第2話 カワイイっ!

「うわぁーーー・・・はっ!」


 次に私が目を覚ましたのは大きな木の作る木陰の下だった。起き上がり辺りを見回すと、周りは一面が草原で、遠くには街が見えていた。


「とりあえず、あの街に向かえばいいのかな?」


 そして、私は街のある方向へと歩みを進めた。


「ここ、自然豊かで人工物が少ないから気持ちがいいなぁっ!っと、あれは?」


 道の途中、何だかよく分からない水饅頭みたいなのがいた。


「調べてみるか、えっと確か・・・これだっ、サーチ!」


 そう言いながら謎の水饅頭Xに手をかざすと、情報が頭の中になだれ込んでくる。


 なるほど、コイツがスライムなのか・・・あっ跳ねてる。意外と可愛いなコイツ。えっと確か捕まえるにはっと・・・これだ


「テイムっ!」


 そう言うとスライムの下の地面に五芒星のような紋様が浮かび上がる。少ししてその紋様が無くなると、スライムが私に近づき跳ねる。


「上手くいったのか?」


 ポニョンポニョン


「・・・お手」


 私は冗談半分でそう言いながらスライムに手を差し出す。するとスライムはポニョンと跳ねると手の上に乗ってきた。コイツ、手より大きいのによく乗れたな。というかそれよりも・・・


 カワイイっ!!カワイすぎる!


 あー、これはやばい、想像以上に愛着湧いてきた・・・そうだ!コイツに名前をつけよう!名前は、スライムだから・・・


「スイ!今日からお前はスイだ!よろしくな、スイっ」


 ポニョンポニョン


 これは喜んでるって事だろう。多分。


 ・・・・・・


「着いたー!案外遠かったなぁ」


 けれど街は長く歩く甲斐があって中々栄えた街だった。


 えっと、とりあえずどこ行こう?


「RPG的には・・・酒場か」


 そして、私は近くの酒場に入る。その瞬間、店にいた人の全員の視線が私に降り注ぐ。


「おいアンちゃん、お前みてぇなガキが入るとこじゃねえぞ、おん?」


 見ていたうちの1人の男が私にそう話しかける。何でだ?別に私は普通の大人・・・


 じゃないっ!私今10歳くらいだった!!


「えっ、えっと!その・・・」


 私がそうテンパっていると、店の奥から店長さんらしき人が間に入る。


「ちょっと、他の人に突っかかんじゃないよ」


 そう言って、男の人を黙らせるとその人は私に目線を合わせて話し始める。


「アタイの名はシュナ。アンタは?」


 名前、そのままでいいだろうか?でもこの人名前しか言ってないし苗字を言う必要は無いだろう。


「ルリカ、です」


「オッケー、ルリカちゃん見ない顔だけどどこから来たの?」


 さーて、困った質問だ。まさか異世界から来たとは言えないし、ここは一芝居打つか。


「お父さんもお母さんも死んじゃって、お父さんが自分が死んだらこの街に来なさいって。アタシ、どうすれば・・・」グスッ


 どうだ、私が演劇サークルで得たこの涙は!


 て、ええ!?


「そうか・・・グスッ、お前・・・大変だったなぁー!」ポロポロ


 ガチ泣き!?ガチ泣きですか!?


「事情は分かった、お姉さんに着いてきな!」


 そしてシュナさんは、私の手を取って店の後にした。


 ・・・・・・


「おいガル!いんだろ!出てきな!」


 謎の大きな建物に入るとシュナさんはそう叫んだ。すると受付らしき人が少し慌てた表情を浮かべたあと裏に行った。そしてしばらくするとガタイのいい男の人が出てきた。


「おいシュナ!仕事場ではそれで呼ぶなって言ってるだろ?で、何の用だよ?」


「今日はね、この子のために来たんだよ」


 そう言うとシュナさんは私の背中の軽く叩く。それに反応するように私は前に出る。


「お?誰だよこのガキ?」


「両親が死んで身寄りがないらしいのさ、冒険者ギルドの特別支援控除でどうにかならないのかい?」


「そういうことかよ・・・」


 するとその男の人は、しゃがんで私に話しかける。


「俺の名前はガルシア、この冒険者ギルドのギルドマスターをしてる」


「ル、ルリカです」


 するとガルシアさんは、そうかと一言言うと立ち上がり再びシュナさんと話し始める。


「分かった、だが冒険者の適性が出ないことにはどうしようもねえ。すこし預かるがいいか」


「別に構わないさ、乱暴したら許さないけどねぇ」


 それで話が一通り終わったのか、ガルシアさんが私の方を向いて声をかける。


「それじゃあルリカ、着いて来い」


 ・・・・・・


「こりゃすげー・・・」


 私は着いた先で簡単な検査を受けた。唾液で色々と分かるんだそうだ。なんか病院の検査っぽい。


 それよりすごいって何がだろうか?私は尋ねる。


「凄いって何がですか?」


「それはな嬢ちゃん、アンタが全属性の魔法にそこそこの適性があるからさ」


 そう言うとガルシアさんは立ち上がって私の前にある椅子に座って話し始める。


「これなら冒険者として認めていいだろう。あとは住むところだが・・・子供を受け入れてる施設があるが」


「1人で暮らします。ちっちゃい頃から1人生きる術は教わったので」


 まったり暮らしたいのに、子供に囲まれるなんてまっぴらごめんだしね・・・


「そうか、だったらこの街の外れの丘に一軒家がある。少し古いが掃除すれば今でも住めるはずだ・・・といってもアンタこの街詳しくないんだったな。おっしゃ!着いて来い!」


 ・・・・・・


「ここだが・・・大丈夫そうか?」


「大丈夫です、お掃除は好きなので」


「そうか、まあ大変なら俺かシュナを呼んでくれれば駆けつけるからよ。気軽に頼ってくれ」


「あっ!その前に1つ聞いていいですか?」


 帰ろうとしたガルシアはその言葉に振り返って聞く体勢をとる。


「私、1人で暮らしていけますか?」


 するとガルシアさんはガハハと笑い言った。


「それは心配ねぇぜ、アンタは1人で暮らすに申し分ないステータスだからなれ


 そう言うとガルシアさんは私の頭をクシャクシャと撫でると街の中心へと戻っていった。


「それじゃあいっちょ、頑張りますか!」


 ・・・・・・


「疲れたぁ・・・」


 掃除機が無い世界なことをすっかり忘れていたこともあり、思ったより時間がかかってしまった。


「でも、綺麗になったな」


 家は掃除したらやっぱり広くて綺麗だったし庭には畑用のスペースもあった。明日街に行ってタネを買ってみよう。


 ポニョンポニョン


「スイもお手伝いありがとう」


 ポニョンポニョン、ポニョポニョポニョ・・・


 あれ、スイの様子が・・・なんか震え出したぞ。しかも何か形が変わって・・・


「スイ、ちゃんと人の形・・・なれてる?」


 人型になって・・・喋った!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る