第31話 決意のペンネーム


 私の小説について考えてみた。

 ネット発表の結果。エレナちゃんと蓮君の反応。そして秀一君の指摘にAkitoさんの示してくれた方向性。


 かつての私、泉千花は心の向くままに書いていた。それでデビューできてしまったから。

 オリジナルというかありのままの自分の色。それをただ作品に落としこんでいた。

 それでも、数少ない私のファンやエレナちゃんや蓮君は褒めてくれた。

 でも、それは前世で売り上げ不振のクビになり、ネット投稿でもまるで結果を残せなかった。


 だから、ネット小説を学んだ。

 結果、それはガチガチの模倣になったけれど、ネットでそれなりの結果を残せた。

 けれどそれも伸び悩み、エレナちゃんや蓮君には前の方が好きだと言われ、Akitoさんには私の長所を殺していると指摘された。


 この二つの作品の差はどこから来たか。それは恐らく作り方の差だ。

 その大きな違いは、心のままに書いたか、プロットをきちんと立てたかだ。


 元々の、泉千花の作り方はなんとなく書きたいものを決めて書いてみる。その中で方向性を掴んで、キャラクターやイベントを作りこんでいく。例えるなら、まっさらな紙に下書きもなく自由に絵を描いていくようなスタイルだ。


 それに対してネット小説を書いた時の方法は、他のネット小説のキャラクターやイベントを参考にしてリメイク、それらをうまく配置、並べ替えた作り変えだ。どこに誰を、何話目にどんなイベントをとあらかじめプロットで固めて書いた。こちらは紙に鉛筆で下書きを全部描いて、それをボールペンでなぞるようなスタイル。


 前者は楽しくて、自分のオリジナルを出せたし、少ないながらファンもついてくれたけど多くの人には受け入れられなかった。

 後者は凡庸で、自分の長所は消え、ある程度の読者は得たけれど、自分のオリジナルを褒めてくれたファンを落胆させた。

 

 では、これから私はどんなスタイルで創作すればいいのか。


 そこまで考えてふと思い出したのは、とある漫画家がインタビューで答えていた物語の作り方だ。

 自分の物語の作り方は、線路の敷設に似ていると。

 大切な、大きなイベントを駅として配置すると。

 次にキャラクターという電車を作り上げる。

 キャラクターができたら、そのキャラクターが停まるだろう停車駅を決める。

 そしてキャラクターを走り出させると、キャラクターは停車駅に向かって走っていく。ただし、それは必ずしも真っすぐではない。

 もちろん停車駅に向かって真っすぐ最短で走ることもあるけれど、停車駅でなかった駅やあるいは存在しなかった新しい駅に寄り道するかもしれないし、敵等の障害に突き当たって迂回するかもしれない。それは電車、キャラクターの選択に委ねるのだと。


 その創作法は従来の私の書き方に比べれば、窮屈かもしれないけれどきちんと計画立てられている。

 この前のネット小説の書き方に比べれば、枠組みを決め切っていない分、遊びがあって動きやすい。


 よし。この執筆法を試してみよう。

 

 そう決めて、私はまたパソコンに向き直り、ふと自分のユーザーネームを見つめた。


 Hazuki。今の自分の名前をただアルファベット表記しただけの味気のない名前。ペンネームとも呼べない、まるで心のこもっていない名前。


 Akitoさんは言ってくれた。

 大好きな泉千花の作品を思い出して、嬉しくなったと。

 同時に指摘してくれた。しかし、出版はできないと。


 私は超えていきたい。

 かつての自分、売れなくってクビになった泉千花を。

 ただ、泉千花を殺したくはない。

 私が好きで、表現したくて現れる私のオリジナルを。Akitoさんやエレナちゃん、蓮君、秀一君が認めてくれた、好きと言ってくれた泉千花を。

 泉千花を残しつつ、私はそれを昇華していきたい。

 そう考えて、新しいペンネームを思いついた。


 泉万華。


 泉千花を残しながら、華やかにそれを超えていくペンネーム。

 このペンネームを見るたびに、私は今の気持ちを思い出そう。

 そう誓って、私は気持ちを新たにした。

 あと、前世の十倍売れたらいいな、なんて邪なことも思ったけれど。

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