第14話
実は職業として霊能力者を名乗っておきながら、私は結界術が得意ではない。あれはどうにも繊細すぎるのだ。普段結界を持ち要らなければならない場合は紺右衛門に丸投げしていた。しかし破壊するとなれば特段技術は必要ない。重要なのはパワーだ。パワーは裏切らない。
結界を破壊すれば常世とのリンクが失われ、右近、左近たちのいる空間は隔絶される。そうすれば人間ではなく、霊体に近い存在である彼らであっても、そう簡単には戻って来れないはずだ。
ただし紺右衛門は違う。私の髪と紺右衛門の狐玉という2つの縁がある。それさえあれば結界が閉じようと呼び出せるはずだ。しかし、今彼を呼んでしまうと、右近、左近もついてきてしまう可能性があった。それでは意味がない。
「お姉ちゃん、結界の基点を教えて!私が壊す!」
「あなた、体は大丈夫なの?」
あれ、そういえば。傷は激しい動きをしなければ強くは痛まなくなっていた。出血も止まっているようだ。
「私が治癒の術式を使ってみたのだけど、軽く塞いだだけだからね。無茶したら開くわよ」
「お姉ちゃん………ありがとう。わかった」
やっぱりお姉ちゃんはお姉ちゃんだ。色々あったけど私の心配をしてくれる唯一の家族なんだ。
お姉ちゃんは頷くと、電話ボックスを指さした。
「基点は公衆電話機よ。あれを電話ボックス内から取り出せれば、結界は崩れる」
「了解!」
私は電話ボックスに急いだ。
「あ、待って!」
お姉ちゃんの制止する声が聞こえた時にはすでに私は電話ボックス内にいた。ともかくこの電話機を取り出せば良いんでしょ?
がしっと両手で緑色の本体を掴む。
「うおりゃあああ!」
思ったより重いなこれ!だが、なんとか本体が台から少し持ち上がる。その瞬間電撃に似た痛みが腕に走った。
「あだっ!」
思わず手を放してしまう。
「防衛術式よ!あなたまさか知らないの……?」
お姉ちゃんが呆れたように言う。そういえば結界の基点には防御用の術式をかけると長持ちするみたいな事を紺右衛門が言ってたような……?
「結界術は苦手なの!」
しかし、防衛術式か。……まあ、気合でなんとかなるでしょ!私はもう一度本体を掴む。
「せーの、どりゃああああぁあ!」
力を入れて持ち上げると同時に後ろに向かって放り投げる!
直後全身に鋭い痛みが走る。
「あばばばばばびばばばばば!」
電流が流れるような痛みだ!凄く痛い!と、思ったが死ぬほどではないな。電話機は電話ボックスの外に落ちて転がった。
「えぇ!嘘でしょう!?」
お姉ちゃんが驚いている声が聞こえる。
だが、成功だ。電話ボックスから出てポケットの狐玉を取り出す。それを強く握って叫んだ。
「来い!!紺右衛門!」
空間に一筋の裂け目が現れ、辺りが一瞬眩しく輝いた。
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