第3話 売れっ子作家に、私はなる!
病室の窓からは、大きな木が見えた。
ねえ、聞いて? あの葉っぱが全部落ちる頃には、私の命もないの。
はい。すいません、嘘です。私が赤ちゃんだ。
何をバカしてるのかって? いや、許してくださいよ。
だって考えてもみてほしい。体は赤ちゃん、頭脳は大人ですよ?
暇で暇で仕方ないんですよ。やることは知らない天井を眺めるか、目の届く範囲で部屋の中と窓の外を見るか、マミーとダディ―に構ってもらうかしかないんですよ?
もうね、アホかと。バカかと。お前らな、もっと私に構えよと、ボケが。
すいません、嘘です。心から反省してます。本当にごめんなさい。
美しくて優しいマミーとダディ―には心の底から感謝してる。ただ言ってみたかっただけなんだ。どうかお一つ寛大な心でお許しいただきたい。
だって、本当に暇なんだもの。
ということで考える時間はいくらでもあった。強制的に。
なので私は考えた。
なにを? 私の未来をだ。
どうしてこんなことになってるかは考えないのかって? 知るか!
少しは考えてみたけど、考えて答えが出るわけもないし、答えが出たところで得するわけでもなし。大体昔から、私は過ぎたことをどうこうするのは苦手なのだ。
だったらこれからのことを考えた方がはるかに有意義だし、建設的だ。
ということで、考えてみた。
私は赤ちゃん。前途洋々、いくらでも未来と時間のある身だ。
ならば、その未来をどうしたいのか?
決まってる。
なりたかったものがある。
なれたけど、失ったものがある。
『……そっか。私、もう小説家じゃないんだ』
前世の最後の日、流した涙を私は忘れてない。
『もう失うものなんてない。なんだってやってやるんだからっ』
自分を奮い立たせた覚悟も、覚えている。
失うものがないどころか、無限の未来までもらったんだ。
これで誓いを果たせなかったら、嘘ってもんだろう。
やってやる。
絶対に今度こそ小説家として生き抜いてやる。
売れっ子作家に、私はなる!
そう心に誓った0歳の夏。
◇◇◇
そうと決まれば、この暇はありがたくもあった。
なにせ小説家の私が欲しかったものは一に才能、二に時間だ。
両方手に入れようがなかったものだけど、神様のプレゼントかそのうちの片方が嫌というほど手に入ったのだ。
これを活用しない手はない。
体が動かなくて執筆できないのは心底もどかしいけれど、物語を想像することは赤ちゃんの体でもいくらでもできる。ごめん、いくらでもは嘘だ。この体が疲れすぎない程度にはできる。
企画案はいくらあってもいい。散々没を食らった私が言うのだから間違いない。
だから私は考える。
ラノベ、コメディ、ミステリー、ファンタジー、SF、ホラー、純文学。
前世でも書いていたラノベがメインだけど、他も思い浮かぶ限りは幅広く考える。軸がぶれないようにメインは据えるべきだけれど、エッセンス程度にうまく他ジャンルを組み合わせている名作はたくさんある。ラブコメなんてまんま恋愛とコメディの融合だし。
ということで私は考える。
今日も今日とて、明日も明日とて考える。
人間は考える葦である。by 泉 千花。
嘘です。ごめんなさい。パクリです。
認めますからどうか石を投げないでください。
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