第11話
常世の影響を受けているこの場所は時間の進みが遅い。そのため傷の痛みや出血は止まっているように見えるが、実際は治っていないし、なんならじわじわと悪化している。余裕はない。
私は紺右衛門に肩を借りて何とか立ち上がり、電話ボックスに向かおうとした。
「ほう、ここが黄泉との境か」
声がして振り向くと、そこには右近、左近が立っていた。
もう追いつかれた。信じられない速さだ。流石は仙狐家の眷属。伊達ではない。
「遅いので、こちらから来てやったぞ」
二人は刀を抜く。
「おやおや。呼ぶ手間が省けたぞ」
そう
私と紺右衛門はゆっくりと後ずさる。予定通りではあるのだが、想定外だ。
当初はお姉ちゃんをここに呼んで、ついてきた右近、左近を常世に結界で封じるつもりだった。しかしお姉ちゃんがいないとなると、結界で封じることが出来ないし、こちらは紺右衛門しか戦えない。交渉が通じるような相手でもない。困ったことになった。
何か手はないだろうか。一瞬で様々な可能性を考える。そうだ、やっぱりあの手を使うしかない。そのためには…………
「はん、ぬかせぇ」
二人が刀を構える。
「紺右衛門、確かにアンタは強い。しかし、手負いの主を守りつつ、われら二人の相手はできまい」
「先ほどは一本取られたが、もう油断は無い。全力で行かせていただく」
「はー、やれやれ、わしは酒を飲んで暮らしたいだけなんじゃがな」
紺右衛門も刀を抜く。
「行くぞ、老いぼれ!」
「これで終いだ!」
臨戦態勢。今にも切り合いが始まろうとしていた。だがそうはさせない。
「待て!!」
大声で叫んだ。傷に響くが弱音を言っている場合ではない。
全員が私の方を見る。
「紺右衛門、刀を貸しなさい」
私がそう言うと右近、左近が笑った。
「何を言うかと思えば、貴様が戦うと言うのか?」
「先程の術はそう何度も使えまい。良いだろう。相手してやろう」
どうやら二人は私が戦おうとしていると思ったようだ。紺右衛門は困惑しながら私に刀を渡す。私の命令には逆らえないからだ。
「なにをする気じゃ!」
「こうするのよ!」
私は自分の金髪を掴むと、一思いに刀で切断した。
バッサリと中途半端に切断された私の髪型は多分変なことになっているだろうけど、気にしている場合ではない。
「はいこれ」
刀と私の髪束を紺右衛門に渡す。
私以外の全員がポカンとする中、紺右衛門の耳元に囁く。
「必ず呼ぶ。だから返されちゃ駄目よ?」
それを聞くと紺右衛門は笑った。
「かっかっかっ、なるほど!こりゃ簡単には死ねんなぁ」
「任せたよ」
私は全力で走った。傷が痛む。だが立ち止まらず、振り返らず、電話ボックスを目指す。何度か
最後に紺右衛門の方を見ると、二人相手に劣勢ながらも耐えている姿が見えた。ごめんね。でも必ず呼ぶから。
受話器から流れ出る呪いに呑まれて私の意識は
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