第13話「屈辱の舞踏会-6」
そしてやってきた舞踏会当日。
学園の一大イベントである舞踏会は、年に4回ほど季節の変わり目に開催される。季節やその年によって異なったテーマを持つ舞踏会は、主に貴族の令嬢や令息の社交場として開かれるものだった。
……けれど、今回の冬の舞踏会だけは少し特別。
「後ろのリボン、もう少ししっかり結んでくださる?」
「は、はいっ……!し、失礼いたします……」
使用人が躊躇いがちにわたくしのドレスの後ろのリボンを解く音を聞きながら、わたくしは小さく息を吐いた。いつも学園に着ていくドレスは自分で着脱ができるような簡素なドレスを選んでいるけれど、舞踏会に来ていく華美なドレスは構造が複雑で流石に1人では着れない。そのためこうして使用人に支度を手伝わせているのだけれど……。
「あなた、ちゃんと真面目にやっているの?」
「え!?私、何か粗相をいたしましたでしょうか!?」
「もっとギュッと締めてくださらないと、ドレスが不格好でみっともないわ」
わたくしが首だけを動かして後ろを振り返ると、使用人は慌てたように俯いて顔を逸らした。あからさまに無礼な態度を指摘しようかとも思ったけれど、今はドレスに集中してもらわなくてはと言葉をぐっと飲み込む。
去年までは要領の良いメイドがわたくしの使用人としてついていたけれど、彼女が結婚して貴族に嫁いでからはこの……見目だけしか取り柄のない従僕がわたくし付きの使用人となってしまった。
身分違いの恋愛だなんて馬鹿らしいことさえしなければ、メイドはまだこの学園にいることができたのにと、今思い出すだけでも溜息が出てきてしまう。
「い、いかがでしょうか……」
リボンを結び終えたようで、使用人がおずおずとわたくしの前に姿見を持ってくる。少し後ろを振り返るようにして確認すれば、相変わらずリボンの緩さが目立っていた。わたくしが後ろ手にリボンを解くと、使用人があからさまに焦った様子で「ああっ」と情けない声を出した。
「こんな雑な仕事で、あなたよく今までやってこれたわね。ほら、リボンを持ちなさい」
「は、はい……」
「これくらいっ、ぐっと引っ張るのっ!」
なぜか震えている使用人の手の上にわたくしは自分の手を重ね、一緒にリボンを引いてみせる。本来ならこの使えない使用人とは違う使用人を呼ぶところだけれど、時間が限られている今はその時間さえ惜しかった。「ほら早く結んで!」とわたくしが語気を強めて言うと、使用人は慌てて手を動かす。
……わたくしのことを噂か何かで聞いているから、こんなに怯えた態度なのかしら?それともわざと嫌がらせをしているの?
そう思ってしまうくらい仕事のできない使用人に、わたくしはまた人知れず深く溜息を吐いたのだった。
「リリアン様!とってもお美しいです……!」
「そういうのは良いから、早くネックレスを取ってくださる?」
紅潮気味にわたくしにおべっかを使う使用人を無視してネックレスを受け取り、腰まで伸びた髪を金具に引っ掛けないように避けながらそれを自分の首につけようとした。けれど、なかなか金具が噛み合わない。
「……あ、あの……私が、その……ネックレスをお付けしてもよろしいでしょうか?リリアン様に……」
「いいえ、結構よ。あなたネックレス壊しそうだもの」
「え!?そ、そんなあ……」
項垂れている使用人を横目に手を動かし続けるけれど、一向に金具の噛み合う気配がない。
もう別に付けなくても良いかしら……なんて考えが頭をよぎった時、わたくしの部屋の扉がコンコンと叩かれた。
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