第33話 当面の目標


 前世の打ち切りと今世のネット小説で思い知らされたことがある。


 私は、天才じゃない。

 わかっていた。わかりきっていた。でも、どこかで認めたくなかった事実。

 

 思い通りの作品を、自分の書きたいものを書いて売れっ子になれるような才能は私にはなかった。

 でも、それでもデビューできるだけの実力が、少なくてもファンがつくだけの魅力が私の作品にはあった。

 だから、私はそれを磨きたい。そして、これ以上そのための時間を無駄にしたくない。

 いつ何が起きて書けなくなるか。そのことを私はこの身をもって嫌というほど理解しているのだから。


   ◇◇◇


 新人賞に応募する。

 そして受賞して、デビューする。

 私は、当面の目標をそう心に決めた。


 となれば、まずは登る山を決めなければならない。

 私は小説新人賞を片っ端から調べ、三つの新人賞に目星をつけた。


 まずは十月末。AAA新人賞。

 ラブコメや一癖あるラノベを生み出してる準大手。最近勢いがあるレーベルの新人賞。過去の受賞作を見れば、そのジャンルは幅広く、売れ筋じゃなくても作品に何かの魅力があれば拾ってくれる気がする。


 次に来年の四月頭。DENGEKI大賞。

 なんといっても業界最大手。私も前世からここの作品を沢山読んでる。同一賞内で大人向けなエンタメ小説も選考してくれる懐の広さもある。AAA新人賞もだけど、前世では結局受賞できなかったし、一番挑戦したい新人賞だ。


 最後に八月中旬。KODAIラノベ大賞。

 正直、前の二つに比べれば小さいレーベル。聞けばわかるようなヒット作もないし、それなりのラノベ好きじゃないと存在すら知られていない。だけど、私にとっては思い出深い小説賞だ。前世で私はこの賞の佳作を受賞してデビューした。だから私の作品との相性は悪くないと思うし、正直思い入れもある。



 ちなみに三つも狙いを定めてるのは、当然の布石。どこのレーベルでもいいのかなんて思う人もいるかもしれないけれど、当たり前の保険だ。


 まず、当たり前のことながら受賞できるかわからないこと。

 新人賞は作家だった人間でも受賞できない可能性が十分以上にある狭き門。

 例えば一度に傑作が複数集まれば、例年なら受賞できるレベルでも落ちることになりうる。

 また、新人賞はレーベル、編集者とのお見合い的な側面がある。Aのレーベルなら受賞できたけど、Bのレーベルでは落選したなんてことも普通に起こる。


 もう一つの理由は、上の話に反するようだけど最初に複数レーベルで書くチャンスを得るためだ。

 新人賞は当たり前だけれど、レーベルの新人獲得の場だ。

 であれば、それを与えた新人には自身のレーベルで書いてもらいたいというのは、レーベル側からすれば当たり前の理屈。

 そのためにレーベルは莫大な労力と経費を投資しているのだから、それに応えるのは当然の義務とも言える。もちろんレーベルを移籍するなんてことはそれほど珍しい話ではないけれど、それも数作書いてからの話。一本もそのレーベルで書かないでレーベル替えするなんて、出版社と受賞者の信義にもとる。

 でも、ここで同時に受賞していたとしたら?

 それは仕方のないことだろう。レーベルとあなたのところでやらせてくださいという話をする前に、応募をしてしまっていたのだから。そして先の話の通り、それが受賞するかなんて誰もわかっていないのだから。異論はあるかもしれないけど。


 そういうことで、この三つに狙いを定めて、私は作品を作り上げることにした。



 上述したように、レーベルや新人賞にはカラーがある。

 作家が青春物が得意、異能バトル物が得意、ファンタジーが得意と言ったように、レーベルもそれぞれ得意とするジャンルがあるのだ。

 つまり求められてるのはまさにそういう得意ジャンルの作品なわけで、そんなのをぶち破るほど面白ければ関係ないのだけど、天才じゃない私は出版社側が求めるものを考えるべきだ。


 ずっと考えてきたプロットの中から使えそうな、そして書きたいものを拾い上げる。そして、それを各小説賞に割り当てる。


 AAA新人賞は、ラブコメ以外に少し厨二的なニッチな作品も強い。そこにちょっとダークなファンタジーを当てはめてみる。

 DENGEKI大賞は、最大手だけあって本当に懐が広い。そこにはちょっと背伸びした年齢層高めの恋愛ものを。

 最後にKODAIラノベ大賞は、ネット投稿からの拾い上げがあるのでネット投稿用に考えていた異世界転生物を。


 新人賞応募の全体的な戦略は決まった。

 そうとなれば、あとは個々の作品を作り上げるだけだ。

 明確な目標を前に、私のやる気は最高潮に達した。

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