第8話
電話ボックスが結界となっているのであれば、それを仕掛けた術者がいるはずだ。
受話器を取ることが相手の呪術にとって私を取り込む鍵となっていることは、さっきのことで理解していた。だからあえて体に流し、取り込ませた。あとはその流れを見て逆探知するだけだ。相手の呪術を体に流し込むなんて芸当は初めてやったが、できれば二度とやりたくないと思った。私に流れる巫女の血筋と紺右衛門の狐玉があったからかろうじで突破できたが、ギリギリだった。まだ耳鳴りとめまいがひどいが、とりあえず深呼吸する。
「あら、よく帰ってこれたわね」
その時、聞きなれた声がした。声がする方を見ると公衆電話ボックス近くのベンチに誰か座っているのが見えた。
「お姉ちゃん………」
わかってはいた。だが、どこかで信じたくないと思っていた。
私とお姉ちゃんは仲が悪い。小さいころからそうだった。才能ある長女として厳格に育てられた姉。才能が乏しいという理由で放任された私。お互いに妬み、それぞれ苦しんだ。どちらが悪いわけではない。強いて言えば生まれが悪かった。二人ともわかってはいたが、それでも…………
「一応聞いておくけど、お姉ちゃんがやったの?」
「もちろん違うわ」
お姉ちゃんは私にはいつも嘘を吐く。
「そう。じゃあ、私は帰るから」
「ええ、気を付けてね。今夜は暗いから」
そう言うということは、大人しく返す気はないのだろう。案の定振り向くと、そこには右近が刀を持って立っていた。
「紺右衛門」
「ここに」
呼びかけると瞬時に紺右衛門が脇に現れる。リンクしている限り、私達には空間も時間も関係ない。どんなに離れても隣りに居る。それが主と眷属だ。もっとも。一応人間である私は無制限に移動できるわけでは無いが。
「まったく、無茶をする主じゃ……」
紺右衛門はため息を吐いた。
「奥の手、使える?」
私が訊ねると、紺右衛門は答えを躊躇した。
「しかし……姉妹じゃぞ」
「しょうがないよ。姉妹なんだし」
そう、姉妹だからこそ、全力でぶつからなければならない時がある。私がそう答えると、紺右衛門はまたため息を吐く。
「お主に憑いてゆけば少しは血生臭いことから離れられるかと思ったが、やはり血は争えんのう……」
「あら、おしゃべりが好きなのね。私も混ぜてほしいわ」
お姉ちゃんが立ち上がった。いつの間にか脇には左近が控えている。右近と左近に挟まれ退路は断たれた。私は武闘派ではないので右近、左近には勝てない。逃げることも不可能。
「お姉ちゃん、私が憎い?」
私が問いかけると、お姉ちゃんの動きが一瞬止まった。
「…いいえ、あなたは私の可愛い妹。そうでしょ?」
「私はお姉ちゃんのこと…好きだよ」
お姉ちゃんは立ち止まる。
「………あ、ありがとう。わ、わたし、も、よ?」
「ありがとう。ごめんね、お姉ちゃん」
私は手のひらをお姉ちゃんに向ける。右近と左近が動く。
「玉藻!」
紺右衛門が叫ぶ。
「
私はお姉ちゃんを見据えたままそう叫んだ。
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