第12話
紺右衛門は走り去る玉藻に背を向け渡された髪束を懐にしまった。
「…さて、主から宝をいただいてしまった。わしはその価値に見合った仕事をせねばならん」
刀を鞘に納めたまま、居合のような構えをとる。
「同族を斬らねばならぬのは心苦しいが、主の
その様子を見て、右近、左近も構える。
「それはこちらとて同じ。何を考えておるのか知らんが、お前を返せば事を運ぶのが楽になる」
「かかか、若いのう。腕は立つが、貴様らはまだ若造じゃ。わしがただの年寄ではないことを教えてやろう」
次の瞬間、紺右衛門は走る。一瞬で間合いを詰め刀を抜く。
「!!!」ギンッと金属同士がぶつかり合う音。
右近はその一撃をかろうじで自分の刀で受けるが、その直後、右近の刀はぱっきり折れた。いや、紺右衛門の一撃で切断されたのだ。
再び間合いを取り紺右衛門は構えなおす。
「ほう間一髪防いだか」
「……これほどとは。正直驚いた」
右近は折れた刀を投げ捨て、新たな刀を虚空から取り出す。
「左近、本気で行かねば我らが負けるぞ」
「いや、端から勝ち目はないのじゃ」紺右衛門が笑う。
「うるせぇ!」左近が吠える。
右近と左近は左右に分かれ、交互に切り付けてきた。それを紺右衛門は後ろに下がりながらギリギリで捌く。
「右近、挟むぞ!」
「ああ、それは良くないのう」
紺右衛門は距離をとろうとするが、右近、左近のスピードの方が早い。
「破!」
「刺!」
二人の息の合った斬撃と突き!
「なんの!」
紺右衛門は刀の刀身で右近の攻撃を、鞘で左近の攻撃を弾いた。しかし、若干防御が間に合わず、スーツの胸元が斬れて血がにじむ。
「ふむ、逃げ足が取り柄だと思っていたが、大したことはないな。疲れておるのか?」
左近が薄笑いを浮かべながら言う。
「まあ、正直にいうと満身創痍じゃな」
紺右衛門も笑い返す。
「どうやらお前の主は黄泉の国に逃げたようだぞ。追わなくても良いのか?」
右近が電話ボックスの方を見て言う。
「ほう、よそ見する余裕があるようじゃ……な!」
そう言い終わるより前に紺右衛門が再び間合いを詰める。
「!」
右近は紺右衛門の斬撃をギリギリでかわし、反撃する。
「むお!」
それを紺右衛門はかわせない。脇腹を刃がかすめる。
紺右衛門は再び距離をとるが、明らかに劣勢だった。まだ致命傷ではないが、出血が増えるほど動きは鈍る。
右近、左近は確かに若いが、仙狐家次期当主の葛葉を守るよう現当主の命を受けた眷属だ。あらゆる面で一流の腕を持つ強敵だった。一方の紺右衛門は経験と知識、長年の鍛錬による体術はあれど、本来得意とするのは隠密行動。戦闘向きではない。数においても、能力値においても不利な戦いだった。しかし、それでも負けるわけにはいかない。紺右衛門は懐に手を当てる。これがある限り、紺右衛門は絶望しない。
「…さて、ここからが死線というわけじゃ。越えて見せようではないか」
紺右衛門は刀を構えなおした。
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