エピローグ
第52話 エピローグ
まだ桜も花開かない早春の候。
それでも、春の訪れを感じさせる穏やかな温かさを快晴の空の下。
今日この日は、私達の卒業式。
いざさらば さらば先生 いざさらば さらば友よ
否応なく寂しさと別れを思い起こさせる歌を私達は合唱した。
卒業証書を受け取った。
答辞は秀一君。それがなんかおかしくて、私は笑ってしまいそうになって。
でも式典は滞りなく進行し、そして終わった。
「葉月ちゃん、一緒に写真撮ってもいい?」
「もちろん!」
可愛いエレナちゃんのお誘いに、私は喜んでエレナちゃんに抱きつく。
「うおおおっ、葉月可愛いぞっ!」
そんな私達をお父さんがバシャバシャ連写する。
「僕も入っていいいかな?」
「蓮君!」
元祖本の虫組の勢揃いに私は声を上げる。
「誰だ、お前はっ!?」
「あなた」
蓮君に絡もうとしたお父さんの頭を、お母さんが叩いてストップ。ナイス、ママン。
「お母さんっ! 写真お願い」
「はいはい。それじゃ、撮るわよー」
「はーいっ。二人とも笑って!」
「うんっ」「うん」
チーズッ!
「葉月ちゃん」
「秀一君っ!?」
聞き慣れた声に振り向けば、秀一君とその親衛隊。あまりの迫力に声が裏返ってしまった。
「僕も一緒に写真撮ってくれないかな?」
秀一君はニッコリ誘ってくる。それは全然いいんだけど、後ろの親衛隊達がヒィイイイ、ホラー! かといって、断るのはようやく友達ができた秀一君がかわいそうだ。
「わかった。わかったから、早く撮ろう!」
私は素早く秀一君の隣に立つと、お母さんをハリーハリーと急かした。
「おー、みんな揃ってんじゃん!」
秀一君と写真を撮り終わって、それじゃと避難しようとしたのにタイミング悪く翼も合流してくる。
「写真撮ろうぜ、写真!」
お前もか! って思ったけど、それはそうだよね。私だって撮りたい。なぜか翼が合流したら親衛隊の圧力も減った気がするし大丈夫か。男が増えたからかな? 翼君 × 秀一様。いや秀一様 × 翼君? まさかこの歳にして腐ってるの? ……清澄の未来が心配だ。
「あれ? 姫宮いねーじゃん」
翼はきょろきょろ周囲を見回したかと思うと、
「お、いた。おーい、姫宮! 皆で写真撮ろうぜ!」
女子の中心にいた瑛莉ちゃんを当たり前のように呼び出す。あの状況の、それも瑛莉ちゃんを呼びつけるなんて。こいつ凄いなっ!?
「なんですか、急に」
「幼馴染揃ってんだから、お前だけ仲間外れじゃかわいそうだろ?」
「誰が仲間外れですか!」
「親父、写真よろしくー」
瑛莉ちゃんに言いたい放題言った挙句、反論を無視して翼は陽二さんに振り向く。……実は最強って翼なのでは? これが鈍感力ってやつですか?
「よーし、皆こっち向いて!」
陽二さんがカメラを構える。
「それじゃ行くぞー! 1+1はー?」
なにその子ども扱い……ってまんま子どもか。
「「「「にぃー!」」」」「「……に」」
素直に叫ぶ元祖幼馴染'sな本の虫組と翼。こういうのに慣れてないのか、小さく呟く秀一君と瑛莉ちゃん。
それがおかしくて二人を見て笑ってしまうと、瑛莉ちゃんが怒り、秀一君がそっぽを向き、余計に笑う私達をお父さんと陽二さんが、また連写していた。
「よーし! それじゃせっかくだし、皆でご飯でも行こうっ!」
「いいね!」
「行きたい」
翼の誘いに私とエレナちゃんはノリノリだ。
「残念ですが、有紗ちゃん達と約束がありますので」
しかし、瑛莉ちゃんが連れない返事をする。
「え、なんだよつまんねーなぁ」
凄いぞ、翼。強いぞ、翼。未だかつて瑛莉ちゃん相手にここまで言いたい放題な漢がいただろうか? いやいない。
「私にも私のお付き合いがあるんですのよ」
無礼な翼にふんっと瑛莉ちゃんはそっぽを向いた。まあ、そうだよね。女子のリーダーが卒業式に約束破って他のグループに遊びに行けるはずがない。
「でも、まあ」
瑛莉ちゃんは長い髪を手でかきあげながら背を向けて、
「予定がないときでしたら、付き合ってあげないこともありませんわ」
ツンデレキター! なにこれ!? なにこれ!!??
「かっわいいー♡」
「ヒッ!?」
たまらず後ろから抱きつくと、瑛莉ちゃんが驚きに体を竦ませた。
「急に何をしますかっ!?」
瑛莉ちゃんは容赦なく私の顔を両手で引っぺがす。
「あ、ごめん。瑛莉ちゃんがあまりにリアルツンデレお嬢様だったから」
「なんですか、それは!? バカにしてますの!?」
「そんなことないよー愛でてるだけだよ」
「気持ち悪いっ! あなた、最近私に馴れ馴れしくってよ!?」
「えー、私達の仲じゃん」
「どんな仲ですか! 本当にあなた達は!」
瑛莉ちゃんは肩を怒らせて行ってしまう。残念だなー、私は好きなのになー瑛莉ちゃんのこと。
仕方なく振り返れば、蓮君と秀一君がお腹と口元を押さえて体を揺らしていた。
「え、なに?」
「い、いや、あんな姫宮さん、初めて見るなって思って」
「姫宮さんも、葉月ちゃんにかかれば形無しだね」
笑いを噛み殺しながら、二人はそんなことを言う。……あれ? 私って翼のこと言えない? そ、そんなことないよね?
「シュウと蓮は来れるよな?」
一人動じない翼がそんな二人に声を掛ける。
「うん、もちろん」
蓮君は二つ返事。
一方、秀一君は嬉しそうに顔を上げて、しかしそれを曇らせて、
「僕も行っていいのかな?」
「は? なに言ってんだ? 当たり前だろ?」
翼はバカを見るような目で、秀一君を見た。
本当に、こいつはこういうところだと思う。
「行こ。秀一君」
私は秀一君に手を差し出す。
秀一君は驚いたように私の手を見つめてから、
「うん」
初めて見るような屈託のない笑顔で、私の手を握った。
「どこ行こっか?」
歩きながら私は首を傾げる。
「お父さん達もいれると結構な人数だよね? 入れる場所あるかな?」
蓮君がもっともな懸念を口にする。
「卒業式だから、お店混んでるかな?」
エレナちゃんの指摘ももっともだ。
「確かに。親父! うちにみんな呼んでいいかー!?」
「当たり前だぞ、マイサンッ!」
そして、流石の大空寺親子。このフットワークの軽さ。これが陽キャか。眩しい。
「よっし! んじゃ、うちで」
「……翼の家行くの初めてかも」
秀一君……友達の家に行けてよかったね。
「そういやそっか? でも葉月は毎年来てるよな?」
「ええ。いつもお邪魔してます」
「え?」
「どうして?」
翼にお礼を言えば、蓮君と秀一君が驚く。確かに謎だよね。
「BBQしてっから」
翼、みんなが聞きたいのはそういうことじゃない。
「翼のお父さんと私のお父さんが高校時代の同級生なんです」
「そうなんだ」
「聞いてないんだけど」
驚きが消えない蓮君と、どこか不貞腐れる秀一君。うん、君より早く君の数少ない友達のお宅訪問をしてすまない。でも、こういうのは回数とか誰が早いとかじゃないから嫉妬しないでね、ストーカーさん。
「あ……校門に記者さんが」
ゲッ!? エレナちゃんの声に校門を見れば確かに何人かのパパラッチらしき厄介者達が見える。
「おのれ、性懲りもなく!」
大人げないパパンが子ども達よりも早く臨戦態勢に入る。パパンよ、せめて小学生よりは大人であってくれ……でもありがとう。
「あー、ニュースでも取り上げられてたもんね、葉月ちゃん」
「卒業式まで来るんだね」
本の虫仲間に言われて、恥ずかしくなる。
「流石、最年少作家様」
ギャッ! その恥ずかしくなる肩書、やめてください!
「あと三賞同時受賞の天才少女だっけ?」
ぜ、絶対にわざとでしょ、その笑顔っ!
「クソッ! 先を越された!」
翼よ、君は私と何を争ってたんだ。
「でも、どうしよう?」
「うーん、そうだね」
エレナちゃんの困り顔に、蓮君がすっと私の前に立つ。
「ほら、翼と秀一君も」
「ん?」
「ああ」
察しの悪い翼と違って、秀一君はすっと私の隣に立ってくれる。
「お父さん達もよろしくお願いします」
「葉月の隣は俺グァ!?」
「あなた。野暮なことしないでください」
私達子どもの周りをさらにお父さん達が囲ってくれる。これで記者の目から私は見えない。
「それじゃあ、まいりましょうか。お姫様?」
芝居がかって、秀一君はいつのまにか離れていた手を、今度は自分から差し出してくる。それがおかしいから、私は目をパチクリしてしまうけど、
「ええ。それではよろしくお願いします、王子様?」
まあ、周りから見えてないみたいだしと、面白おかしくその手を取った。
そして、翼の家でみんなで飲んで(ジュースだけど)、食べて、騒いで。
本当に楽しかった卒業式の翌日。
私は久しぶりにぐでーっとベッドを転がって。
ふと、机の上に載った三つのトロフィーと、幼馴染が勢ぞろいした卒業アルバムの写真を寝ぼけ眼に見て。
私は幸せだなーと、また薄い眠りの中に落ちていった。
打ち切り作家の幸せ転生ライフ ~今度こそ売れっ子作家になってみせる!~ みどりいろ @tkizumi
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