵できるのは助かるよ。新鮮さが維持できるのはマジでありがたい」

「でしょう? グリエさんの役に立ちたい一心ですの!」


 その屈託のない微笑みを前に、グリエは大きくため息をついた。


「はぁ……。そのよだれさえなければ信じるんだがな。……とれたて新鮮なヤツを食べたいだけだろ?」

「そ……そんなハシタナイ理由ではありませんわ!」


 そう言いながらも、彼女はすでにアイテムボックスから一つの果実を取り出している。

 それは以前からこの森の奥地で成熟を見守っていた「ユグドラシルの実」だった。

 本来ならテルミドール帝国領にしか生らない貴重な果実だが、魔獣が種を運んできたのか、この魔獣の森の奥地で生っているのをグリエが見つけたのだ。そろそろ熟しそうだとフランに伝えたところ、そわそわしながらついて来たのである。


「ユグドラシルの実はタルトがピッタリだ。ちょっと待ってな」


 グリエはユグドラシルの実を手に取ると、皮をむき始めた。

 この実の皮のむき方はロティールさんにも教えたが、ついに習得できなかったとグリエは思い出す。

 とにかくこれは皮をむく手順が複雑なのだ。パズルのように入り組んだ実の房を順番通りに取り外していかなければ、実の全体が一瞬で渋みと臭みに包まれてしまう。さらに個体差も激しく、手順が一定ではないことも加工を難しくしている原因だった。

 とはいえグリエには食材を正しくさばける「道標の魔眼」が備わっており、何の苦労もなく皮をむき終わる。


「素晴らしいですわ! まるで果実が虹のように輝いて見えます!」

 フランはもうよだれを隠す気もないようで、うっとりとしている。


「この技能を他の奴らも使えると、もっとたくさんの奴らが上手い飯にありつけるんだがな……」

 グリエは魔眼のお陰で労することもないのだが、そのぶん他者に技能を伝えられないのも悩みの一つである。

 ただ、その悩みは今は忘れて調理を始めよう、とグリエは腕まくりするのだった。



 ……しばらくの時がたち、甘い香りが部屋の中に立ち込めはじめた。

 グリエはユグドラシルの果汁を練り込んだタルト生地にクリームと豊潤な果実をふんだんに盛り付ける。フランはそれを見るだけでソワソワが止まらなくなっていた。


「ユグドラシルのタルトだ。さぁ召し上がれ、女王さま」

「い……いただきますわ」


 フランは緊張の面持ちでスプーンを口に運ぶ。

 そして次の瞬間、彼女の表情は幸福に包まれたようにうっとりとするのだった。


「あんたは本当にうまそうに食ってくれるな」

「美味しい……その言葉だけでは魅力を語り尽くせませんわ。自分の語彙力の乏しさが悔しくなります。……このタルトの素晴らしさは各国の王も認めるものですわ」

「ありがたいけど褒めすぎだ。……俺はただ食材に耳を傾けて調理してるだけで……」

「褒めすぎなんてとんでもない! グリエさんの故郷であるグラッセ王国が他国から一目置かれているのも、このタルトをはじめとする素晴らしい美食の数々の存在があってこそですわ!」


 フランの言葉によると、グラッセ王国は美食の殿堂として各国の貴族の羨望の的になっていると言う。そのおかげでまとまる交渉も数知れず、美食外交とまで言われるほどらしい。

 宮廷の料理長は生きる伝説として、周辺国に名が知れ渡っていたとのことだ。


「その伝説の料理人がグリエさんだったなんて……。この出会いに感謝しかありません」


 一気にまくしたてるフランを前にして、グリエは自分の料理がそこまで高く評価されていたことに驚きを隠せない。

 それと同時に、ちくりと胸が痛んだ。

 今までグリエはたくさんの美食を作り上げ、新たなレシピを生み出してきた。

 しかし自分の存在が全く広まっていないのはなぜなのか、不思議に思わざるを得なかった。


(ロティールさん。……やっぱり俺を利用してただけなのか?)


 先代料理長のロティールに狩りと料理を仕込まれてから数年。グリエはめきめきと上達し、ここ数年はほとんどの料理をロティールから任せられるほどになっていた。

 スラム生まれだから儀典長に疎まれていることは知っていたし、だからこそ奥の厨房でひとりで料理していたのは先代の心遣いだと思い込んでいた。

 しかしフランの話では料理長ロティールがすべてを作り上げたことになっていたらしく、グリエの存在は誰にも知られていなかった。


 育ての親だから疑いたくはないけれど、疑ってしまう。

 ――そんな悶々とした疑問に、グリエは胸が詰まる想いだった。



「……そう言えばこちらの絵、グリエさんが描かれたのでしょうか?」


 グリエが思い悩んでいた時、フランが壁に飾られている絵に視線を移した。

 その絵は白い紙に茶色い線で描かれており、描かれているものは大きな顔や竜、花など他愛のない物ばかりだ。


「俺が小さい頃、ロティールさんと俺が戯れに描いた落書きさ」

「とても素朴で可愛らしい絵。……それに不思議な画材ですわ。インクでも絵具でもなく」

「あぶり出しさ」

「あぶり……? すみません、その画材は存じ上げなくて」

「画材って言うよりも技法だな。この絵は柑橘類の汁を使ったんだが、ユグドラシルの汁でも似たようなことが出来たはず……」


 そう言いながら、グリエは実演することにした。

 白い紙に透明な果汁で絵を描くが、透明なので見えない。

 しかしそれを火の熱で炙ると、汁を付けたところが焦げ、茶色い線になって浮かび上がった。


「まぁ! 実験のようで面白いですわっ。……それに、この絵を描いた当時のお二人が目に浮かぶようです」


 そう言ってフランは壁にピンで留められている絵を眺め見る。

 グリエはそう言われて当時のことを思い出した。

 まだ幼くて狩りに不慣れだった頃のこと、魔獣にやられた怪我で何日か寝込むことになった。あの時はロティールも「無理させた」と謝ってくれて、グリエが回復するまで付き添ってくれたのだ。

 そしてグリエが暇を持て余していた時、ロティールが戯れに教えてくれた遊びが、このあぶり出しだったのだ。

 ロティールは本当の父親のように接してくれて、それが何よりも嬉しかったとグリエは思い出す。


「確かにあの人は、いろんなものをくれた。……本当に、たくさん。…………なのに、なぜ」


 なぜ名誉を独り占めしていたのか。

 なぜ俺のことを宮廷に十分に説明してくれなかったのか。

 ……そんな疑問が浮かび、グリエは言葉を続けられずに押し黙った。


 グリエの表情が曇った理由を悟ったフランは、真面目な表情になって彼に向き直った。


「ロティールさんのことが気になりますのね?」

「……まあ、そうだな」

「では同行されますか?」


「どこに?」というグリエの問いに、フランは「あなたの故郷へ」と答えた。


「……実は周辺国の王が招かれる晩餐会にわたくしも招待されていますの。わたくしの従者として同行されませんか? グラッセ王国の宮廷に戻ればロティールさんのことが何か分かるかもしれません。何かお悩みのご様子ですし、吹っ切るきっかけになるかもしれませんわ」


 思わぬ帰郷の提案にグリエは驚いたが、確かに遠い地で悶々とするより得る物があるかもしれない。

 グリエはフランの提案を受け入れることにした。


 各国の王が集う晩餐会。

 その波乱を予感しつつ、グリエは客人として古巣の宮廷へ戻るのであった――。



  ◇ ◇ ◇



 グラッセ王国の晩餐会には周辺国家の王たちが一堂に会していた。

 大きなテーブルで皆が楽しげに交流を持つ中に、キャセロール王国の女王フランもいる。

 そしてその場のすべての者が特に注意を払っていたのは中央に座る男。

 彼はこの大陸の覇権を握るテルミドール帝国の皇帝であり、主催者であるグラッセ国王よりも威厳を放っていた。


「グラッセ王よ。今宵の晩餐会をずっと心待ちにしておったぞ。我が帝国は無敵なれど、美食に限ってはこの国に一歩およばぬでのう」

「ありがたいお言葉です、皇帝陛下。我が宮廷に伝わる料理は世界一と自負しておりますゆえ、そのように仰っていただけて光栄に存じます」


 グリエをめぐる騒動を知らされていないグラッセ王は満面の笑みで答える。

 そして料理長のアントレを呼び出し、皇帝に紹介した。


「こちらはかの料理長ロティールの息子で、副料理長を務めておりましたアントレです。料理長を継ぎ、今後の宮廷を支えてくれましょう」

「こ……皇帝陛下にご挨拶できたこと、心より嬉しく思います。亡き父に代わり、腕を振るわせていただきます。ぜ……ぜひ今宵の宴をお楽しみ頂ければ……幸いです」

「ふむ、緊張するでない。貴殿の料理を見せてみるがよい」

「は……はい……」


 深々と礼をするアントレ。その表情は精彩を欠いていたのだが、期待に胸膨らむ皇帝にとっては気にすることでもない。

 そして美しい伴奏の音色が広がる中、晩餐会は始まるのだった。



  ◇ ◇ ◇



 談笑の中で始まった晩餐会は王たちの予想外に、そしてアントレの想像通りに暗雲に包まれていった。

 オードブルとスープまでは各国の王も期待に胸を膨らませていたが、メインディッシュの一皿目となる魚料理ポワソンを口に入れ、ついにテルミドール皇帝が首を傾げた。


「ふむ……。確かに美味ではあるが、少々物足りなくもある」


 その反応に、各国の王も同意する。

 グラッセ王国の宮廷料理と言ったら珍重な魔獣を美味に調理する驚きが売り物であったのだが、目の前に置かれた魚はごくありふれた食材だ。

 もちろんアントレが宮廷料理人として力を尽くした一品ではあるのだが、素材そのものの平凡さを覆せるほどではなかった。


 そして王たちの落胆が決定的となったのは晩餐会の主役……肉料理ヴィアンドが出された時である。

 それは何の変哲もない豚肉のソテー。

 確かに美味ではあるが、かのグラッセ王国の晩餐会の主役としては力不足と言わざるを得なかった。

 皇帝はついに呆れてため息をつく。


「これがグラッセ王国の宮廷料理か? 町の食堂と何ら変わりがない。ロティール亡きいま、ここまで落ちるか……」


 慌てたのはグラッセ王だ。


「こ……皇帝陛下、どうかお待ちを……。……おい儀典長、これはどうなっている!? チャリオットベアを出す予定ではなかったか!?」

「は、はい、その通りでございます。確かに食材は搬入されておりましたはず……。至急、料理長を呼びますゆえ、少々お待ちいただけますでしょうか」



 そうして呼び出されたアントレは、すでに顔面蒼白になっていた。もはや見るだけで哀れになるほどだ。


「あの、その。……チャリオットベアを要求したにもかかわらず、冒険者どもが無能なばかりに調達できず……」

「む? 王である我に嘘を申すか? 食材は調達済みだと報告にあったが?」

「い……言い間違えました。確かに入手はできましたが、冒険者による切り分けがずさんで、肉そのものがダメになっておりまして……」


 本当はアントレ自身がダメにしたのだが、彼はとっさに嘘を塗り重ねた。

 その嘘を見破る者はいなかったものの、皇帝にとって真実などどうでもいいことだった。

 皇帝は呆れ果てたように首を振る。


「……もうよい。ユグドラシルの実のデザートでもいただいて、お開きにしようではないか」



 しかしアントレは黙って動かず、震えるばかり。

 ガトー儀典長が催促すると、ようやくアントレはガトーに耳打ちした。


「はぁ!? 腐らせた!?」


 思わず口に出してしまったガトーは、ハッと自分の口をふさぐ。

 しかしもう遅い。

 幻とも言える高級食材を無駄にした事実は即座に王たちに知れ渡り、皇帝は不機嫌に立ち上がった。


「グラッセ王よ。この国で美食の博覧会を開くという話、取り消させていただく」

「そ……それは話が違います、皇帝陛下」

「まともな料理人がいない国には任せられぬわ!!」


 皇帝の一喝に場が静まり返った。

 テルミドール帝国の怒りを買った国に未来はない。その事実を知っているからこそ、どの王も荒ぶる皇帝に口をはさめないのだ。

 賑やかだった晩餐会は一触即発の戦場の空気に包まれてしまった。



 ……その時、一人の女性が立ち上がった。

 フランである。


「皇帝陛下、そのお心をお察しいたしますわ。楽しみになさっていた晩餐会が散々な出来でしたもの。……その上で差し出がましいのですが、一つご提案がございますの」

「ほう、フラン王よ。申してみよ」

「わたくしがアイテムボックスで食材を運んでいるのはご存知の通り。そして一人の優秀な料理人も同行しておりますわ。……せっかくですから、晩餐会の仕切り直しをするのはいかがでしょう? 本来ならこんな失礼な提案は致しませんが、皆さまの不満足な表情を見るに、居てもたってもいられなくなりましたの」


 そしてフランは空中に手を伸ばすと、光り輝く輪の中から一つの実が取り出された。

 皇帝はそれを見て鼻息を荒くする。


「ユグドラシルの実ではないか! しかも熟して旨そうな……!」

「お、お待ちください皇帝陛下。我が宮廷において、そんな勝手をされるのは困ります」

「面白いではないか、グラッセ王。それに美食家で名高いフラン王のご提案だ。楽しませてくれるに違いない」


 もはや皇帝は怒りを治め、期待に胸を膨らませていた。

 グラッセ王もこれ以上は口をはさめないと観念し、フランの提案を呑み込む。


 そしてこの場にグリエが呼び出されたのであった。



  ◇ ◇ ◇



「お……お前はグリエ!? なぜここに……」


 グリエが姿を現すや、アントレとガトー儀典長は呆気にとられる。

 しかしグリエは彼らなど眼中になく、落胆している王たちに目を向けた。

 フランの使いの者から状況は聞いていたが、確かに晩餐会というより葬式という雰囲気である。


「久々に古巣に帰ってみれば、皆さんメインディッシュをずいぶんとお残しで。……これは腕によりをかけなきゃな」


 グリエはフランに目くばせし、アイテムボックスから数々の食材を取り出してもらう。海王魚、常夜茸、タイタントータス……どれも一流の品々だ。

 その財宝のような輝きを前に、消沈していた王たちの目に活力が舞い戻る。

 中でも王たちの目を引いたのは巨大な塊……硬い鎧に包まれたチャリオットベアの腕肉だった。


「こ……こんな大物は見たことがない! いったいどれだけの手勢で狩ったのか……」

「これはグリエさんがお一人で狩られたものですのよ。その際にわたくしも危機から救っていただけましたの」

「なんともはや、強さまでも一流ときたか……!」


 王たちが感嘆の声を上げる中、グリエは調理を開始した。

 その手際の良さたるや、まさに神業である。

 あっという間にチャリオットベアをさばき、見事なステーキを作り上げていく。


「あの鋼の甲殻が軽々と切り裂かれていく!? どんな芸当なのだ」

「驚くべきはその肉汁ですぞ。甲殻に閉じ込められて、なんとジューシーな!」


 グリエはこんなこともあろうかと、あらかじめ下ごしらえを終わらせていた。

 肉の内部まで味付けがしみわたっており、甲殻で閉じ込めたまま火を入れることで肉汁を完全に封じ込められる。

 肉を切り分けた瞬間に香りが噴出し、王たちを鼻腔から攻めたてた。


「さあ、召し上がれ。……常夜茸のソースがよく似合うぜ」


 グリエによって皿が運ばれるや王たちの視線はステーキに釘付けとなり、気品など忘れたようにむさぼり始める。


「なんという柔らかさだ! そしてこの味ときたら!!」

「ただ美味しいだけじゃない! 舌の上で踊るような食感、脳天を震わすようなズシリとした濃厚な味わい……。これまで食べたチャリオットベアをゆうに超える、至高の一品よ!!」


 一心不乱にがっつく王たちの様子をグリエは満足げに見つめる。

 自分の料理を美味そうに食ってくれる。それも、数多くの美食を平らげてきたであろう王たちが、だ。それは料理人として何よりの賛辞である。

 そしてテルミドールの皇帝は至福の表情でグリエに視線を投げかけた。


「まるで伝説の料理長ロティールの再来……。いや、それ以上に素晴らしい一皿であった。……フラン王、キャセロール王国は素晴らしい料理人をお持ちですな」


 実際のところ今までもロティールの代わりに料理を作り続けてきたのはグリエなのだが、その事実は表ざたになっていない。それにグリエ自身、ここでそんな小さなことを訂正するほど器の小さな人間ではなかった。


「楽しい夕食にできたようでなによりだ」


 グリエは満足し、仕上げとしてデザートを皿に盛り付け始める。

 これこそテルミドール皇帝が待ち望んでいるユグドラシルの実のタルトだ。

 アントレが腐らせた話を聞いて呆れ果てたものの、たまたまグリエが果実を入手できていたので皇帝たちを落胆させずに済む。

 ……しかしそんなグリエの前に立ちふさがったのは、なんとアントレだった。


「こ……こんなはずがない! お前はただの雑用のはず。ユグドラシルの実がさばけるわけがないだろう!? そのタルトもどうせ腐って……」

「信じられなければ食ってみろ」


 グリエは切り分けた残りのタルトを持ち上げ、アントレの目の前に突き出した。

 アントレは食うものかと視線をそらすが、その甘くかぐわしい香りには逆らえない。そして気が付けば、すでにタルトをほおばっていた。


「……嘘だ。嘘だ嘘だ、嘘だ! ……なぜ、なぜお前にこの味が出せる?」

「俺が調理法を編み出したんだ。できて当然さ」


 愕然と立ち尽くすアントレを尻目に、グリエは王たちの前にデザートを運ぶ。

 皇帝は実に満足そうに笑い、グリエをほめたたえるのだった。



  ◇ ◇ ◇



 最後の品を出し終わったグリエを、アントレは睨み続けていた。

 不服そうに舌打ちすると、アントレは懐から一束の冊子を取り出し、グリエに見せつけた。


「お前が調理方法を編み出した? 嘘を言うな! じゃあこのレシピは何だというんだ!?」

「レシピ? なんのことだ?」


 グリエが冊子に目を落とすと、そこにはロティールの文字がつづられている。


「俺が教えた処理方法にレシピか。……ロティールさん、書き残してたのか」

「は? お前が……親父に教えた、だと?」

「ああ。……まあ、ロティールさんはうまく作れないままだったがな……」


 グリエが編み出した料理の中には魔獣や希少な果実などの特殊食材がよく使われている。

 ロティールはその調理方法の難しさ故に習得できず悔しがっていたが、それでも頑張っていたことは、この冊子を見たグリエには想像できた。


 育ての親を懐かしむ気持ちでロティールのメモをめくっていくと、途中に数枚、全く白紙のページが混じっていることにグリエは気が付く。


「これは……」

「ああ、白紙だ。あの親父ももうろくしてたのか、途中をすっ飛ばしてやがる」

「いや、これはあぶり出しだ」


 全くの白紙に見えるが、光に照らすとかすかに模様のようなものが見える。

 グリエは幼少の頃にロティールに教えられた『あぶり出し』のことを思い出していた。


「お、おい、燃やす気か!?」

「燃やしはしないさ。こうやってあぶれば……」

「やめろ!!」


 グリエがふいに冊子をろうそくの火に近づけたので、アントレは大声をあげて冊子を取り返す。

 しかし冊子に目を落としたアントレは目を見開いた。


「文字……か?」

「透明な汁で絵とかを描いたあと、火であぶって絵を浮き出させるお遊びさ。ロティールさんが昔、教えてくれたんだ」


 所々に茶色い単語が書かれているだけの白紙だとアントレは思い込んでいたが、熱せられた場所には明らかに文字が浮かび上がっている。

 父であるロティールが残した言葉だと察知したアントレは、慌てて他の場所も火の熱に当て始めた。


 アントレの表情は不安と期待が混ざったような複雑な様子。

 しかし浮かび上がった文字を目で追っていく中で、横にいるグリエにもわかるほど、怒りの形相に変わっていった。


「こんな……こんなことを認められるか!!」


 アントレは冊子をグシャグシャに丸めると、燃え盛る暖炉に放り込もうと投げた。

「やめろ!」とグリエが駆け寄ろうとしたがすでに時遅し。吸い込まれるように冊子は火の中に落ちていく。


 ……しかし火に飲まれる直前、丸められた冊子は女性の手に受け止められた。

 フランである。

 グリエたちを気にかけていたフランが、先ほどから近くで様子をうかがっていたのだった。


「ただ事ではないご様子ですわね。……これはそんなに重要なのかしら」


 フランは冊子を広げ、紙面に目を滑らせる。

 そして何か腑に落ちた様子になると、その冊子をグリエに差し出した。

 アントレはその様子に顔をひきつらせたが、隣国の女王を相手に邪魔も口出しも出来るはずがない。何か言いたげな雰囲気を押しとどめながら、目を閉じて俯いた。


「これはグリエさんへのお手紙かしら? それともロティールさんの懺悔?」

「ロティールさんの?」

「……少なくともグリエさんだけに伝えたいからこそ、こんな手の込んだ仕掛けを施したのでしょうね」


 グリエはフランから冊子を受け取ると、皺だらけになった紙面を広げる。

 焦げ色に浮かび上がった文字を目で追う中で、それが確かに手紙なのだと分かった。

 グリエは神妙な気持ちで文面に目を走らせる。



『食材の調達のために久しぶりに魔獣の森の狩場に行った時、小屋でお前と一緒に描いた絵を目にしたよ。

あの頃はお前を本当の子供のように思っていた。そう、アントレとグリエのどちらも本当の息子だと思っていた。

……なのに、お前の才能に目がくらみ、利用してばかりになっていた。


もうずいぶん前から、本当の料理長はお前なんだ、グリエ。

その名誉をお前から奪い続けた俺は本当に愚かだった。お前を他の料理人から遠ざけたのは、お前を独り占めしたかっただけなんだ。

俺が間違っていた。


次に開かれる晩餐会を、お前の初披露の舞台にしたい。

そして俺が狩った食材で新たなレシピを生み出してもらうのだ。そうやって俺の想いをお前につなげたい。

全ての名誉をお前に返し、償いとさせてくれ。

グリエ、お前が最高の料理人だと、世界に名をとどろかせてくれ』



 ロティールは遠い国の山中で、遺体で見つかったという。

 死因は魔獣による致命傷。

 彼の荷の中に入っていたという食材は、グリエも見たことのないような珍しいものだった。

 まさかその食材をグリエに渡したかったとは、当時のグリエには思いもよらなかった。

 彼が狩りに出かけなければ死ぬことはなかっただろうが、今回だけは「自分が狩った獲物をグリエに渡したい」という想いが災いしたわけだ。


「ロティールさん……。死んだらどうしようもないだろ……」


 ロティールはグリエが疑っていた通り、グリエを利用していたわけだ。

 しかしグリエにとっては意外なほどショックではなかった。一人で想像を膨らましている方がよっぽど落ち込んだぐらいだ。

 こうして洗いざらいを告白されてみれば、「ああ、そうか」と受け入れるだけのことで、むしろ今でもロティールが自分を大切にしてくれていたと分かり、嬉しかった。


 グリエは目をつむり、今は亡きロティールに思いをはせる。

 図らずも手紙の通りに今回の晩餐会がグリエのお披露目の場になったわけだが、叶うならばこの場にロティールがいて欲しかった。

 そう思うと同時に、グリエの頬にひとすじの涙が流れるのだった――。



 その時、ふいにグリエの手元から冊子が取り上げられた。

 彼が振り返るとそこにはガトー儀典長がおり、ロティールからの手紙を神妙な面持ちで眺めている。


「なんだよ。勝手に取り上げるのがお偉いさんのやり方か?」


 眉間にしわを寄せるグリエだが、ガトーはニヤリと笑って大げさにグリエの肩を叩いた。


「グリエくん。君がグラッセ王国の真の調理長だったのだな。誠に素晴らしい品であった!」

「な、なんだよ。気持ちわりぃ……」

「我が宮廷はロティール氏の遺言通り、君を迎え入れましょう。ぜひ料理長として腕を振るっていただきたい」


 その言葉に食って掛かったのはアントレだ。


「ガトーさま!? 料理長は俺です。なんでこんなクビにした奴なんかを……」

「アントレくん、まだいたのかね。君の料理にはがっかりだ。さぁ、この場からさっさと去りたまえ」


 グリエとアントレへの態度をたやすく一変させるガトー。

 その様子を目の当たりにしてグリエはうんざりした。


「……こんな奴の下で働くなんてまっぴらだぜ。俺はこの宮廷になんざ戻らねぇ」

「何?」

「俺は今、キャセロール王国で雇われている身。それにあんたは俺を追放しただろう? 王都では俺は名指しで就職拒否されたし、そこまでされちゃあ戻りたくねぇよ」


 宮廷から追い出された後も宮廷からの知らせで再就職の道は絶たれ、グリエは仕方なく魔獣の森でサバイバル生活をやることになったわけだ。

 宮廷からの指示に、この儀典長が関わっていないわけがない。

 しかし儀典長はとぼけたままだ。


「就職拒否? 何かの手違いでしょう。それに先代料理長の遺言ですぞ?」

「ふん。解雇通知にサインまでした口で、今度は手違いと言い張るわけだ」


 その時グリエたちの話にフランが加わった。


「グリエさんはいま、我がキャセロール王国の人間。勝手に他国から人を引き抜くのがグラッセ王国のやり方と思っていいのかしら? それにあぶり出し……でしたか? 故人のお気持ちを偲ぶのはいいとして、隠し文字の手紙を公式の文書として扱うのはいかがなものかと」


 フランの言葉は威圧感に満ちていた。

 女王の言葉には逆らい様がなかったのだろう。ガトーは「ぐぬ……」と声を押し殺し、黙るのだった。


「儀典長さんよ。もう用がないなら退いてくれ。皆さんにお茶を出したいんだ」


 グリエは優雅にお茶を準備すると、儀典長を尻目に歩き出した。

 もうグリエを邪魔する者はいない。

 彼は王たちの元へ悠然と向かっていくのだった――。



  ◇ ◇ ◇



 波乱の晩餐会が終わり、ガトー儀典長はこの責任を負う形で辞任させられることになった。その後の彼の行方を知る者はいない。

 アントレは宮廷に残ることが出来たが、グリエのような美食を再現することはついぞ叶わず、肩身の狭い思いをすることになる。


 そして、グリエの周囲は大きく動き出すことになった。

 まず美食の博覧会の開催権がグラッセ王国からキャセロール王国に移ったこと。

 もちろんそれはグリエの存在があったからこそだ。


 そしてグリエを気に入った皇帝の計らいにより、帝国領を含めた大陸中の自由な探索が許されることになった。

 数々の希少な食材の宝庫を前にしてグリエは大いに奮起する。



『最高の料理人だと、世界に名をとどろかせてくれ』


 ロティールの手紙の一文を胸に、後に歴史に名を残す大料理人の冒険譚は幕を上げるのだった――。



  ――終――



 = = = = =


【後書き】

お読みいただき、誠にありがとうございました!

まだまだグリエの活躍の物語は続きますが、短編としてはここで一区切りとなります。


連載版を開始しましたので、ご興味あればご一読下さい!


『【連載版】戦う料理人グリエの成り上がり ~いわれなき罪で追放された料理人、隣国の女王に見初められて名を上げる。特殊食材の調達も調理もお任せあれ。戻って欲しくても、もう遅い~』

https://kakuyomu.jp/works/16817330653867795523

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短編:戦う料理人グリエの成り上がり~「先代が亡くなってから味が落ちた」と追放された料理長。いや、以前から真のシェフは俺ですが? 特殊食材の調達も処理もお任せあれ。隣国の女王に見初められ、名を上げる 宮城こはく @TakehitoMiyagi

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