第37話 年末年始


 期末試験。

 成績は何とか奇跡のV字回復を果たした。

 うん。まあ、まずはテスト中に寝ないだけで大違いだからね。

 ただ、年々他の子との差は詰まってる。

 前世の知識チートで小学生の今は高得点を維持してるけど、これから中学生ともなればボロが出始めるのは必然。そうなると、いつまで特待生でいられるか。


 特待生でなくなったら、清澄とはおさらばだ。

 お父さん、お母さんに清澄の学費なんて金銭的負担はかけられない。ここの制服は可愛いけれど、値段は可愛くないのだ。

 そうなれば、エレナちゃんや蓮君、ついでに翼や秀一君と別れることになる。それは正直、心残りだなと思う。

 だから頑張らなきゃ。油断せずに行こう。



 そうは思いつつも、私の一番の目標はそこじゃない。小説家だ。

 AAA新人賞の一次選考結果が出た。

 私の投稿作は……突破してた。

 やったー! と内心喜びもだえるも、すぐに頭を振る。

 まあ、そりゃそうだ。仮にも前世はプロ作家だったんだ。新人賞に投稿どころか、投稿作の下読みをしてた側。新人賞の採点基準だってわかってる。それが一次も突破できなかったんじゃ目も当てられない。

 ということで気を引き締め直して、DENGEKI大賞の投稿作の執筆執筆。燃え尽き症候群と勉強の挽回でおろそかになってたから、本腰を入れ直さないと。


   ◇◇◇


 やってまいりました冬休み。

 年末年始はぐでーっとだらけて過ごすのが至高。

 と思いつつも、これは兜の緒を締め直したい私にとって、絶好の執筆タイムだ。

 書いて書いて書きまくる。


 と張り切っていた年末からやってきた大晦日。

「健人や。葉月ちゃんは大丈夫なんか?」

 田舎に帰ってからも引きこもってる私を心配して、おじいちゃんがお父さんに尋ねた。

「あー……葉月はあれが通常運転だから」

 お父さんも言葉を濁して、目を泳がせる。

「そうなの。なんだか寂しいわねぇ」

 おばあちゃんもしょんぼり。

「引きこもりってやつか?」

 うっ。ち、違うよーおじいちゃんおばあちゃん。

 ということで、年越しは紅白に年越しそば。

 もーいーくつ寝ると和尚が2。なんて言ってたら二時だ。とっくにお正月だった。

「葉月、もう寝なさい」

「はーい」

 子ども部屋に引きこもれる家と違って、おじいちゃんの家じゃ私が夜に起きてるのなんて丸見えだ。

「凄いの。葉月ちゃんは、こんな時間にも起きとるのか」

 おじいちゃんは目を丸くしてたけど、おじいちゃんも起きてるじゃん。

「葉月ちゃんは変わってるのね」

 年越しそばのお皿を洗ってたおばあちゃんが言った。

 か、変わり者じゃないもん! 純粋な感想が、一番心に痛いって知った新年一日目。


 年明けは初詣もして、三が日終わりには近くのスケートリンクに行った。

「葉月、スケート初めてじゃないのか!?」

 懐かしいー気持ちいいーとスイスイ滑る私にお父さんは驚愕。

「運動神経までいいのね」

 お母さんも口を手で覆う。

 すいません。違うんです。前世で小学校隣の田んぼリンクで鍛えただけです。だから、あまりハードルを上げないでください。



 帰省から帰って執筆三昧。

「葉月、年賀状が来てるわよ」

 と張り切っているとお母さんがそんなことを言ってくる。

 エレナちゃん、蓮君、翼に秀一君に由利咲先輩、饗庭先輩。瑛莉ちゃんまで!?

 小学生から年賀状なんてしっかりしてるなーと感心しながらも嬉しい。

 なんて喜んでいられたのも束の間。返さないと! 執筆にかまけて、住所を聞かれてたのを忘れてた!

 私は慌てて年賀状を書いたけれど、もはや郵便に出すより学校で渡した方が早いでしょうって日にちになってしまった。


 新年初日の登校日。

「遅くなりましたが、年賀状です」

 恐る恐る頭を下げて、隣の席の秀一君に両手で年賀状を差し出した。

「手渡しなんて風情があるね?」

 プリンス、暗黒スマイル。

 ごめんなさい。テスト勉強開け、執筆漬け、帰省でうっかりしてたんです。本当にゴメンなさい。だから、その裏しかない笑顔をやめてー!

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