第51話 卒業アルバム

「万華先生! 二巻も好評です! この勢いのまま三巻を発売しましょう!」

 矢作君がそう言ったかと思えば、

「泉先生! 一巻イケてますよ! 勢いのあるうちに二巻を出しましょう!」

 AAA文庫の鈴木さんもそんなことを言ってくる。


 ヒイィイイイイー! 締め切りが。締め切りが私を追ってくるぅー!

 自由! 自由が欲しい!

 書くものを強制され、締め切りに追われる日々。こんなの小学生の生活じゃない!

 私は怠惰な惰眠と好きなものを書く自由を所望する!


『うちの出版社では、先生の続刊を出せなくなりましたっ!』

 ……そんな風に思いながらも、打ちきりの恐怖を知る私は大人しく執筆に戻る。書かせてもらえないことに比べれば、書くことを強制される方が百倍いい。

 そういえば交渉の鉄板って、選択肢を突き付けてそもそも選択する以外の答えを思い浮かべさせないことらしいですね。ダブルバインド、それともこれは対比効果かしら? フフフ。


   ◇◇◇


「さて、いよいよ寒くなってきたが、そうすると君達の卒業も迫ってきたわけだ」

 ある日の帰りのホームルーム。ゆかり先生は急に似合いもしない感傷的なことを口にした。

「というわけで、卒業アルバムの制作に取り掛かってもらう。学級委員、そういうことで後は頼んだぞ」

 と思えば、剛速球で丸投げしてきた。え? 緩急えげつなくありません?

「修学旅行の時のように期待しているぞ。しっかり働いて私に楽をさせてくれ」

 あなたが働いてください、先生。


「さて、どうしよっか?」

「なんだか覚えのある流れですね」

 机の上に載った昨年度の卒業アルバムを眺めて、私は言う。

「うん。そうだね」

 秀一君もデジャブに笑う。

「となりますと」

 チラリと期待を寄せて、私は秀一君に近付いてきた翼を見る。こういう時は胸が痛まない翼から巻き込むのが一番だ。

「お? なんだ、期待に満ちた顔して? 仕方ねーなぁ、今回も手伝ってやるよ!」

 ブンッと振り回された手を秀一君はすっとかわした。うん、学習してるね。流石秀一君。

「おっ? なんだなんだ」

「なんで避けたのに叩こうとしてくるんだよ!?」

 避けられたのが面白かったのか、平手を連発する翼。うん、成長してないね。そこが翼のいいところだ。君は君のままでいてほしい。

「葉月ちゃん」

 生温かくすっかり竹馬の友な二人を見守ってると、私の竹馬の友であるエレナちゃんが声を掛けてくれた。隣にはいつも通り蓮君もいる。うん、私達が一緒に遊んだのは竹馬じゃなくて本だけど。

「……いいかな?」

「今さらなに言ってるの」

 おずおずと聞く私に、蓮君は優しく微笑んでくれる。

「ありがとう」

 心から嬉しくて、私も微笑み返す。

 さて、そうなると最後は。

「瑛莉ちゃーんっ!」

 いつも通り有紗ちゃん、陽子ちゃんと話している瑛莉ちゃんを私は呼ぶ。するとウゲッと顔を歪めた瑛莉ちゃんが足早に駆け寄ってくる。

「なんですかっ、藪から棒に!」

「瑛莉ちゃんも一緒に卒業アルバム作ろっ」

「なんで私がっ」

「一緒に修学旅行のしおり作った仲じゃん」

「あれは公平を期すためにしただけです」

「今回も私達だけでやっちゃったら公平にできないかもよ?」

 うっと瑛莉ちゃんが言葉に詰まったのを見て、私は畳みかける。

「クラスの女子のことは瑛莉ちゃんが一番詳しいし」

「……それはそうかもしれませんが」

 トドメだと秀一君に目配せすると、秀一君は苦笑して口を開いた。

「姫宮さんが手伝ってくれると、僕達としても本当に助かるよ」

「あ……」

 瑛莉ちゃんはギョッとするほど、瞳を潤ませた。こ、これが恋する乙女。……というか、ずっと秀一君に普通に接っすることができなかったことを気にしてたのかな。

「わかりました。私でよければ手伝わせていただきます」



 そうして、修学旅行のしおりの時と同じように私達は六人の幼馴染で卒業アルバムを作る。

「秀一様。アルバムに入れる写真を一緒に撮ってもよろしいでしょうか?」

 瑛莉ちゃーん。また行き過ぎてるよー。それじゃ元の木阿弥だよ?

「いいな、それ! じゃあアルバム委員、全員で撮ろうぜっ!」

 と思ってると、翼が叫ぶ。

「え?」

 私はそんなつもりじゃ、と言いたいのが目に見えるような戸惑い声を瑛莉ちゃんが上げる。うん、この瑛莉ちゃんにこんな反応をさせるとは流石の空気ブレイカー。

 と思っていれば、

「うん。みんなの写真が欲しい」

 秀一君が思わず見惚れてしまいそうな、綻ぶような微笑みを浮かべた。……って違う! 相手は小学生、秀一君は小学生。ブンブン頭を振る。

 そうだよね。秀一君は、ずっとこういうみんなっていうのに憧れてたんだもんね。

「そうだね。みんなで写真撮ろう」

 私が言えば、

「うん……みんなの写真欲しい」

 エレナちゃんも天使の微笑みを浮かべる。

「それじゃ、タイマーセットするね」

 蓮君が向かいの机の上にカメラを載せる。ピッピッとカメラを操作し、

「それじゃ五秒で撮るよ」

「オッケー!」

 翼が元気よく答えれば、蓮君がボタンを押す。

「五」

 カウントダウンを始め、蓮君が戻ってくる。

「四!」

 翼がうるさいくらいにカウントダウンを引き継ぐ。

「三!」

 それが楽しいから、私も声を揃える。

「二!」

 すると、瑛莉ちゃんも声を上げてくれた。

「一!」

 最後に全員が声を上げて、

「ゼロ!」

 私達は、とびっきりの笑顔を浮かべた。



  ◇◇◇


 温かい気持ちで帰宅すると、

「葉月。今度はDENGEKIってところから電話が来たけど」

「はーい」 

 はいはい、今度はDENGEKIね。DENGEKI、DENGEKI……ってDENGEKIぃ!?

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