第38話 投稿作3
二次選考結果が出た。
私の応募作は、無事に二次選考も通過していた。
こうなると、そろそろ妄想してしまう。
来るか? 来ちゃうんじゃないか? 作家デビュー。
そうしたら、今みたいにコソコソすることもなく、堂々お仕事として執筆ができる。おじいちゃんおばあちゃんに変わってるわねーなんて言われることもなくなるのだ!
来い来い来い、自由な執筆環境! じゃなくて、プロ作家デビュー!
なんて祈っているけれど、祈る前にやることがある。
DENGEKI大賞の応募だ。
応募してしまった賞の結果がどうなるかなんて、今更どうこう考えたところで変わることはない。
なら今できるのは、落ちてしまっても他の賞からデビューできるようにそちらの応募準備を整えることだけ。
ということで書き進めよう。
構想はもうできてる。
前回と違って、今回はたっぷりと締め切りまでの時間があったから。
今回書いているのは、The青春。
王道の高校生の恋愛ものだ。
主人公は私が思う格好いい女の子。
クールで、スラッとした美人で、物静かな大人なイメージ。母子家庭で料理とか家事もできるし、バイト先でも仕事ができる。
そんな彼女が、女の子になる日のお話。
バイト上りの夜のコンビニ。いつもなら素通りするそこのベンチ。彼女は美味しそうにタバコを吸う男の人を見る。
ちょっとした気の迷い。少し疲れてた彼女は、母親も吸っているそれの味を知ってみたくなって。
買ってはいけないものを買うというちょっとした冒険。それに少しドキマギしながらも、大人っぽい彼女は無事にそれを手に入れて、ベンチに座る。
しかし、吸おうとしたその時に気付くのだ。火がないことに。
いつもならしないような間抜けに慌てる彼女。
「クハハッ」
その耳に、どこか特徴的な笑い声が飛び込んでくる。
「ほい」
ぽーんっと放られたコンビニの光を反射するパステルグリーン。
「火、ないんだろ?」
それを受け止めると、彼は無邪気な笑顔で言うのだ。
キャー! いいないいなっ!
夜に出会う年上の男の人! ドキドキする!
私も素敵な大人の人に出会いたいなー。
……あ、ちなみにこれはあくまで小説のお話。
作品と作者を結びつけるのはNGですよ、皆さん。私、タバコ吸わなかったし。
この作品は作者の願望、妄想、その他諸々とは一切関係がありません。そこのところよろしくお願いします。
◇◇◇
バイト上り。
田舎道では眩しいほど光り輝くコンビニ。その前を、彼女は横目で伺う。
そんな都合よくいるはずがない。そんな予防線を張りながらも、見ずにはいられない。
店内照明を背に、彼はいた。
高鳴る鼓動を必死に抑えて、彼女は彼のもとに歩く。
夜空に吐き出した紫煙を見る彼は、彼女に気付かない。
勇気を出すように、彼女はパーカーのポケットの中のパステルグリーンを握りしめる。
彼まで、あと五歩。そこまで接近して、彼はようやく彼女に気が付いて、
「おお。また会ったな、嬢ちゃん」
やっぱり、あの無邪気な顔で笑いかけてくるのだ。
「えっと……葉月ちゃん?」
「ひゃいっ!?」
唐突な呼びかけに、私は甲高く叫んだ。
「な、なんでしょう、秀一君?」
平静を装って、私は隣の席の彼を見る。
「うん、何ってわけじゃないんだけど」
秀一君はどこか困ったように笑う。なんだ? 秀一君が言いよどむなんて珍しい。
「シュウ、クラブ行くぞ!」
私が不思議に思ってると、翼が秀一君の背を叩いた。
「ああ、うん」
秀一君はチラリと私を見ながらも、翼に言われるがままに席を立った。
え、言わないの? 途中でやめるなんて何だったのか気になるじゃん!
「ああ、そうだ葉月」
生殺しに私が悶えていると、翼が思い出したように声を掛けてきた。
「お前、ひとりごと気持ち悪いからやめた方がいいぞ」
「え?」
翼の指摘に私は固まる。数秒そうして、ようやく動き出して秀一君を見る。
秀一君は、無言で私から目を逸らした。
そういうことかー!
内心身もだえする私を置き去りに、二人は教室を去っていった。
あまりの羞恥にうあー、うがーと叫びながら、私は家への帰途を辿った。
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