魔女の屋敷に住むブラウニーの話 3
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朝、日が昇るよりも少し早く、少女は目を覚ます。身なりを整え、まず向かうのは調理場である。かまどの妖精に声をかけて炎を起こし、湯を沸かす間に茶葉の用意をする。
魔女がいつも目覚めに飲むのは、すっきりとしたハーブティ。この館の庭で育てたハーブを使っている。魔女はいつもそれだけでいいと言うのだが、魔術師といえど彼女も人間である。少しは食べねばならないと、お節介のビスケットを数枚添えて、少女は魔女の寝室へと向かう。
少女が部屋を訪れると、既に魔女の着替えは済んでいた。豪奢な黒のドレスに赤い口紅。彼女のドレスを仕立てた妖精は髪結いも生業としていた。少女の手に乗るほどの体躯しかない彼らだがその腕は見事なもので、数人がかりで魔女の髪をちょうど結い終わるところだった。
小さな机に朝食代わりの茶のセットを置くと、魔女はいつものように微笑んで感謝の意を述べる。その笑顔を見るたびに、少女はどこか安心するのだった。
妖精郷の魔女の館は広かったが、住んでいる人間は魔女ひとりだ。ただ、館の中ががらんとしているわけでもまたない。立ち代わり入れ替わりで、妖精たちが彼女を訪ねてくるからだ。
妖精郷の魔女、と彼女を呼び始めたのが、人であったのか妖精であったのか。それは今や分からなくなっていたが、その呼称は正しかった。
妖精郷の魔女は、棲家のなくなった妖精たちが最後まで生きられる場所をと、この庭と館を守り続けていたらしい。
「お前、庭の手入れを手伝う気はあるかい?」
そう声をかけられたのは、少女が彼女に拾われて程なくしてのことだった。
少女は館に来るより前のことを覚えていなかった。ただ漠然とした喪失感だけを抱えて、気がつけばこの館の前に立っていた。
そんな少女を、妖精郷の魔女は何を聞くこともなく迎え入れた。
少女のような妖精を妖精郷の魔女が迎え入れるのは、初めてではないらしい。ただ、自分が「何」の妖精なのかまで忘れているものは初めてだったようで、少女にできることはないか、と考えていたらしい。
本当なら、少女がこの館で働く必要はなかったはずだ。魔女は身の回りのことを自分で行えていたし、手が足りなくとも自分よりも長く、ここに暮らしている妖精たちがいる。魔女の暮らしぶりに、不都合はないようだったから。
それでも、魔女は少女へここで「生きる術(すべ)」を教え込んだ。
ブラウニーという種が何をする妖精であるのか、けれど種族に縛られず、やりたいと思うことは何でも言うようにと、細やかに気を配ってくれた。
はじめこそ気後れした少女だったが、周囲の妖精たちの助力もあって、館での生活に慣れるのにさほど時間はかからなかった。
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